第51話  ティランの血を飲んだラルキアクト

<ティラン様!!>


 風の奥方の叫び声に、風の騎士のリカルドと話していたエリサは、ティランの方を見た。

 二足歩行の黒い猫にティランが腕を噛まれている。


「――キャ――!! 何してるの!! やめなさい――!! お座り!!」


 不思議なことにラルキアクトは、ティランの手をかじることを止めて、大岩の中央に大人しく、座ったのだった。


 ラルキアクトから解放されたティランは、ホッとした表情を浮かべた。


「大丈夫? 魔族なんてどんな病原菌を持ってるか分からないわ!! 早くサントスに戻らなきゃ!!」


を置いてですか?」


「でも!!」


「ここにあなたを呼んだのは僕の責任です。いっしょに、過去の冒険者の話が聞きたかっただけなのですが……僕が思ってたよりもずっと、あなたの力は強かった……」


 そう言いながら、ティランは自分の上着のポケットから、ハンカチーフを出して、呪文を唱えた。水の精霊を喚んだのだ。


 その間もずっと、ラルキアクトの方を見ていた。


 やがて、ティランの咬まれた場所から、緑色の体液が出て来てたのを見てギョっとしたエリサ。ティランはホッとしたようだ。

「僕の方が勝ちましたね」


《なんだと、お前は何者だ?魔王になれる資格を持つ僕をこんな目に遭わせるなんて!!》


 ラルキアクトは、どんどん身体が縮み、子猫くらいの大きさになってしまった。


「光の神の子孫です。ついでに言うなら孫です」


 実に嫌味たっぷりな言い方で、ラルキアクトに言った。


《なんだって~~精霊族の親分じゃないか~~そんな奴の血を僕は飲んでしまったよ~~》


 黒い子猫が泣き出した。


 エリサが、ティランの腕を応急手当てをしていると、風の奥方の心底困った声が聞こえてきた。


<どういたしましょう……精霊族の血を飲んだ魔族は弱ると言いますし、ティラン様は、イリアス様のお孫様の血筋……。いくら、獣王族だとしても、一族に受け入れられるでしょうか……>


「アグネクトが魔王になってるから、名前の似ている君はその辺りの時代だね?」


《アグネクト? 鳥頭じゃんか!! あいつなんか、下っ端だよ》


「そうなんですね、魔族の序列は知りませんけど」


「ティラン、どうするの?」


 エリサも心配になってきた。


「エリサ、あなたの精霊の力で彼を捕縛して下さい」


 それを聞いたラルキアクトは、逃げ出そうとした。


「こら、逃がさないわよ!!リカルド、風の縄で捕獲」


<了解>


 かくて、魔王らしき者を召喚してしまったエリサたちは、リカルドの作った縄でラルキアクトを捕まえて、サントスの神殿に戻ったのだった。

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