物理系魔法少女、これをデートと呼ばずなんと呼ぶ

 今日は紗奈ちゃんと布団を見に行く予定である。


 合鍵を自分の魔法で作れると言う、機械的な鍵じゃないと開けられてしまう紗奈ちゃんは我が物顔で朝から朝ごはんを作っています。


 不満は無い。むしろ朝からこんな目の癒しになる女性を見れるなら最高の朝だろう。


 ほんと、余計な物を買っていなくて正解だな。買っていても捨てられてそうだけど。


 「紗奈ちゃんおはよう」


 「あ、星夜さん。おはよう。もうすぐ味噌汁できるからね」


 焼き魚、ご飯、味噌汁などの和食である。


 もう既に半同棲的な形になっているが、付き合っている訳では無い。


 まぁ、俺達には付き合うと言う事は無いのだけど。


 条件を満たしたら結婚、満たせない時は紗奈ちゃんに好きな人ができた時だけだ。


 「うん。出汁もしっかりと取れて、凄く美味しい」


 「そっか。良かった。それで今日はどこで見るの?」


 「そうだね。近くの場所で探そうと考えてるよ。布団を選んだら⋯⋯紗奈ちゃんが行きたい場所に行こうかな?」


 「ん〜私は星夜さんと一緒ならどこでも良いんだけどね」


 そんな会話をしてから、俺達は外出をする。


 ちなみに紗奈ちゃんの住んでいるタワマンはここからでも見上げれば普通に見えるくらいには近い。


 「星夜さん。て、手を繋がない?」


 「良いの?」


 「う、うん」


 手を繋ぐ。柔らかいな。あと、冷たい。


 夏なので良いが、冬だと身体が心配になるな。


 あまり手を意識したら、会話とかできなくなりそうなので、必死に理性で抑える。


 とりあえず買えそうな場所に行き、色々と確認する。


 正直布団の善し悪しは分からないので、高い物を買っていれば間違いないだろう。


 「冬までには条件を満たしたいからな〜」


 「そんな短期間でレベルアップできるの?」


 「一応できるよ。⋯⋯ただ、その代わり何回も死にかけるけどさ。あ、それは嫌だなぁ。ん〜長く見ても一年か」


 「そっか。でも長く使いたいからね」


 せっかくの買い物だ。高い物が良い。


 「いや。一年後にはダブルベッドで寝ているから、その辺も考えて⋯⋯」


 「いや、プライベートと言うのがね⋯⋯」


 「大丈夫だよ星夜さん。私達は気にしません」


 あ、決定事項ですかそうですか。


 俺が求めているのは腰を痛めない布団だ。


 将来的に使わなくなっても、いつかは使う可能性が十分にある。


 後悔しない選択をしたい。


 「しっかし、グリフォンの羽を使用したとか、フォレストソープの羊毛とか、魔物が多いな」


 「魔物の素材の方が⋯⋯と言うかダンジョン資源の方が優秀だからね。魔力を持っているから。だから魔力を込めれば性能は回復するんだよ。ただ、小さな子供とか魔力に弱い人にとって毒になるから、注意だね」


 「そうなんや」


 「柔らかいって考えるなら、フォレストソープの布団が良いよ。毛が柔らかいから身体に優しいし、洗濯もしやすい」


 紗奈ちゃんがおすすめしてくれるならコレにするか。


 六万か⋯⋯まぁ妥当だろう。


 かなり詳しいけど、調べてくれたりしたのだろうか?


 それともそれらは常識なのだろうか。


 どっちにせよ、感謝である。


 「ありがとう」


 「いえいえ」


 布団を購入して、一度家に広げた。


 「今晩が楽しみだな」


 「⋯⋯星夜さん」


 「どうした?」


 少し顔が赤い?


 「その、公園に行きませんか? ちょっと遠めで広い⋯⋯」


 「うん、もちろんだよ」


 でも公園?


 そんな俺達二人で遊ぶような場所でもない気がするけど、紗奈ちゃんが行きたいなら良いだろう。


 一時間かけて移動した。


 日差しが強い。芝生しばふの上に腰を下ろす。


 「大学時代に来た事あったな」


 カモが泳いでいる湖を眺めながらそう呟いた。


 あの時も紗奈ちゃんと二人きりだった気がする。


 茶髪でクールだった紗奈ちゃん、横を見れば黒髪清楚の優しいお姉さんだ。


 「懐かしいね」


 こちらに向けられる笑顔に不意を打たれてしまう。マジで笑顔の紗奈ちゃんは可愛い。


 「そうだな。少し暑い」


 「⋯⋯じ、じゃあ。わ、私で膝枕をしませんか? その、スキルで私の身体ってひんやりしているんですよ! ちょうど良くないですか!」


 お、おう。食い気味だね。


 「⋯⋯遠慮するよ」


 「なんで!」


 「紗奈ちゃんのもちもち太ももを枕にしてしまうと、腰を痛める危険性がある」


 「私の太ももってそんなに太いかな?」


 「太さは関係ないよ」


 「じゃあ、あの言い回しはただキモイだけ?」


 「そう」


 すまんね。


 と言うか、膝枕って男の方が求めるモノじゃないだろうか?


 好きな人の膝枕なんて最高だろうな。


 だが俺にはできない。


 本当に腰を痛めそうだからだ。


 「⋯⋯私じゃ、不満ですか?」


 「ぐっ」


 不満なんてあるか。むしろしたい!


 俺は横になった。確かにひんやりしている。


 首から服の内側に入る冷気が身体を冷やすが、心臓の高鳴りが血の流れを加速させ、体温を上げる。


 「少し、照れる」


 「じゃあ止める?」


 「止めない。後少しだけ、こうしてたい」


 「そうだね」


 身体強化の魔法をイメージしておけば、問題はなかった。


 常にイメージしておかないといけない。腰を痛めないイメージを維持する方が簡単かな?


 「か、感想とか、ある?」


 「紗奈ちゃんがちょー可愛いい」


 太陽がクソ邪魔で顔が見えないけど。本当に腹が立つ。


 紗奈ちゃんの顔を見たいでござる。


 ただ、紗奈ちゃんも顔は真っ赤だろうな。彼女、感情が高まると冷気を放出するから。


 周囲の芝生に霜ができ始めた。


 凍ってないので、必死に抑えているのだろう。


 「いじわる言わないでよ。枕の感想」


 「本音だけどね。販売品の枕じゃ満足できない頭になりそうだ」


 「⋯⋯本音? それとも冗談?」


 「冗談であって欲しい本音。普段の枕で寝れなくなるのはキツい。控えめに言ってね」


 「そっか。良く言えました」


 この時間が少しばかり、続いた。


 身体が冷えきってしまう前にはきちんと終わって、帰路に着いた。

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