パーティカルプロダクション・ワールドストーリー ~召喚されたら特殊粒子生産世界で末端戦士に「ならされた」事~

べいちき

1.もはや通例儀式と言える事

 『神隠し』って、知ってるか?

 いや、アレだよ。人間が突然蒸発して、行方不明になっちまうこと。


 俺こと、鷺宮永太28歳妻子持ちは。

 その昔からの言い伝えの仕組みを、この日突然知ることになった。


「ふむ。貧弱な」


 俺を見て一言目に呟く、上半身の露出度が多い白い服を着た、水色髪ショートの女。

 ひどく美人ではあるんだが……。


「あんた誰だよ? そもそもここって。どこなんだよ?」


 俺はそんなことは関係なく、叫んでいた。

 この場所は、ひどく清潔に掃除されていて、埃一つない。

 白大理石らしき床石が敷き詰められた上に、やはり白大理石でできていると思われる柱が幾つも立っている。

 上を見上げると、すんげぇ高い天井が。

 青を基調とし、金で彩られたステンドグラスで装飾されていて。

 そこから射し入る陽光で、俺の立っている魔法陣らしき円形図形の中はとても明るかった。


「舐めた口をきくなっ!!」


 俺がさっき、叫んだ口調が気に入らなかったのか。

 その円形図形がある間に立ち並んでいた、四人の……。

 なんだコイツら? 背中から翼生えてんぞ?

 ともあれ、四人のうちの褐色肌に金髪おかっぱの野郎がぶん殴ってきやがった!!


「てめっ!! 何しやがるっ!!」


 俺は殴られて頭に血が上ったので。足払いを掛けてやった、が。


「ふん……。頭の悪い奴だ。この翼を見て足払いをなど」


 金髪おかっぱ野郎は、翼をはためかせて。

 宙に浮いて俺の足払いを躱す。


「まあ、歯向かう気を見せたのは立派だ。ご褒美にボコってやるかね」


 おかっぱ野郎め、俺の目の前で。

 突然出現させた、槍を旋回させて。

 突きはしなかったものの、ガンガン殴ってくる!


「やめろ、ウリムト。折角異界から召喚した戦士候補生を。潰す気か貴様は」


 先程の美人水色髪ショートが。あの褐色肌金髪おかっぱ野郎ことウリムトと言うらしい奴を止める。


「ガルベラ。そいつに剣を与えてみろ」

「はっ。キリスタ陛下」


 青い肌に白い髪の毛を持つ、やはり翼が生えた女。ガルベラというらしいが。そいつに命令を出す、水色髪ショート。あの女の名前は、キリスタか。


「異界よりの者よ。この剣を授ける。邪悪なる魔族の血を存分に吸わせるがよい」


 俺に、まあ。よくやってたRPGで言ったら、ロングソードに当たりそうな長さを持った剣を。革鞘ごと渡してくる、ガルベラ。


「……アンタらよぉ? 俺にはまったく状況が!! 呑み込めねぇんだけど?!」


 俺は、いい加減にたまった鬱憤を吐きだした。そうしたら、赤い肌に銀髪のロン毛パーマ野郎が進み出てきて口を開いた。


「ふん。俺が説明してやろう。我が名はミハリス。神帝キリスタ陛下の元で軍団の指揮を司る四大元帥の筆頭だ」

「……いっちいち。偉そうだな? アンタらは?」

「ふん。偉そう、ではない。偉いのだ、我らは。偉くて偉大!!」


 ミハリスがそう言うと。


「「「そうだ、我らは偉くて偉大!!」」」


 とか、ウリムトとガルベラ、それにあと一人の薄緑色の肌をした奴が拳を挙げて叫ぶ。コイツらちょっと、脳がヤバいな。頭が可哀想な感じだ。


「……で? 説明しろよ。俺は今、どういう状況なんだ?」

「貴様は、異界よりこのパーティカルプロダクションワールド。通称PPWに召喚された」

「アレか? 異世界召喚? ライトノベルでよくある奴か?」

「ライトノベル? ノベルという事は、書物か何かか?」

「ああ。一応書物だな」

「成程。まあ、我らは無作為に色々な世界から戦士候補生を召喚するからな。その不思議を記した書物が異界にあっても不思議ではない」

「んでよ? ミハリスさんよ。俺はどうやったら帰れんの? 明日、嫁とデートなんだけどよ、俺。大体、なんで我が家の晩飯のカレーの材料をお使いに行ったら。いきなり足元に魔法陣が現れて召喚喰らうんだよ全く!! ついてねぇ!!」

「帰れんよ」


 ケロッとした顔で言う、ミハリス。何だとこの野郎!!


「ざっけんな!! テメェら、どういうつもりだぁ!!」

「どういうつもりも、そういうつもりだ。貴様はこれより、神帝キリスタ様の尖兵になるという栄誉を受け!! 魔皇ナ・ミダスの手勢と戦う一生を送ることになる」

「嫌だって言ったら?」

「殺る」


 無茶苦茶だぁー!! こいつらの頭の中には、人権なんて言葉は存在しねぇ!!


   * * *


 俺は、あの後。頭にきてロングソードを抜いて振り回したら。

 ミハリスに剣で峰打ちされて。


「コイツには、言う事を聞かせるための手間がいる。とりあえずは手かせ足かせをつけて、地下牢に放り込んでおけ」


 という、とんでもなくひでぇ命令により。

 手かせと足かせを喰らって、地下牢にぶち込まれた。


「くっ……そ!! 何だってんだ!! 意味が分からねえ!!」


 俺が一人、檻の中で騒いでいると。

 どうやら、この檻の中には別の人間もいたらしくて、そいつらが話しかけてきた。


「……新入りか。あんた、名前は?」


 そう聞いてきたので、俺はまず答えた。


「エイタ、だ」


 そして、俺以外にもこのように異界から召喚される人間がいることで。

 これが向こうの世界から見たら、『神隠し』と言われる状態なんだろうなと。


 知ってしまった。

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