物理系魔法少女、命一番の指名依頼を受注する

 指名依頼とは、文字のまんまである。


 依頼したい人が特定の探索者を選んで依頼するシステム。


 名が売れた探索者に良く見られるのだが、俺に指名依頼が来るのはおかしい。


 なぜなら、俺はまだレベル2であり、特に活躍したと言う事実は無い。


 ネクロマンサーもリッチも倒したのはアカツキだと世間は認識している。人の命を助けるために運んだのも、アカツキだ。


 アカツキは俺ではあるが、俺じゃない。


 「それで、相手は?」


 「⋯⋯ギルド本部のマスター、本部長だよ。ギルド系統で一番偉い存在。その方から直々の依頼なんだよ」


 「なんで俺?」


 「それが分からないの。最速でレベル2になったから⋯⋯そんな理由で指名する訳が無い。何よりも、依頼場所が⋯⋯」


 紗奈ちゃんが口ごもる。


 断りたいけど断れない人からの指名依頼であり、俺の実力では危険だと判断したから断りたかったのだろう。


 「場所はどこなの?」


 「エレキトルタワー、推奨レベル3〜5の特殊ダンジョン。階層型」


 し、知らないダンジョンだ。


 「依頼内容の前にダンジョン説明するね。⋯⋯この依頼は断れない。断るとしたら探索者を引退すると同義だから。それは困る。本当に」


 「心配ないと思うけどなぁ。さすがに不可能な内容を依頼してこないでしょ。本部長なら」


 紗奈ちゃんが否定しなかった。


 一体どんな人なんだろうか?


 分からないけど、気を引き締めた方が良いのかもしれない。


 ダンジョンの説明をタブレットを使いながらされた。


 ダンジョンでは珍しい、階層型と言うので下に行けば難易度が上がるシステムらしい。


 機械文明的なダンジョンで、そこで動いている機械生命体の再現は現在の科学のみでは不可能らしい。


 「かなり広いし、SFチックな雰囲気で人気のあるダンジョン⋯⋯だけど最近魔物の様子がおかしいんだよ」


 「ほう」


 「本来争わない魔物同士が争ったりとかね。そんなイレギュラーが発生しいるの。究明されてない場所に行かせたくは無い」


 「でもやらんといかんでしょ? 大丈夫、生きて帰るから」


 「⋯⋯今日は探索止めない? 支部長と一緒に抗議して、取り下げて貰うから!」


 心配してくれて嬉しい限りだ。


 断る事はできないと言いながらも、やっぱり嫌なんだろうな。優しい。


 「とりあえず、依頼内容を聞いても良いかな?」


 「うん。その権利は当然あるからね。依頼内容はエレキトルギアって言うアイテムの回収。四層のどこかにある奴ね。出現場所はある程度は決まってるから」


 「どんな感じなの?」


 「画像データがあれば良いんだけどね。エレキトルギアはコロコロ見た目が変わるからさ。電気の塊みたいな、ビリビリしたモノだよ」


 「ふむふむ。四層って、ゴーレムよりも強い? 或いはホブゴブリン」


 「普通ならそれ以下だね。構造上、上の方は弱いから」


 なら問題なくね?


 てか、上から一階なのね。ちょっとややこしい。


 あ、問題なのは現在、原因不明詳細不明のイレギュラーが継続している事か。


 それを憂いているんだろうな。


 「分かった。その依頼受けるよ」


 「⋯⋯ッ! 星夜さん聞いてた? 危険なんだよ」


 「うん。だから最低限必要な物は買ってく。教えて」


 「いや⋯⋯でも」


 「ギルド本部長からの依頼なんでしょ? 報酬は良いでしょ?」


 「まぁ確かに⋯⋯100万」


 受けたいな。


 金に釣られる形ではあるけど、目標に大きく近づけるのだ。


 それにここで印象を与えておけば、今後も良い関係を築けるかもしれない。


 「無理、無茶、無謀な事はしないと誓う。無理だと判断したら全力で逃げる。目的のアイテムだけ回収する⋯⋯ダメかな?」


 「⋯⋯うぅ。それでも止めて欲しいと思う。それが紗奈としての意見、受付嬢としては担当している探索者の意見を尊重する。せめてパーティを斡旋したいけど⋯⋯事情があってね。ごめん」


 あ、そうなの?


 「少しでも安全にして欲しいんだけどね。私と一緒に行くのが一番安全だけど、支部長に止められちゃうから⋯⋯とりあえず、最低限必要な物は用意しよう」


 依頼を受ける事が決定した。


 命を最優先にして、無駄な戦いは避けて目的を達成すると言う条件で。


 「それとこれ」


 「瓶?」


 ポーション瓶よりかは大きめで、リュックの半分はコイツで埋まるくらいには大きい。


 「うん。依頼品を入れる為の専用らしい。本部から送られてきたんだって。⋯⋯でも、こんなの必要ないはずなんだけどな?」


 「なんにせよ、依頼主が言うなら従うよ」


 「⋯⋯最高で7時までなら我慢するから、絶対に帰って来てね」


 「分かった」


 二階に上がり、俺は一つのマントを手に取る。


 紗奈ちゃんに言われた最低限で絶対に必要だと言われた装備、『アンチセンサー』と言う能力の付いたマントだ。


 今回のダンジョン⋯⋯カタカナが多くて覚えてないが、なんちゃらタワーの魔物はセンサーを利用して探索者を見つけるらしく、その対策らしい。


 水や衝撃に弱いらしいので、俺との相性は抜群だと言えるだろう。


 十二万円ととても高額なのだが、紗奈ちゃんにお金を借りた。今日の稼ぎで絶対に返す。


 十二万円の買い物もできないのはネックレスを買ったせい⋯⋯とは思わないし考えるつもりもない。


 布団を買わなければ良かった。


 レジに持って行き、ステータスカードの提出が求められたので出しておく。


 「ポーションの時は出さなくても良かったんですか?」


 「ん? ポーションは一般にも普通に販売しているからな。必要ない。出すと割引されるってだけ。後は空瓶があれば中身だけを買えるから少し安くなる」


 「なるほど」


 損した気分になったのは、気のせいだ。


 準備は終えたので、ダンジョンに入る。


 「おお」


 天井がなんか、SFっぽくってかっこいい。


 長くて広い廊下が網目状に広がっている。中央廊下的な?


 下を見れば、深淵まで続いているように暗い。落ちたらヤバそう。


 「⋯⋯紗奈ちゃんには悪いけど、こう言う現実感の無い世界を見るとワクワクしちゃうな」


 マントを着込んで、下に続く道を探して俺は歩く事にした。

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