物理系魔法少女、変身がスムーズである

 「さーて、何かできる事は増えてるかな?」


 まずはやっぱりこの姿を変える力だろう。


 アオイさんの中では姿を変えるのを魔法の一種だと思っている。


 もしもその仮説が正しいのなら、もしかしたら何かしらの影響があるんじゃないか?


 「お?」


 なんとなくだけどスムーズに変える事ができる気がする⋯⋯それとなんとなく、細かい細部まで意識できる。


 例えば脇毛とか⋯⋯高校生が普通らしいので、この辺はやめておこう。


 やろうと思えば、髪の毛一本一本も意識できる。


 そして筋肉量などもだ。


 より細かく繊細に自分の姿を変えられる。


 それだけじゃないな。


 前から欲しかった、姿を保存して瞬時に出せるような、プリセットシステム。これが増えている。


 本能かなんなのか、意識するとはっきりと分かる。


 「これでロリアカツキとノーマルアカツキがスムーズに変えられるな」


 それだけじゃないな。


 大きなお姉さんにもなれるし、プライベート用の姿も用意できる。


 力の方はあまり増えて無さそうだな。


 「走って姿をいじるか」


 走りながら自分の姿を変えたらどうなるかを試してみる。


 うん。綺麗にコケた。


 身長が急に変わればそうなるな。


 「でも、これは使えるぞ。練習するか」


 姿を変えながら移動するのがちょっと楽しくなってしまった俺は、稼ぐ事をすっかり忘れていた。


 そんな事を木が生い茂るダンジョンの中でやったらどうなるか、答えは簡単だ。


 迷子になった。


 「⋯⋯と、とりあえず弁当を食べよう」


 最悪ここから迷子配信をして、コメントを頼りに帰ろう。


 あ、その企画ありかもしれん。


 俺のバカさが世の中に露呈する以外は⋯⋯。


 「えっと、この辺だと思うんですがね」


 「⋯⋯ッ!?」


 お、音の使徒がどうして?


 身体が本能的に動いて隠れてしまった。


 ば、バレてないよね? あ、姿を変えれば分からないかもしれない。


 よし、大学生くらいの女の子をイメージして、地味目をイメージ。


 ステッキをメガネにして、装備。


 「おや? こんなところでどうしたのですか?」


 「あ、いえ。す、少し迷子で⋯⋯」


 「なるほど。あっちの方にまっすぐ行けばゲートですよ。それよりこの辺は危険ですので、帰ることをオススメします」


 お、優しいな。


 でもアオイさん達のような高校生に手を出す男だからな⋯⋯安心しちゃならん。


 その分も含めて、今の油断しているうちに一発くらい殴ってやるか?


 「どうしましたか?」


 「い、いえ。その、アナタはこれからどちらに?」


 「ええ。ある人達と会いたくてですね。多分この辺だと思うので⋯⋯」


 「そうですか。それでは。ありがとうございます」


 後ろを警戒しながら、俺は言われた道に向かって進んだ。


 ある程度の距離を取ったら、アカツキに戻り元来た道を戻る。


 すると、アオイさんとミズノを発見した。


 何か⋯⋯いや、誰かと戦闘中の様子だ。


 「前のようにはいきませんわよ!」


 「ミズノが倒す!」


 そんな声が聞こえた。


 うん、ちょっとした予想通りと言うべきか。


 音の使徒って魔法少女の居場所を把握しているのか? もしかしたら、俺も分かってた?


 「全然成長してませんね。それじゃ、わたしのような最弱の使徒にも勝てませんよ」


 「うるさいですわ!」


 炎の魔法が使徒に向かうが、音の衝撃波とやらで相殺される。


 ミズノの剣筋も全てが読まれているかのように躱されて、当たる気配がしない。


 圧倒的実力差を感じる。


 ミズノの細かい魔法も避けられているし。


 「それでは、そろそろ反撃といきますか」


 「その前に、俺も入れろよ!」


 ステッキを本来の姿でぶん投げる。


 ギリギリのところで躱されたか。


 「何故アナタが!」


 お、気づいてなかったのかな?


 「ま、良いや。子供相手に大人が攻撃して、何が良いんだよ」


 その質問に彼は何も答えなかった。


 「アカツキさん、どうして!」


 「たまたま!」


 俺は地を蹴って使徒に接近した。


 前の戦いで攻撃は基本当たらない事は覚えている。レベルが上がったからと言って、アオイさん達の攻撃が当たらないなら俺も当たらない。


 だけど、一人増えたら躱す為に神経を使うだろ。


 「行きますわ! ミズノ!」


 「うん!」


 俺とミズノが並んで向かう。


 「ふんっ!」


 手の平を向けられて体全体に何かが広がる。これが前は分からなかった。


 だけど今は分かる。これが衝撃波。


 だったら、歯を食いしばれ!


 「ぐぎぎぎ」


 「おや?」


 「音だけの衝撃波で、俺は吹き飛ばねぇ!」


 返しは全力の拳だ。


 避けられても構わない。少しでもダメージを与えれたらそれで良い。


 だから全力で突き出せ!


 「ふっ!」


 大きくステップされて躱す。だが、その場所にはミズノが居る。


 「水の魔、付与、水刃!」


 「ほい」


 舞う刃をひらりと躱す、その場所に大量の火炎が飛来する。


 バックステップで躱すなら、俺が行く。


 連携はカバーのしあいだ。


 「無音」


 「俺は聞こえる⋯⋯」


 誰にやったか分からない。だけど、目が見えているなら問題ないだろう。


 「そい」


 使徒の指パッチンが爆発した様に音を広げる。


 舞い上がる土煙が俺達の視界を塞ぎやがった。


 「音を操る力でここまでやるか」


 まずい。この中で誰が音の聞こえない世界に入ったか分からない。


 「聞こえていたら返事してくれ!」


 しかし、返事はなかった。


 「まさかっ!」


 俺以外の二人に対して行ったのか?


 だけど、同時に魔法を使う事が可能なのか? 同時に二つまでが限界じゃなかったのか?


 もしも前のがだいぶ手加減していたのだとしたら⋯⋯考えたくもない。


 「オラオラオラァ!」


 バットを持って、回転する。


 俺が全力で振るい、竜巻のような衝撃を生み出す。


 「なっ!」


 俺は何が起こったのかこの目で見れなかった。


 ただ、ありのまま起こった事を言おう。


 使徒が土煙で俺達の視界を塞いだ。それから開放されるために俺はバットで薙ぎ払った。


 次に見えた光景は、二人が地面に倒れ伏している光景である。


 一分も経ってないとても僅かな時間でだ。


 何を言っているか分からないかもしれないが、俺もこの状況が分からない。


 「⋯⋯やはり、こんな短期間では強くからないか」


 「何、したんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る