4.戦士選定

「今日は、飯を用意してある」


 スクラップビーストどもを倒して、喰らっていた日々だったが。ある日、看守長カリアスエルの奴が、突然そう言いだした。


「今日も、スクラップビーストをお与えくださって……」


 牢の中から、ガゾがカリアスエルに頭を下げようとするが……。カリアスエルは首を横に振った。


「その飯ではない。パンと干し肉、それにスープを貴様らに与える」


 牢の中でごろごろ転がっていた俺は、その言葉に跳ね起きて。

 牢の鉄格子に手をかけ、叫んだ! パンと干し肉とスープだと?! まともな飯だっ!!


「ほんとうか? カリアスエル!!」

「貴様……!! キリスタ様から与えられた、我が名を気安く呼ぶとはっ……!!」


 激昂の色を浮かべる、カリアスエルだが。


「申し訳ありません、看守長様。この者には、私が良く言って聞かせます」


 ガゾがそう言ったので、カリアスエルは少し気色を鎮めた。


「ふん。まあいい。今日の昼飯は、キリスタ様からの施しでな。『今日、戦士となるための試練に挑む者共への心付け』というわけだ。有難くいただくのだぞ」


 俺は。配られたパンと干し肉とスープをカツガツ食いながら。


 『今日、戦士となる試練に挑む者共』という、カリアスエルの言葉の意味を考えていた。考えていたが……。


 俺の考えは、まだまだ甘かった。

 どうせ、スクラップビーストと戦えばいいんだろう。

 それぐらいの事だと思っていたんだから。


   * * *


「では、始めろ」


 カリアスエルの野郎が、ふんぞり返って。闘技場の観客席から。部下の看守天使共を従えて、ニヤニヤ笑って言うのだった。闘技場の砂地の武舞台の上には、この前のように武器が積んである。


「……皆、武器を取れ」


 仕方ない、と言った表情で。ガゾが皆に指示を出す。


「ガゾ。何と戦うんだ今回は? スクラップビーストは出していないぞ、あのカリアスエルの奴は」


 俺がそう聞くと……。ガゾは、斧を構えて俺に言った。


「近寄るなエイタ。俺は、近寄る奴は叩きのめす。戦士選定の試練とはな。俺達異界からの召喚者のバトルロイヤルだ!!」

「?! なんっ……! だとっ!!」

「スクラップビーストを倒して食らい、力をつけてきた俺達。その中から、選り抜きの者のみを戦士と為す。わかったかエイタ。これが、神帝国キリスタリアのやり方だ!!」


 そう叫んだガゾに、俺達とは別の牢の連中が!! 武器を振りかざして打ちかかる!!


「ガゾォッ!! テメエをぶっ殺せばぁ!! あのカリアスエルも俺達を認めるっ!! テメェは死になぁっ‼ 今までスクラップビーストを散々狩ってもらって何だけどよぉっ!!」


 こいつらっ!! いつも、スクラップビーストを倒すときには後ろにいて動かず、ガゾや俺達が倒した後に肉だけを分けてもらって食ってたやつらだ!!

 行動や思考が腐ってやがる!! ガゾに襲い掛かるにしても、一対一どころか十対一くらいで襲い掛かってやがるじゃないか!!


「ふっ!!」


 うおっ!! ガゾが大斧をぶん回して。何の容赦もなく、襲い掛かってきた人間の首を吹っ飛ばした。次には、胴体を縦に両断!! やべえ、やべえよ、ガゾって!!


「エイタ!! 俺の方を見ていないで、お前も自分の身を守れっ!! 囲まれているぞっ!!」


 ガゾのその叫びに、気が付いたように俺が周りを見回すと。


「エイタ……。悪いが死ね。お前は、最近入ってきたやつだが。戦いの腕の伸びが著しい。悪いがガゾのような脅威になる前に。俺達の手で討ち取る!!」


 三人ばかりの奴らが、剣を手に俺に襲い掛かってくる!!


「馬鹿野郎ッ!! 俺を人殺しにする気かっ!! やめろ、来るな!!」

「人を殺したくなければ。エイタ、お前が死ねばいい! その方が俺達も助かる!!」

「冗談じゃ……ねぇっ!!」


 俺は、ここで。甘さを披露しちまった。槍の穂先で突いて、相手を殺すよりも。槍の柄で相手をぶん殴って無力化すればいいとか。

 そこまで力量差があるわけでも無い相手に、力量差が無ければできない事をしようとしちまったんだ!!


「ははははは!! どこの世界から来た奴かは知らねぇけどよ? エイタ、お前の生きていた世界は、随分と甘ったるい世界のようだな? 敵は殺せるときに殺す!! それが、どの世界においても鉄則のような物なのにな!!」


 他所の牢の、俺が名前も知らない三人の奴ら。向こうはなぜか、俺の名前を知っていて。目を見れば満々たる殺意。憎悪の色が何故か見える。

 そいつらが突っ込んできて……。


 はっきり言って、俺は殺すつもりはなかった。

 殺されてもよかったんだけど。

 脳裡に、ちーちゃんと息子の小彌太の姿が浮かんだとき。


 俺はなぜか、自分の身体がすっと軽くなり。


 気が付いたときは、その三人の男どもを槍で突き。


 殺してしまった後だった。

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