「さかしゃま、さかはま」


 姉の娘……つまり姪っ子が遊びにきていた。

「にぃに、これ」

 兄ではなく叔父さんなのだけど……まあいいか。

 二歳になったばかりの姪っ子は、絵本を差し出してきた。

 読んでほしい、ということだろうけど……、知らない絵本だ。

『さかさまの国』、という絵本である。



「さかさまの国か」

「しゃかさま?」

「ん? 違うよ、さかさま」

「さかはま」

「じゃなくて……『さかさま』」

「しゃかはま」


「さーかーさーまー」

「しゃーかーしゃーまー」


 うーん、まだ難しいのかな。

 言葉を覚え始めたばかり、ではないだろうけど……発音できない言葉もそりゃあるか。



「さかさまだよ」

「さかしゃま」

「さかさま」

「さかさま」

「さかしゃま」

「さかさま」

「しゃかさま」

「さか、さま?」

「しゃかさ――はっ!」


 気づけば、俺が言えなくなっていた。



 …了


 初出:monogatary.com「さかさまな関係」

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