第17話

「それにしてもこの廊下を1時間近く歩いているけどどこにもたどり着けないね。」と亜斗


「よくあるパターンだね。結界か何かで同じところをグルグル回っているだけかもね。」と宇都宮


「ちょっと試してみようか?」


と詩音が共鳴刀を壁に刺してみた。そうすると


「グオオオオオオオオオオオオ!」


と屋敷は音を立て、真っ暗な暗闇に包まれた。


「みんな、大丈夫か?」と墨田


「大丈夫です!」


とサウンドハンターの方々が答えた。


「私も大丈夫。」「俺も。」「俺もだ。」


詩音と亜斗と宇都宮が答えた。


「これが屋敷の正体か。異次元と言ったところかな。」と墨田


「しかし何も見えないな。」と亜斗


「音が完全に消えてる。色も見えない。」と詩音


「詩音ちゃんにも見えないのか。それじゃお手上げだな。」


「お前らも闇に落ちたようだな。」


と何者かが言った。


「誰だ?」と墨田


「私だ。夢堂だ。」


「え?まさかのラスボスがこんなに普通に登場?」と亜斗


「お前は闇に飲まれて暴走したんじゃなかったのか?」と墨田


「ああ、私は闇に飲まれた。しかしそれは私の毒を全部闇がさらっていって闇だけが暴走している。毒気が抜けた私は人畜無害に等しいさ。もともとこの日本の政治を保っていたのも私のおかげでもあるからな。まぁ、寄生してたのは事実だが、そこまでの悪さはしていない。ただ闇に侵されるのが問題なだけだったからな。どのみちこの国、いや、世界を統治する存在がいないと人間というものは暴走するものだ。だがそれについて回る闇をどう払いのけるのかが問題だった。私には闇に打ち勝つだけの力がなかっただけだ。そして今いるここが闇の世界だ。」


「じゃあ、私たちを襲ってきたり、敵対してきたものは全部、闇の部分だったってこと?」と詩音


「お前が観音堂の詩音か?まぁ、そういうことだ。私の毒気がそうさせていた。」と夢堂


「ということはここで俺たちは朽ちていくのを待つというのかい?夢堂。」と宇都宮


「まぁ、そういうことになるの。お前らが闇の世界の入り口を無理やりこじ開けてしまったからな。」と夢堂


「じゃあ、こっちから現実世界にまたこじ開けることができるんじゃね?」と亜斗


「それはできない。実態のあるものがこちらの世界にはなにもないからのお。」と夢堂


「じゃあどうやったら出られるの?」と詩音


「そうだな。やつは今、月にいて量子通話で人々を操り破滅へと向かわせている。やつを倒せばなんとかなるだろうが、やつを倒す前にここを出ないことにはどうにもできない。それに月になんて行けないからのお。」と夢堂


「ザザ・・・ザザザ・・・詩音・・・聞こえるか?・・・詩音・・・」


どこからか声が聞こえてきた。


「この声は?もしかして詩依おばあちゃん?どうして話ができるの?」と詩音


「・・・観音堂には水鏡という・・通信方法が・・あってな・・・話すことができるんじゃ・・。」


と詩依が言った。さらに続けて


「・・・夢堂を倒すには・・魂のみを月に送り・・・魂で作った共鳴刀で・・・あやつを倒すんじゃ・・・しかし・・・月はほぼ真空・・・よって・・・音は伝わらない・・・攻撃を当てた瞬間に・・・音を伝えるのじゃ・・・」


「どうやって魂状態になるの?」と詩音


「・・・魂になるには・・・共鳴刀で自らの胸を・・・刺すのじゃ・・・死んだり・・・痛かったりはしない・・・仮死状態に・・・なるだけじゃ・・・魂になれば・・・自ずと‥行く場所が・・わかる・・・」と詩依


「となると、共鳴刀を扱うのは詩音ちゃんと亜斗か。二人とも行けるか?」と宇都宮


「俺たちがか。」と亜斗


「私はそういう運命だからね。なんとなくはそういうの分かってた。」と詩音


「と言っても自分の胸を刺すのは怖いね。」と亜斗


「じゃあお互いを刺そうか?私は亜斗なら大丈夫。」と詩音


「俺も詩音なら大丈夫。」と亜斗


お互いこくりとうなずき共鳴刀を手にした。


「いくよ!」


「こっちも!」


そう言って二人はお互いの胸を刺した。そして崩れ落ちるように二人は横たわった。


「おい!二人は本当に大丈夫なのか?」と墨田


「・・・大丈夫じゃ・・お前らも・・・わずかながら・・・尽力するのじゃ・・・祈れ・・・」と詩依


「は!死んでる俺が見える!」と亜斗


「仮死状態って言ってたじゃない。それより月に行かないとね。」と詩音


「あ、なんだか行くところが分かる!」と亜斗


「あと、共鳴刀を作らないとね。魂の状態でイメージすればいいのかな?えい!」


と詩音がイメージすると『我お主に力を与えん』という声とともにとても綺麗な日本刀が詩音の手に現れた。


「これが私の魂の共鳴刀。綺麗。」と詩音


「よし!俺も!」


と亜斗がイメージすると同じく『我お主に力を与えん』という声とともに大きく鋭い刃を持つ斬馬刀が亜斗の手に現れた。


「えええ!俺がこんなにも立派な武器を?」と亜斗


一方、現実の世界はと言うと、一般市民が暴徒化し、商店などから商品を奪ったり、殺人、強姦、ありとあらゆる罪が犯されていた。夢堂の支配は一応そういったものに対する抑止力はあったのだろうが、自分が甘い汁を吸うために使った闇の力の代償はこんなにも重いものだった。なんとも軽く滑稽なものなのだろうか。それよりも人間というものは支配をされているほうが幸せなのだろうかと考えさせられるものでもある。


「さあ、月へ行こうか、亜斗。」と詩音


「行こう、詩音。」と亜斗


そう言って二人は行きつくところをイメージして飛び去った。

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