物理系魔法少女、人間はゴリラよりパワーが弱い、しかし俺は魔法少女だ

 「妖精が荒れているってどう言う事ですか?」


 「そのままの意味じゃ。精霊になる前の妖精には良く見られる現象じゃな。久しい精霊進化じゃ。主はついておるぞ」


 そんなの知らん。知らんもんに興味も沸かないから嬉しさがあまりない。


 幻の精霊の後ろを全力で走って追いかけて、妖精が荒れている場所に到着した。


 そこでは魔力っぽいモノを歪ませて纏っている小さい何かが居た。


 あれが妖精なのだろう。


 精霊とは違い、漫画とかでも見る小さな妖精って感じでありかなりメジャーな見た目だ。


 「他には精霊が居ないんだな」


 「属性が違うからじゃろ。つまりはあの妖精はわらわと同じ属性じゃ」


 「そうか。俺にできる事は?」


 「そうじゃな。暴れだしたら止めておくれ。主は精霊を物理で抑えられるからの」


 便利な人って扱いで良いのかな?


 まぁ構わないが。


 その後は無言で妖精が姿を変えるのを見ていた。


 しかし、幻想的になり始めた進化を邪魔するように魔物が集まって来る。


 妖精から溢れ出す魔力を喰らいに来たらしい。


 その魔物達を倒しながら妖精の観察に移る。


 時々魔法が飛んで来て、空に向かって蹴っていた。


 「不思議なモノじゃな。本来魔法なんてのは蹴れないどころか触れる事もできん」


 精霊でも魔法に直接触れる事はできないのか?


 「正確には、触っていると身体が蝕まれるのじゃ。ダメージを受ける、と言った方が分かりやすいかの?」


 妖精の身体が大人の女性に近づいていき、魔力が緩やかになっていく。


 進化が完了したのだろう。


 妖精⋯⋯いや、精霊は俺の隣に居る精霊に深々と頭を下げた。


 「進化おめでとう。精霊の泉に入る許可をわらわが認め与えよう」


 こくりと頷いて、彼女は泉の方と思われる方向に向かって飛んで行った。


 「喋れないの?」


 「人語を喋れるのは、長い時を生き、加護を与えられるレベルの上位精霊だけじゃ。わらわのような!」


 「強調するな」


 「新入りは雑用しながら己のエネルギーを拡張する事に勤しむのじゃ」


 このまま天使の話に移りたいと思ったのだが、精霊の顔は未だに険しかった。


 「さて、主には今からとある魔物と戦ってもらうのじゃ」


 「なんでよ」


 「妖精の進化と魔物の凶暴化は古来より一緒なんじゃよ。ほれ行くぞ」


 精霊の案内の元、木をなぎ倒すゴリラのところに到着した。


 「本来はわらわの仕事じゃが、主がやってくれるの?」


 「⋯⋯はぁ、しゃーない」


 俺はゴリラに向かって駆け出した。


 かなり平和で、妖精を襲おうとした魔物も大して強くは無かった。


 しかし、何事にも例外とは存在する。


 暴走しているゴリラなんて、まさにその例外だろう。


 だと言うのに俺は何も考えず突っ込む。


 そして思う。いつもの事だったわ。


 「挨拶はパンチから!」


 「ウホッ!」


 「グッ」


 吹き飛ぶ俺。


 さすがはゴリラだ。かなりの怪力である。


 ゴリラと人間のパワーなら当然ゴリラの方が強いだろう。


 だが、今の俺は人間ではあるが魔法少女だ。


 「わははは! めっちゃ吹っ飛んでる! ちょーウケるんじゃ!」


 「お前! 前に殴った事根に持ってるだろ!」


 「殴られて根に持たぬ奴なんておらんじゃろ!」


 それは⋯⋯確かにそうだな。


 「すみません」


 とりまゴリラを一発殴るために走る。


 一発目のパンチを避けて、反撃の蹴りを突き出す。


 かなりの感触があるのだが⋯⋯倒れるどころかズレる事すら無かった。


 「ぬあああ!」


 掴み上げられて、地面に向かってタオルの様に叩き落とされる。


 だけど、簡単に地面には埋まらない。


 「しゃっら!」


 振り下ろされる勢いを利用させて、地面をぶん殴る。


 その衝撃で俺は地面に当たらないし、手も離された。


 「ステッキ!」


 バットを握って、脳天に向かって振り下ろす。


 確かなる感覚を得られた。


 だったら、ゴリラが倒れるまでこいつでぶん殴る!


 「オラオラオラァ!」


 「⋯⋯飽きてくるのじゃ。それに森が壊れる⋯⋯」


 「文句言うなら、俺にやらせれるなああああ!」


 それから数時間殴り続けて、ようやく倒せた。


 もう天使について聞ける気分はしてないので、今日は帰る事にした。


 昼飯も食べたいしね。


 「それじゃあの」


 「ああ。また今度ね」


 「ゲートは向こうじゃぞ」


 別に迷いそうになってないからな!


 俺はゲートを通ってギルドに戻った。


 受付を通して、家に帰り昼食を食べる。


 やっぱり家で食べる時、紗奈ちゃんが居ないと寂しいな。


 「二人で食べる食事に慣れすぎたなぁ」


 紗奈ちゃんが居ると居ないとでは食事の味も違う気がする。


 最近はもう一人増えているけど。


 「ん? スマホになんかメッセージが入ってるな」


 なになに?


 ユリアさんがそっちに行くから家の中に入れてあげて⋯⋯か。


 ん〜?


 普段の紗奈ちゃんからは考えられない文字なんだけど?


 「それだけ大切な先生なんだろうな」


 さて⋯⋯どのタイミングで来るんだろうか?


 とりあえず外で見ておくか。


 紗奈ちゃんが頼むんだから、多分泊まる場所が無いんだろう。


 ⋯⋯この辺泊まれるホテル無かったっけ?


 ま、良いや。


 ドアを開ける。


 「あたっ!」


 誰かにぶつかってしまった。


 「あ、すみません」


 倒れた彼女の手を握って、起き上がらせる。


 手をこちらに向けていたので、引っ張ったが⋯⋯さすがに失礼だったか。


 急いで下げた。


 「すまない」


 「いえ。こちらこそいきなり開けて、すみません」


 「⋯⋯ん? 今君、手を触らなかったか?」


 「え? あ、はい。ごめんなさい」


 ユリアさんが呆然として、俺の腕を握った。服に触れないようにしている気がした。


 「⋯⋯君は、紗奈達みたいに特異体質のようだね。なら、安心だ」


 「え?」


 彼女の儚げな目に、俺は疑問を隠せないでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る