物理系魔法少女、家を掃除した

 インターホンを鳴らす音がこの俺を目覚めさせた。


 「なんだよ。今日は紗奈ちゃんが休みだから俺も休みになってるのに⋯⋯」


 別に行っても問題ないけど、今日は紗奈ちゃんが来るので家で休んでいる。


 来るまでの間寝ている予定だ。


 「そういやぁ、いつ来るとか聞いてなかった。まさか、朝の八時から来てるとか⋯⋯ないよね?」


 恐る恐るドアを開けると、掃除のためか動きやすい服装の紗奈ちゃんが笑顔で立っていた。


 ああ、身軽な紗奈ちゃんも可愛い⋯⋯けども早ない?


 「おはよう。朝ごはん食べてないと思って、サンドイッチ持って来たよ。もちろん手作り」


 「⋯⋯奥さんみたい」


 「ッ! いや、べ、別に。その、えと、星夜さんが⋯⋯」


 「上がって上がって」


 俺が踵を返すと、後ろから軽めに蹴られた。結構痛いでござる。


 相変わらず身の丈に合わない力をお持ちな紗奈ちゃんの秘密を知りたいと思いながら、サンドイッチを頬張る。


 「だいぶ汚いね。まずはゴミの分別からか」


 「別に一人でもやれるよ?」


 「良いの。ここは私に甘えちゃいなさい」


 「ありがとう。いずれこのお礼はするよ」


 「ならいっぱい貢献して、私の成績を上げてください」


 あんなに行列ができるんだから、俺一人くらい問題ない⋯⋯とか思ってしまう。


 動画の編集もしたいし、さっさと終わらせるか。


 掃除は淡々と会話しながら終わらせていく。


 「エッチな本とか無いね⋯⋯」


 「女性呼ぶのにあるかよ。⋯⋯入社してから三ヶ月後に全部売り払った」


 「そうですか⋯⋯星夜さんの好みが分かりやすく出てたのに。黒髪で優しそうなお姉さんばかりの⋯⋯」


 「お願いします深堀しないでください」


 俺は誠心誠意、土下座をした。


 大学時代に家に招いた事はあるが、いつの間に押し入れの奥の奥に隠して、表紙もすり替えていた秘蔵コレクションが見つかってたんだ。


 最悪すぎるだろ。


 よくそんな相手にこれまでも寄り添ってくれたよ。最高かよ。


 「ホコリ払っていきますか」


 「そうだね。掃除機とか高価なモノはないんで!」


 ほうきとか⋯⋯掃除道具はゴミ袋くらいしか持ってない。


 タオルも小さいのが一枚だけで、ボロボロである。


 シャワーしか浴びてない。


 「⋯⋯そっか。星夜さんはダンジョンで稼げたら、もっと広い場所に引っ越すとか考えてる? 例えばさ、子供含めて三人以上で過ごせる場所とか、一軒家とか」


 「無いなーここでも全然満足しているし、何より家賃が安い。今後誰かと暮らす訳じゃないし⋯⋯な、なんで殺気を向けて来るのですか? 怖い怖い」


 「さぁ、己の過去と向き合って考えてみたらどうですか?」


 笑っているのに笑ってない、とは正にこの事を言うんだろうな。怖いや。


 紗奈ちゃんの周りの空間が歪んで見える。


 そんな事を漠然と考えていると、部屋の中の気温が下がっている事に気づいた。


 「な、なんか寒くない?」


 「ああ、これは私の魔法ですよ。出力を抑えてます」


 「え! 紗奈ちゃん魔法使えるの! てか外でも使えるの!」


 「あ、はい。別に隠してる訳じゃないけど、全く聞かれなかったから、言わなかった。外でも魔法って案外使えるんですよ。軽めだけど」


 そりゃあ、受付嬢しているのに、ダンジョンに行った事あるなんて思わんでしょ。


 え、あの力の正体ってまさかさ。


 「元、探索者?」


 「そうだよ?」


 なんでさも、当たり前でしょって感じで言うのさ。


 俺全く気づかなかったってか分からんかった。


 「で、今は何してるの? むっちゃ寒いんだけど」


 「汚れなどを凍らせてるんですよ。その後は遠隔操作で外に出す。同時に雑巾がけしたようになりますね。便利でしょ」


 「すごい」


 「ふふん。この【氷結魔導】があれば冷蔵庫要らずなのだよ。その代わり年中無休で部屋の中が北極だから友達とか呼べないんだけどね。これも節約術。⋯⋯ま、まぁ。誰かさんと同棲するとなったら、さすがに冷蔵庫買いますけど」


 魔法良いな〜。


 ん?


 「誰かと同棲する予定あるのに、俺の家に来て良かったの?」


 「おっと魔法が滑った!」


 「ちょま! 魔法が滑るって何! 痛いしくっそ寒いんだけど! 芯まで凍る! 助けて!」


 魔法が滑ったらしく、俺の足が完全に凍らされた。身動きが取れん。


 なに? なんで怒ってるの?


 ぼくちんわるいことしちゃ?


 「少しは反省しろ」


 「あ、昔の紗奈ちゃんみたいでかわ」


 やばい。意識が朦朧として来た。


 「え、あんなにステータス評価高いのに魔法への耐性が全然無い! ちょ、星夜さん! ごめん、お願いだから死なないで! それとその言葉の続きを言って!」


 人の肌って、暖かい。



 とりま死にかけて一時間程気絶したけど、なんとか生きている。


 そして見違えるように⋯⋯とは行かないが、人を呼べる程には綺麗になっただろう。


 「こっから、金が増えたら日常品とかも充実させていこう」


 「無駄遣いはダメだよ? 探索者の寿命なんて、そんなに長くないんだから。歳を取って動きが鈍くなったら、速攻で魔物の苦いおやつですよ」


 「例えが⋯⋯そうだな。俺は普通の探索者よりも遅くなってる⋯⋯副業って訳でもない。どっかででかい山を当てないとな」


 魔法少女の力はただ身体能力が向上するのと、姿形が変わるだけ。


 それでも十分に使えるし、おかげで俺は普通の探索者よりも素早く、上のダンジョンに行けている。


 配信も、最初の誤生配信でバズったおかげで、好調だ。


 「星夜さんは知ってる? 【ユニークスキル】について」


 「何それ?」


 「所有者本人にしか認識できない、とんでもない強さのスキル。上位レベルの人は大抵がユニークスキル持ちなんだよ」


 「そうなんだ。そんなスキルが⋯⋯」


 【魔法少女】とか疑問に持たれないのって、もしかしてそれ?


 じゃあ俺は、加護スキルも合わせて二つのユニークを持っているの?


 ぐへへ。俺チート。


 「例えば、身体を変幻自在にマグマに変えたり、原子レベルで細かく操れる冷気を出せる魔法だったり、⋯⋯魔法少女に変身するスキルだったり」


 「⋯⋯ッ!」


 俺以外にも居るのか、魔法少女が?


 ⋯⋯それだと全然【ユニーク】じゃないな!

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