4 バリオス、あからさまに怪しい誘いに乗ってしまう《追放者SIDE》

 もはや、このギルドは再起不能のダメージを受けている――。


 バリオスは打ちひしがれていた。


 ほんの少し前までは、大陸最強ギルドのマスターとして大手を振って歩いていた。

 人生の絶頂期だと感じていた。


 そして、それはこれからもずっと続くと思っていた。

 さらに駆け上がり、どこまでも続いていくのだと思っていた。


「だが、あっけなく崩れた……なんなんだ……どうして、こうなったんだ……」


 バリオスは両手で頭をかきむしった。


「初めまして、バリオス様。私はイルジナと申す者です」


 一人の女が訪ねてきたのは、そんなときだった。


 年齢は三十前くらいだろうか。

 妖艶な雰囲気の美女である。


「なんだ、お前は?」

「今のあなたに必要な女だと思いますよ?」


 イルジナが艶然と微笑む。

 妖しいが、妙に引き込まれる笑顔だ。


「何者だ、と聞いてるんだ?」

「私は――」


 女はわざとらしく胸元を緩めた。

 深い胸の谷間があらわになる。


 反射的にバリオスはそこを覗き込んだ。

 匂いたつ色香にゴクリと息を飲んだ。


「落ちぶれた――失礼、勢いを失ったギルドを立て直すことを仕事にしております」

「噂に聞いたことがあるぞ。まさか――」


 バリオスはハッとした。


「ギルドの再建人……ということか?」

「左様です」


 一礼するイルジナ。


「つまり、この『王獣の牙』を――」


 少し前までのバリオスなら、そんな申し出など一蹴しただろう。


 怪しい。

 どう考えても、落ち目のギルドに寄ってきて、金なりなんなりを吸い上げてから去っていく類の輩だ。


 だが、今のバリオスはワラにもすがる思いだった。

 自分と、このギルドを助けてくれる者がいるなら、誰でもいいから頼りたい――。

 そんな心境だった。


 右腕とも思っていた三人の副ギルドマスターは、もはやここに寄り付きもしない。

 所属冒険者も同じだ。


 バリオスは孤独だった。

 そんな孤独な心の隙間に、彼女の声が心地よく響く。


「俺を、助けてくれるのか……?」

「もちろんです、バリオス様。もっと詳しくお話させていただけますか?」


 イルジナは唇をチロリと舐め、なまめかしく体をくねらせ、バリオスにすり寄ってきた――。

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