物理系魔法少女、骨なので口臭は無いようです

 「転移魔法はとても難しい魔法ですわ。闇の中でしかもそんな短期間では不可能」


 俺の知り合いに、居候にそれをやれそうな人がいるので納得しかねる。


 だけど話の鼻を折ってもいかんので、聞き耳を立てる。


 まだ魔法陣から落ちて来たドラゴンは動き出してないからだ。


 「転移に近いですが、それとは違う。自分を魔法の一部として、顕現したんですわ」


 「デメリットのある転移って事じゃね?」


 「そうですわね。その表現の方が分かりますいかもしれませんわ」


 てかそれじゃね?


 自分を魔法にして使って、闇の中から出ました。


 それよりかは、自分の身体が燃えるデメリットのある転移を使って出ました、の方が分かりやすい。


 どっちにしろ脱出された事には変わりないし、俺の攻撃が決まらなかったのも同じだ。


 過程なんてどうでも良いんだ。結界が全てだから。


 その結果をどうやって俺達が有利に運ぶかを考えるべきである。


 「さっきのはもう一回できたりする?」


 「しますが⋯⋯燃費が悪いと思いますわ。同じように脱出されたら意味ありませんし」


 それもそうか。


 意味のある攻撃ってのも中々に難しいモノだな。


 そろそろ立ち直って来たドラゴンに向かって俺はスタートを切る。


 右フックを顔面に伸ばすが、飛ばれて回避され意味がなかった。


 やっぱり飛ばれるのは厄介だな。


 「とりあえず跳ぶか」


 「わたくしがお手伝いしますわ」


 動きをどうにかして、大きめの一撃を当てるしか俺達に勝ち目は無い。


 デバフなどを扱えないのが辛いところだ。


 シロエさんの闇がトランポリンように形を変えたので、それを使って高く跳んだ。


 ドラゴンは俺に魔法を放ちながら離れるように飛び去る。


 『学習されてますなぁ』

 『近接で攻める時は確実に連続攻撃ができる時かな?』

 『魔法は攻撃じゃなくて牽制目的か』


 形のある魔法だったので、それらを足場にして接近する。


 一つだけ右手に持っているので、それをぶん投げる。


 熱さはかなりあるが、もうあの熱さなら大丈夫だ。


 俺の投げた球速は二百は軽く超えているだろう火球になって、ドラゴンに軽く命中した。


 落下して行くのを感じつつ、ステッキを足蹴にして進む。


 「アカツキさん。これを使ってください!」


 シロエさんが闇の円盤を俺に向かって投げてくれたので、それを足場にしてさらに加速する。


 空を自由飛行するドラゴンに対して俺ができる攻撃は複数の足場を使ったジャンプ移動からのパンチ。


 予備動作や足場が小さいので動く方向が決まり、ドラゴンは予測して回避して来る。


 「来るっ!」


 シロエさんの魔法を結界で防ぎつつ、俺には爪を輝かて迫って来る。


 そろそろ尻尾での攻撃が来ると思い身構えると、それを察してかそれとも計画的か。


 ドラゴンはそのまま爪での攻撃を仕掛けて来る。


 だが、それはそれで予想通りであり、バットに見た目を変えたステッキで弾く。


 落下するなんてのは嫌ですなので、ステッキを鞭のようにする。


 「ほれ、絡みつけ!」


 相手の骨だけになった腕に向かって鞭を伸ばし、絡ませて引っ張る。


 引っ張った力を利用して俺はドラゴンの背中へと着地する事に成功した。


 『乗った!』

 『でも足場不安定じゃない?』

 『すぐに振り落とされそう』


 俺は一度、骨だけの魔物の背中を猛ダッシュした事がある。


 その時の敵はめっちゃ大きいので、足場のサイズに困る事はなかったけど、今回はそこまで大きくない。


 少なくとも安定した足場とは言えないな。


 しかも、グルングルンと回転して俺を振り落とそうとする。


 しっかりと骨を掴んで落ちないように自分の身体を支える。


 「何とか取ったぜお前の背中」


 俺は頭をできるだけ高い位置まで上げて、強く垂直に振り下ろす。


 ズゴンっと言う重たい音が響き渡り、骨にヒビが入る。


 「これを何回続けたらお前は倒れてくれるんだ?」


 そう言って笑みを浮かべると、額から赤い液体が垂れた。


 これはあれだな。


 ドラゴンの身体を頭突きで破壊するよりも先に、俺の頭が砕けるわ。


 血を自覚したら力が抜けたのか、急に加速したドラゴンの背から落とされる。


 「せめて拳の一撃は与えたい!」


 俺の願いが叶ったのか、ドラゴンが俺の方に迫って来る。


 振るわれる爪はフェイク、かと言って尻尾の攻撃をしてくる訳じゃないな。


 何回も攻撃を受けて来ているんだ。攻撃パターンと予備動作は俺だって学習する。


 今回の攻撃は⋯⋯口を開いた突進!


 「オラッ!」


 食われないように全身で口を閉じさせないようにする。


 口を全力で閉じようと力を込めるドラゴンだが、その噛み付く力では俺の力は突破できない。


 それが分かったのか、ドラゴンは一旦上に飛び、急降下する。


 「まずいまずい。非常にまずい」


 額の傷は塞がっているが、相手の骨も治ってるな。って、悠長に考えている場合じゃない。


 このまま激突するのは避けたいぞ。


 かと言って、俺を逃がしてくれるような力はしてないな。クソめ。


 ⋯⋯大丈夫だな。


 だったら俺がやる事はドラゴンに確実に地面に突っ込んでもらうため、力を込め続ける事だ。


 確実に地面に押し付けないとやばいと思わせる。


 「突っ込めやあああああ!」

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