第53話  危険なラルキアクト

 ラルキアクトの目は赤く、今まで生えてなかった牙まで出て来て、黒い毛並みが更に艶やかになった。

 それと共に凶暴性が増し、口から黒い火の玉を反省室中に吐きまくっている。いくつかの黒い火の玉が、結界を壊してラルキアクトは、宙ずりだったところから、ポタリと床に落ちた。


 エリサとアリシアとレフの三人は、アリシアの張った水の結界で難を逃れていた。


 ラルキアクトは、こころなしか身体が大きくなっているようにも感じられた。


「あの黒猫ちゃん、大きくなってるわね」


「魔族の血を思い出してしまったのだろう」


 そう言って、三人は部屋を出ようと扉を開けた、その時にアリシアの手に鋭い痛みを感じた。

 ラルキアクトが、アリシアの手を引っ搔いて、悠々と扉から出ていったのである。


「母様!!」


「私は大丈夫よ。それよりも早く二人ともあいつを追いなさい」


「でも……」


「私の血を飲んで、あいつはまた魔族として強くなるわ。せっかく若長の血を飲んで、弱くなってたのに、あいつを怒らせてしまったのは、私のせいよ」


 アリシアは、残念そうに言った。


「よし、今くらいの力量なら、俺にでも倒せるかもしれない!!今はもう冒険者も勇者もいないんだからな」


「レフ自慢の大地のリドセルなら、一発よ」


 レフはアリシアの手当てをしながら、笑い合っている。

 余裕のようだ。


「父様、母様、ラルカは私が何とかするから手は出さないで!! 行ってくるわ!!」


 エリサが、反省室を出るとラルキアクトの歩いた場所は直ぐに分かった。

 いたるところに、黒い火の玉の飛んだすすの跡があり、神官や巫女たちは逃げ回って、部屋へ閉じ籠っていた。


 神殿の中庭で、エリサはラルキアクトを見つけた。


「ラルカ……。私があなたを元の世界へ戻してあげるわ。だから、これ以上暴れないで」


 ラルキアクトは、エリサの言葉が耳に入ったのか、その場で牙を引っ込めてお座りした。


《なら、早くして~~》


「一つ教えて、母様は大丈夫よね?ティランはイーリャ(光の神の愛称)の孫だから、大丈夫でも、母様は、普通の魔法使いなのよ」


《精霊族の親分の血を最初に飲んだから、僕の力はほとんどなくなったんだよ。少し返してもらっただけだよ》


「母様は?」


《寿命が何年か縮むんじゃない?》


「何年てかって何年よ!?」


《今の僕では、数年てとこだよ。丸ごと血を提供してくれるなら、元の力が戻るかもしれないけどね》


 エリサは、安心した。

 そして、風の騎士に縄を使って、ラルキアクトを捕縛するように頼んだ。


<承知>

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