第16話

 でも、高いところは苦手だ! 俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。


 猛スピードでマルガリータの箒が飛んでいるのがわかる。しばらくして目を開けると、前方にラピス城の長い橋が見えてきた。


「もーうっ!! いい加減! 離しなさーーい!!」

「あ! ごめーん! わかったってーーー!!」


 マルガリータの控えめな胸を今まで必死に掴んでいんだな俺……。

 激怒したマルガリータは何故かハッとして、片手から下方へ火炎を放った。

 

 ラピス城へ繋がる橋の中央に火炎がぶち当たり、轟音と共に煙を巻き上げる。俺は驚いて橋を見ると、そこにはライラック率いる青い鎧の人たちが埋め尽くしていた。


 ラピス城側の数少ない普通の鎧の人たちは、皆降伏しようとしているか全滅寸前の状態だった。

 さっきマルガリータの放った火炎は、僅か二人のためだった。未だ戦っているのは白い鎧を着たソーニャと普通の鎧を着た大女だけだったのだ。


「鬼窪くん。さあ、行って! 私は後方支援に回るわ!」

 

 ライラック率いる青い鎧の人たちが、遥か下方からこっちへ弓を引いてくる。雨あられのような矢が飛んでくるが、マルガリータは難なく片手から発生する火炎で矢を振り払っていく。


「わかった!」


 俺は決死の覚悟で、わけもわからずマルガリータの箒から橋へと飛び降りた。


「って? ええ? 主力の間違いじゃないのか??」


 橋へと落下している間に、マルガリータの火炎弾は次々と射出され、橋で戦っていた1000人を超える青い鎧の人たちを片っ端しからふっと飛ばしていた。


 火炎弾が着弾した橋の至る所から立ち昇る凄まじい黒煙で目が痛かった。目を閉じて橋へと着地すると、すぐさま30人は優に超える青い鎧の人たちが俺に突撃してきた。俺は意外にも恐怖はまったく感じなかった。ハイルンゲルトから力を与えて貰ったからだろうか? それとも、手にした神聖剣のせいだろうか? 


 俺は目を瞑ったままだ。

 体が自然と動くんだ。

 気づいたら、辺りの爆炎の轟音と共に青い鎧の人たちの絶叫が木霊した。俺は自然に舞うように神聖剣を振っていた。


 一瞬で青い鎧そのものや鋼の盾すらも切り裂く神聖剣。

 橋の凸凹も気にしない俺の軽やかなステップ。

 向かってくる相手の動きが逐一気づけてしまう研ぎ澄まされた直観。


 それらが俺を最強にしていた……。

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