第3話 おむつ、しよっか


 駆け込んだ自宅。濡れたスカートを洗濯機に放り込んで、部屋に飛び入って私服を漁り。

 本当に女児服、それも女の子らしさに特化したゆるふわかわいい系しかないことに落胆しつつ、新しい女児ぱんつを広げて。

「……またおもらししたらどうしよ」

 深くため息を吐いた、その時だった。

「ただいま、お兄ちゃん……なにしてるの?」

「おきがえ。ねぇねは?」

「ちょっとね……ねぇね?」

 しまった、と僕は口を塞ぐ。

 危ない、服装――モコモコフリフリでピンクと白のしましまの部屋着の上だけまとった状態、かわいくないはずがないおうち女子モード――のせいか、自然と心がちっちゃい女の子になってしまっていたようだった。

「……ちっさ」

 下を見て顔を赤くしながら呟いた蘭。なんのことか……と一瞬考えて思い至り、僕は慌ててそれを隠した。

「小さくて悪かったな」

 どうせ僕は身長もチン長も小さいですよ。

「小さくてかわいくて好きだけど……」

「もうやめて、恥ずかしいから」

 変にフォローされると逆に恥ずかしくなる。そういうものだ。


「でも、着替えてなかったのね。ちょうどよかった」

 いつのまにか正気に戻ってきていた僕は、今さら蘭の姿を見る。

 ……小学校の制服のセーラー服。濃いピンクのツインテール。まとう雰囲気は華やかで明るい、普通の女の子。

 ランドセルを置いてどこかにいってたようだが……代わりに、なにか黒くて大きいビニール袋を抱えていた。

 脇に置いたそれの中身をガサガサと漁り……取り出したるは、ピンク色の分厚い物体。

「なに、これ」

「オヤスミマン」

「いまなんて?」

「だーかーらー、おねしょぱんつ! 小学生向けの!」

 見慣れないそれを広げると、確かにパンツの形になっていた。しかし、そのモコモコしたフォルムは普通の下着ではなしえない特殊用途を想定したもの。

「お兄ちゃん、私とだいたいおんなじ体つきでしょ? だから入るはず」

 ……確かに僕は一日ずっと小学生に紛れていても何ら不思議がられない程度に小柄で華奢だけど。

「でもそれ、女の子用だよね?」

「お兄ちゃん、女の子でしょ? 少なくともいまは」

 体と心は男だよ。それも成人男性だよ。

 言い訳をつけてそれを拒否しようとする僕に、蘭はお姉ちゃんらしく諭すように告げる。

「『りんちゃん』、これは学校でおトイレいけないりんちゃんのために買ってきたんだよ。……私も一緒にはいてみるから。ね、はいてみよ?」

 ……そこまでいわれたなら仕方ない。

 僕は無言でそれを手にとって。

 ピンクでモコモコで、よく見たらかわいい柄がついてるそれを、僕は眺めて……。

「はやくはこうよ、お兄ちゃん」

「あ、うん」

 恥ずかしいからちょっと待って……。

 言い訳する暇すらなく、僕はそれに足を通した。


「……お兄ちゃんめっちゃかわいい」

 一瞬思考が停止した。

 そのおむ……おねしょぱんつを腰まで引き上げた僕に対して、蘭が告げた言葉。

「じょ、冗談はやめてよ……」

 といって笑った僕に、彼女は首を横に振って。

「いや、冗談抜きで……ちょっとこっちに来て」

 僕の手を引いて、姿見の前へと連れ出す。


 あえてここで僕の姿について描写したいと思う。

 僕は華奢だ。それこそ、小学生と混じってもそこまで目立たないほどには。

 その上童顔で女顔だとよく言われる。髪も少し伸ばしていたほうが似合うらしい。

 そんな僕が、ピンクブロンドの腰まで届くロングヘアをツーサイドアップにしたウィッグを被って、かわいい部屋着を着て……その上で、下着はピンクの幼児向け紙おむつ。


 姿見に写し出された少女の姿は、それはもうかわいいとしか言えなかった。


「これが……僕……?」

 目を見開いてポカンとするその美少女に、後ろから蘭は微笑み、首肯した。

 少女の頬は薄紅に染まった。

 うそ……こんなにかわいかったんだ、僕……。


 バクバクと興奮し出した僕に、蘭は。

「あ、今日はこれからおトイレ禁止ね」

 告げられた言葉に、僕は一拍遅れて。

「……なんで?」

「これの性能を確かめてみたいんだもん。もうはいちゃったし、使わないともったいないでしょ?」

 確かに、これを一回も試さずに終わるのはなんかもったいない気もする。

 ……なお、このとき僕は自分の可愛らしさを目の当たりにしてしまったことにより正常な判断能力を失ってしまっていた。


「んっ……あぅ……」

 つんとした尿意が僕の下腹部を襲う。

「……お兄ちゃ、といれ……」

 蘭のほうは先に限界が来たようで、トイレのために立ち上がった……が。

 そんな彼女を僕はベッドに押し倒した。

「んっ……なんで」

「使わないともったいないんでしょ? ……一緒じゃないと、りん、はずかしいもん」

 ……彼女も一緒に、おむつをはいていたはずだ。パーカーの下は、僕と同じくピンク色の紙おむつ一枚。


 乱れたツインテール。荒い呼吸。喘ぎ声。

 鏡越しにみえる、寝転がった二人の少女。互いが互いを抱きあい、下腹から溢れだそうとする聖水を押さえ込まんと必死で喘ぐ。

 それは、扇情的な光景で。

(あっ……らめぇ……)

 限界は、不意に訪れる。


 しゅいい、と水音が聞こえた。


 押さえられたホースからちょろちょろと流れ出したそれは、次第に流れを増して、僕のはくピンクの下着の吸収体へと吸い込まれる。

 今日一日で、二回もおもらししちゃったんだ、僕。

「お兄ちゃん……わた、しも……あっ……んっ」

 蘭のほうも限界がきたようで。

 水音の二重奏は、しばらく続いた。


 翌日。

 小学校。二時間目、算数。

「これわかるひとー」

 こぞって手を上げるなか、一人の生徒が指される。

「大倉の、凛のほう。わかるか?」

「はい。予習してきたので」

 そう言いつつ、ピンクブロンドのツーサイドアップをどこか自信ありげに揺らし、その少女は黒板に向かう。

「なぁ、いまなんか聞こえなかったか?」

 しゅいい、という微かな音とともに。


 黒板に問題の答えを記述する少女。スカートの下。

 スパッツで隠された尻は、微かに膨らんでいた。


 その意味を――乙女の秘密を知るものは、この場には一人しかいない。

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