物理系魔法少女、正式に新婚

 今晩の食卓はなんかしんみりしている。


 秘書さんは仕事が忙しいのか帰ってきておらず、ユリアさんはスマホの画面を見て心配そうに俯いている。


 紗奈ちゃんは拗ねているのと怒っているのと、その中間くらいの表情でご飯を食べている。


 そんな重い空気の中食べる料理は不思議と美味しさが下がっている気がする。


 いやね?


 それでも普通に美味しいんだけど、やっぱりいつもとは違うって感じるの。


 「あの、お二人とも何かありましたか?」


 俺も今日の昼くらいに命を狙われたが、それは大した問題では無い。


 紗奈ちゃん達に笑顔がない方が深刻な問題だ。


 最初に口を開いたのはユリアさんだった。


 「ずっと凹んでいる教え子がいてね。慰めてあげたいんだが会ってくれないんだ。学校も休んでいるらしいし、心配だ」


 「なるほど。それは心配ですね」


 「ああ。どうしたら悩みを打ち明けてくれるんだろか? 辛い時は誰かを頼った方が、気が楽になると言うのに」


 ユリアさんが本当に心配そうな声で呟く。箸の進みも遅い。


 チラリと紗奈ちゃんの方を見ると。


 「厄介事の仕事がいつかありそうで⋯⋯」


 「そんな深刻な事かな?」


 言っては悪いが、ユリアさんの後だからとてもしょうもなく感じる。


 だけど紗奈ちゃんらしいので、悪いとは思わない。


 少し頬を膨らませて、ムーっと見上げて来る。


 「新婚の時間を奪われてそうで、嫌なのに」


 かわいいかよ。ちなみにその言葉はユリアさんの心にも突き刺さった。


 実際もう慣れてはいるが同居人が二人も居ると言う異常事態だからね。


 しかもその二人は容姿端麗だし。


 だけど紗奈ちゃん以外に目移りする事は無いし、ユリアさんに関しては本当に嫌とかダメとか思った事はない。


 秘書さんに対しては時々だが思っている。


 「⋯⋯新婚って言っても、まだ婚姻届出してないけどね」


 俺がそう言うと、紗奈ちゃんは表情を変えずにフォークを肉に突き刺した。


 「ん?」


 「いや。もう結婚する事は確定してるし、新婚かぁ。あはははは」


 「ん!」


 一文字だけでも分かってしまう心境の変化。


 翌日、紗奈ちゃんは休みなので二人で市役所に紙を提出しに向かう。


 提出したら、今度は指輪を見に行く。


 今なら高くても購入できるだけの収益はあるので、好きなのは選べる。


 ネックレスと同じ宝石が良いと思っている。


 後は紗奈ちゃんに似合うのがあるかどうかだな。


 「探索者の人って、どんな指輪とかあげるとか知ってる?」


 「そうだね。同僚の話とかになるんだけど。探索で手に入れた指輪とかを送ってるらしいよ。レア物だとそこらの宝石の指輪よりも高いし、もしかしたらの保険になるし」


 「確かに。ダンジョン産なら能力とかあるもんな。機能性的にもありか」


 俺の心が少し揺らいでいると、強く紗奈ちゃんがぶつかって腕を絡めて来る。


 まるで何かを訴えかけているように。


 「そうだね。やっぱり結婚指輪は宝石が良いよね」


 「うん! 前の奴は、私のミスで壊れちゃったし」


 「気にしなくて良いよ。だから前と同じ宝石なのを目安にしているし」


 重要なのはそこである。


 どんだけ高くても、想いがこもってなきゃ意味が無い。


 派手でも意味ないし、ダイアだろうが意味は無い。


 言ってはアレだが、それだったら紗奈ちゃんは自分で買える。


 探索者らしく、取って来た物を性能重視で与えたところで、紗奈ちゃんには必要ない。


 それだけ普通に強い。


 店に入り、店員に条件を話して、いくつかの指輪をみせてもらう。


 オーダーメイドとしても注文できるらしい。


 ただ、なんか少しだけ勘違いされそうな気がしている。


 今は目立たないためにアルファの状態で来ているからだ。


 そんな女性の姿で、紗奈ちゃんのために必死に指輪を選ぼうとしている。それも結婚指輪。


 別に今時、同性婚は珍しい事じゃないが、この辺に住んでいたら変な誤解をされそうだ。


 ま、気にする事では無いか。所詮一人の目だ。


 気にしたところで何かが変わる訳では無いし、神経質になっても意味が無い。


 結局、気に入る物は見つからなかったのでオーダーメイドでお揃いのを頼む事にした。


 リングには名前を刻んで貰う事に。


 無難に名前のローマ字にした。


 後は完済するのを待てば良い。


 俺達はより道をしてから、家に帰った。


 帰ったらすぐに変身を解除して、身体の重みにため息を吐く。


 「星夜さん!」


 「どったの?」


 紗奈ちゃんがいきなり抱きついてきて、バランスを崩して尻餅を着いた。


 痛みで尻を擦りながら紗奈ちゃんの肩に触れると、少しだけ震えていた。


 「実は市役所のところで、適当な言い訳して逃げ出すかもって、不安になってました」


 「ありゃりゃ。自業自得とは言え、凹むな」


 「ごめんなさい。でももう、絶対に疑わない。心配しないし」


 「そっか。ありがと」


 俺は紗奈ちゃんの頭を撫でる。


 「だからさ、星夜さん。ダンジョンを出る時にポーションを使って匂いを消そうとか、もうしなくて良いよ」


 「バレてた?」


 「だって星夜さんの匂いと変な匂いが入り交じってるからさ。分かるよ」


 うーん。俺は分からん。

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