とある部族の社会
B国は緑豊かな国で知られている。そこには古代から手つかずの原生林が残っているため、学術的にも非常に価値の高い自然が残っているわけだが、しかし、そうした研究は禁止されていた。それは、その原生林に現代文明とは隔離された部族が暮らしているからである。彼らの生活や文化を守るため、彼らと接触することは禁止されており、接触の恐れがある行為も禁止されていた。
科学者らはそうした考えに理解を示す素振りを見せながらも、内心では賛同しきれないでいた。原生林には貴重な資源があるかもしれない。その資源があれば科学はより進歩するかもしれない。技術の発展には多少の犠牲はつきものである。それに、そうした尊い犠牲があって科学技術が発展してきたことも歴史が証明している。それで、法を破ってまで研究を行う科学者がいることも事実としてある。
一方で、民族学者らは彼らの歴史を知ることに意味があると思いながらも、接触することは避けるべきであるとの考えに賛同していた。それは、必ずしも彼らと接触することが、彼らのためになるとは限らないという理由からである。民族学者らは、高度な文明と接触することで、部族の間で混乱が生じることを危惧していたのだった。
しかし、いずれの主張も実際は的外れなものだった。というのも、原生林ではあるが、貴重な資源はなかったからであり、部族らの正体は高度な文明を築き、激しい戦争を経験し、そして、最終的に原始的な生活に平安を見出し、地球に移住した宇宙人だったからである。だから、むしろ接触して混乱してしまうのは民族学者側だろう。そして、それを危惧して、宇宙人らは先住民族を装っているのだった。
一方で、実際は人類もこのことに気づいていた。彼らが宇宙人であると知っていたのである。もっとも、B国の政府のごくわずかの人間だけではあり、他国などはただの部族であると思っていた。あくまでも秘密にしておく理由は、公にしてしまえば、世界中がパニックになると考えたからである。そうした危険性を考慮したB国政府が、それを隠すために、彼らとの接触を禁止していたのだった。
部族(宇宙人)がこのことを知っているかどうかは定かではない。しかし、複雑な状況にあるのは事実である。さて、いつの時代、どんなところであっても、馬鹿をしようとする者は一人はいるものである。部族と人類の間にそんな複雑な事情があるとは知らず、一人のある若者が興味本位で部族との接触を試みた。そこに深い理由はない。接触を禁止されているからこそ、接触したいと思っただけだった。
部族は、一人の若者が接近してくるのを見ると、彼らは平安な生活を守るため、また、宇宙人であることを悟られないために、部族のふりをして、槍や石を投擲して威嚇した。野蛮で危険な部族であると思わせれば、若者は恐れをなして逃げていくと考えたからである。
しかし、実際は若者は逃げようとしなかった。むしろそれを嬉々としてカメラを構え始めたのである。そこで、部族は今度はもう少し体の近くをめがけて石を投げた。しかし、運悪くそれが当たってしまい、若者は死んでしまったのだった。
部族が若者を殺害したニュースは瞬く間に世界に広がった。現代文明とは隔絶され、接触を禁止された部族に接触したのだから、誰も裁くことはできないという意見が世界の大多数を占めた。
しかし、B国は違っていた。なぜなら、彼らは部族が宇宙人であることを知っていたからである。だから、そうした宇宙人が若者を殺害したということは大問題である。高度な文明を持った宇宙人が宣戦布告をしてきたのかもしれない。そう考えたB国政府は不意を突いて攻撃することに決めたのだった。
とある日の明け方、B国原生林の上空を編隊を組んだ5機の戦闘機が飛んだ。そして、一斉に森を爆撃し、自然を跡形もなく焼き払った。宇宙人らは、不意を突かれてしまったので、攻撃されていることに気づくまでもなく、全滅してしまったのだった。
各国から、貴重な原生林を焼き払い、文化を尊重するべき部族を爆撃したことに対して非難された。しかし、B国政府は我々のお陰で世界は救われたのだ、と主張する。支離滅裂なことを言っている、と非難されると、B国政府はむしろ少ない犠牲で済んだ方だから称えられるべきだと言う。原生林に住む原住民族を虐殺しておいて、称えられるべきと主張するとは、まったく変わった社会である。
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