戦争の手引書 ※危険ですので、子供の手の届かないところに保管してください。
未来世紀、世界は資本主義でも社会主義でもない、完璧な社会体制によって成り立っていた。国境というものも、あってないようなものだった。科学技術の圧倒的なまでの発展は、世界から貧困や差別を無くしていた。つまり、世界はこれ以上にないほど平和だった。
A国の西海岸沿いに、空軍基地があった。もっとも、戦争などは大昔に無くなったので、戦争を経験した人間は一人もいなかった。軍というものが、何のために存在しているのか知る人間はいなかった。歴史として戦争を知っているわけだが、教える人間も人が何のために戦争をしていたのかわからなかった。一人として、兵士という職業が何のために存在するのかわからなかった。ホース将軍とディア大佐の二人も当然例外ではなかった。
「Life could be dream~♪ Life could be dream~♪」トレイにステーキを載せ、鼻歌を歌いながら歩いているこの男はディア大佐である。今はお昼休憩で、(といっても常に休憩しているようなものだが、)食堂で昼食を食べようとしているところである。「ディア大佐、美味しそうなステーキじゃないか。どうだ、一緒にお昼でも食べないか?」今ディア大佐に声をかけた、髭を貯えたこの男はホース将軍である。
大佐は、将軍と向かい合ってテーブルに座った。海側が一面ガラス張りになっているこの食堂は、青い海と青い空が眺望でき、日の光もたくさん入るため、昼寝にはもってこいの場所である。将軍はハンバーグを食べながら話し始めた。
「私はついに発見したぞ。何のために我々が存在するのかを」将軍は少年のように目を輝かせていた。戦争するためでしょ、あくびまじりに大佐は言った。「そうだが、じゃあなぜ戦争をする必要があると思う?」と体を乗り出して言った。髭がなければ少年である。何でですか?と面倒くさそうに大佐は聞いた。
「それは、地球を生かす必要があるからだ。どうだ、驚いただろう?古代の人々は地球が生き物だと思っていたのだ。いわゆるガイア論を信じていたのだ」どういうことです?大佐は全く興味がなかった。しかし、将軍は楽しそうに話をつづけた。
「超古代のアステカでは、神様への捧げものとして生きた人を生贄として捧げていた。戦争もそれと同じように、地球のための儀式なのだ。新鮮な戦う男たちの血を地球に捧げる必要があるのだ。定期的に地球に献血をしているのだ。そうして地球はその血で人間と同じように『臓器』を動かすことができるのだ。それ以外に戦争をする理由は考えられん。そうでなければ、争う必要が全くないのに争っていることになってしまうからな。どうだ、私はついに突き止めたのだ」「じゃあ、政府の人にその話をしてみたらどうです?」大佐はそんなことよりも歯に挟まった肉の方が気になっていた。「そうか、君もそう思うか」将軍は嬉しそうに言った。
それから、将軍は政府の会議に出席し、同じような話を熱心にした。政府の人々は本気で信じはしなかったが、「たまには戦争をしてみるのもいいだろう」ということで将軍を支持した。その後も順調に会議は進んだ。適当に陣営を分け、戦場はどこにするかということについては、過去一度も戦地となったことがないA国で行おうということになった。初めは興味なさそうだった政府の人々も、不思議とわくわくし始めていた。
そして、ついに戦争の日となった。待ちに待った戦争の日がやってきたのだ。両陣営ともついに戦争ができるのだ、と大喜びだった。大々的にテレビで中継もされることになった。世界中の人々が固唾を飲んで見守るなか、開戦の火蓋が切って落とされた。
始めの内、兵士たちは戦争の何たるかを知らないから、よくわかっていなかった。銃弾が飛び交うなか、ぺちゃくちゃお喋りする者もいた。しかし、徐々に負傷者や死者が出始めると、ふざけていた兵士たちの顔も段々真剣な顔になってきた。戦車や戦闘機が飛び交い、あちこちで爆発が起こった。いつしか、何のために戦うのかわからないが、とにかく相手を憎み始めていた。地獄絵図がテレビ中継され、人々は恐怖した。
いたるところで死者が出て、いたるところで爆発しているころ、戦場となったA国の地下深くのプレートが刺激され始めていた。何度も何度も刺激されることで、マントルが溶け、マグマが発生し、火山のマグマだまりにどんどん貯められていった。そして、マグマが一定量溜まると、刺激に耐えられなくなり膨張した火山はついに噴火した。白い火山灰が積もったのは言うまでもない。
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