物理系魔法少女、報告書を書く

 「あぁ腕いてぇ」


 今はなんと、午後の四時。


 こんな怠惰な生活をして良いのだろうか? 良いのである。


 なぜなら俺は今、自由な職業探索者なのだから。


 ま、そんな冗談はさておき、俺はリビングに向かうために歩き出す。


 一歩を踏みしめる度に身体の節々が軋むように痛い。右腕なんてボロボロだ。


 不思議だよな。


 このダメージは多分、あのミカエルと一撃打ち合っただけだぜ?


 天使と俺の力の差ってめっちゃあるよ。


 あれで俺は天使の敵判明されたら厄介だな。悪魔も信用できないし。


 アオイさんにあんな事したんだ。信用なんてできない。


 「おはようございます。それとこんにちは」


 「起きたか」


 ユリアさんがリビングでみかんを食べていた。


 「紗奈ちゃん達は仕事?」


 「そうだね。全国のギルドが中立ダンジョンを継続させるために大忙しで森の修復に入ってるよ。話を聞かせてもらおうか」


 ユリアさんが書類を見せてくれる。報告書を書けと。


 椅子に座って、紗奈ちゃんが用意してくれただろう軽食を食べながら説明事項に目を通す。


 「内容は理解したんですけど、始末書?」


 「読むの速いな。君が問題事を起こした訳では無いけど、ギルド的には必要な事らしいよ。あまり気にしないで問題ない。それに幻の精霊も安全確認したいだろうしね」


 優しさなのだろうか?


 死んでないってのは分かっていると思うけど。


 ペンを動かして、報告書を書いていく。


 始末書はまだだ。


 「この始末書を書いたら、大まかな責任を擦り付けられたりしませんか? 何かを隠そうとして⋯⋯」


 天使とか天使とか、あと天使とか。


 それに俺も聞きたい事がある。


 アオイさんとミドリさんがどうなったかだ。


 ミカエルが消えた瞬間に俺は糸が切れたように意識を暗闇に落としたのだ。


 だからその先の事を知らない。


 「そんな事は無いと思うぞ。多分な。損は無いよ」


 「本当ですか?」


 「本当だよ。精霊を外に連れ出した、としても始末書さえしっかりしていれば、きっとギルドは問題ない事にしてくれるさ。経緯が知りたいんだよ経緯が」


 精霊を連れ出した?


 精霊は確かに中立とされているが、魔物なのは変わりない。


 魔物を外に連れ出した⋯⋯ってそれやっちゃいけないやつ!


 「えっえっ。俺普通に家に居るんですけど良いんですか?」


 「まぁ、大丈夫じゃないか?」


 ユリアさんがテレビを付けてくれる。そこでは紗奈ちゃんが受付をしているギルドが映っていた。


 ニュースがやっており、問題映像って感じで流れた映像に目を飛び出す。


 幻の精霊が俺をおんぶしてゲートから出て来たのだ。


 それについて言及を求めるマスコミ達⋯⋯あ、俺達のマンションも映ってる。


 「しかたない事か」


 「そうだね。ダンジョンを嫌う人達も少なからず存在する。その人達に再び火がついてしまった」


 精霊は中立、こちらから襲わなければ何もしない。


 敵対する魔物も極端に少なくて、安全なダンジョンとされている。


 だからゲート付近に自衛隊のゲートが設置されておらず、自衛隊の人達はいない。


 それがダメだと言われ始めてしまう。それだけでは無いだろう。


 いつ牙を向けるか分からない。だと言うのに、ゲートを普通に通過できる。


 精霊が暴れない保証は無い。


 「一番の問題は魔物でもゲートを使える事⋯⋯本来は入ったところに出るはずなんですけど、なんで精霊はゲートを使えたんですか?」


 「君を背負っていたから、それとゲートの繋がる魔力を通って来れるから⋯⋯精霊並に魔力に精通した魔物なら自由にゲートを行き来できてしまうんだよ」


 はぁ。


 アオイさんの事で心の中ごっちゃごっちゃなのにこんな面倒事が⋯⋯幻の精霊にはちゃんと届けてくれて感謝しているけど。


 それと、ミカエルに魔法を撃たれていたけど、生きてて良かった。そこはほっとした。


 だけどさ。


 「なんでカメラに向かってピースしているんですか⋯⋯」


 「精霊にも個性があるからね。うん。まぁ、おちゃめなんだよ」


 これからどうなる事やら。


 せめてアカツキに問題を押し付けられたら良いのだが、悲しい事に俺の素でテレビ放送されてる。


 紗奈ちゃんと精霊の口喧嘩もしっかりと。


 始末書、書こうか。ギルドの皆さんごめんなさい。


 色々と書く。


 アオイさんについて報告しても良いのか分からない⋯⋯悪魔云々言ったところで意味あるのか?


 「精霊達はなんか言ってましたか?」


 ユリアさんが紅茶を一口飲んで、全てを知っているかのような目を向けてくれる。


 優しくも冷たい目だ。


 「炎の化身が暴れていた、とね」


 「なるほど。確かに炎の化身でしたね」


 ならば俺もそう書けば良いか。


 嘘は言っていないので、俺に罪悪感はありません!


 つーか、実際なにが起こったか察してそうだしな。本部長とか特に。


 「さて、今晩はかなり辛いぞ」


 「え?」


 「朝起きたら星夜さんが居ない! って少しプンプンしてからな、紗奈。結構魔法を抑えていただろ? 頑張ったんだ」


 「それは嬉しいですね。夜逃げの準備をします」


 「⋯⋯すまない」


 俺は自分の部屋に行き、タンスなどを漁って荷物を探したが、何も無かった。


 スマホも、カバンも、財布も、服も全てだ。


 「⋯⋯まじやばくね?」

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