第11話

俺たち3人は、飯伏の部屋の前の廊下で息を潜めた。




アカネ「ちょっと、お邪魔するわね。」




ランマル「うん、いらっしゃい♪


そんな顔して、どうしたのかな?」




アカネ「いえ、少し疲れているだけよ。」




ランマル「ふーん?」




アカネ「私と話をしない?」




ランマル「どうしたの?いきなり。」




アカネ「別に、大した話じゃないわ。ただ、」




ランマル「密告しにきた。」




アカネ「え...」




ランマル「んでしょ?そんなところだよね♪キミが東雲クンと手を組んでるのは知ってるよ。だとしたら、僕の手札の弱点も分かってるはずだよね。」




アカネ「...そうね。私のすることは変わらないわ。」




ランマル「お、かっこいいね♪」




アカネ「余計なお世話よ。」




ランマル「褒めた覚えなんて、これっぽっちもないんだけどな〜。Jを3回使って残りの1枚を当てに来ただけでしょ?そんなのただの卑怯じゃん♪」




アカネ「卑怯なのは、あなたたちも一緒でしょ。それに私はこうやって1人で来てるわ。あまり、人の決意を嘲笑わない事ね。」




ランマル「ふーん。なにか不満かな?だって、そういうゲームでしょ?これ。」




アカネ「...きっと、あなたとは一生分かり合えないでしょうね。」




ランマル「それって、ボクの一生がここで終わることを皮肉っているのかな?」




アカネ「好きに解釈なさい。」




ランマル「先でいいよ。」




アカネ「?」




ランマル「能力を使うの、ボクを殺すの、先でいいって言ってるんだよ。」




アカネ「どういうこと?」





ランマル「実はね、Qの効果、ボクもう持ってないんだ♪」




アカネ「そんなの、信じられるわけないでしょ。嘘の情報を私がみんなに広めて、油断させようとしているのは分かっているのよ。」




ランマル「ほんっとに融通が効かないんだね。」




アカネ「当たり前でしょう。私は、正々堂々と勝負しに来たのよ。あなたの能力も、全てここで捨てていきなさい。」




ランマル「持ってもいないものを捨てろって?」




アカネ「...もう、いいわ。」




ランマル「はぁ、しょうがないな。これ見なよ。」






【能力:尋問 (3回 使用済み)】







アカネ「あなた......そのたったの3回で皇さんを...?」




ランマル「んー、それは違うよ?桐江さん。


彼女を殺したのは紛れもなくあの二人さ。ボクは見てただけだよ♪」




ランマル「信じてくれるかな?♪」




アカネ「...それを信じるとして、あなたの能力は誰に使われたのかしら?」




ランマル「...そこまで答える義理はないよね?これでも、十分な情報は与えたつもりだよ♪」




アカネ「...私は、あなたをどうしても好きになれないわ。」




ランマル「ならさっさと殺して出ていきなよ。」




アカネ「.........」






【能力:透視 使用しました。】




【K】






ランマル「何が出たの?」




アカネ「...キング。」




ランマル「心臓に悪いね♪」






【能力:透視 使用しました。】




【K】






アカネ「......」




ランマル「不服そうだね?」




アカネ「いえ、なんでもないわ。」




ランマル「次は当たるといいね♪」




アカネ「最後に、言っておきたいことは?聞いてあげるわ。」




ランマル「...やっぱ、怖いものは怖いよね♪」




アカネ「そう...。じゃあ、最後の1回。」












【能力:透視 使用しました。】




【K】







アカネ「はぁ。」




ランマル「当たらなかったんだね。」




アカネ「あなた、とんだ豪運ね。」




ランマル「え、なんで?」




アカネ「全部、キングだったわよ。」




ランマル「すごいねそりゃ。」




アカネ「まぁいいわ。人殺しは程々にするのよ。」




ランマル「やけにいさぎいいんだね?」




アカネ「当然よ、完敗だもの。」




ランマル「ふーん。」




アカネ「また会いましょう。」




ランマル「ボクは、あんまりかな♪」









桐江さんが、飯伏の部屋から出てきた。









ナオト「...無理、でしたか。」




アカネ「ええ。ごめんなさい。」




ナオト「生きて帰ってきてくれて、ありがとうございます。」




アカネ「戻りましょうか。」









(桐江 茜の部屋)






ナオト「...しょうがないですよ。」




アカネ「そうね、ごめんなさい。」




マリ「でも、予想外の収穫がありましたね。」




アカネ「ええ。彼がQの能力を3回とも使っていたのは、紛れもない事実よ。」




アンズ「...誰に使ったんでしょうか.....。」




アカネ「それは、分からない...。でも、もう警戒はしなくても大丈夫だと思うわ。」




アンズ「そうですね。」





.........





しばらくの間、沈黙が流れる。








マリ「...気にしないでください。」




アンズ「そうですよ!それより、私たちのために、危険な挑戦をさせちゃって本当に...」




アカネ「そのことはいいのよ。私の自己満だもの。」




マリ「......」




アンズ「ありがとうございます...」




アカネ「大丈夫よ。あなた達は私が守るわ。」






......さらに沈黙が続く。




マリ「もう、夜の7時なんですね...」




アカネ「早いわね。...あなた達は、ちょっと仲良くお風呂でも入ってきてくれないかしら。東雲くんと2人になりたいの。」




アンズ「わ、わかりました!」




マリ「じゃあ、お邪魔しました。8時になったら、一緒にご飯食べませんか?」




アカネ「ええ、わかったわ。その時間に食堂に集合しましょう。」







2人は部屋を出ていった。







アカネ「......っと。」




桐江さんは、ベッドの上に座ってため息をついた。




アカネ「ああは言ったものの、もう助ける手立てなんてないのよね。あの子たちの手前、変にカッコつけちゃったわ。」




ナオト「随分ぶっちゃけるんですね?」




アカネ「...気を使われた方が嬉しいかしら?」




ナオト「いえ、全然そんなことは。」




アカネ「そう、よかったわ。」




ナオト「それで、手立てがないって?」




アカネ「そもそも、このゲームで他人を守るなんてかなり難しいのよ。基本1対1、もしくは複数対1でしか戦えないこのゲームで、特定の誰かを守るなんて無理なの。私のJが、言わば最後の希望だったのよ。」




ナオト「まぁ、それは確かに。」




ナオト「でも、そんなこともないはずですよ。もちろんこっち側の能力は無くなりましたが、飯伏の能力もない事がわかりました。猪狩さんと是本さんも、皇さんを密告した時にほぼ能力を使いきったと思います。」




アカネ「彼の話が本当ならね。」




ナオト「そこら辺の会話も聞こえてましたが、多分嘘じゃないと思いますよ。飯伏はあんな奴ですけど、だからこそ、皇さん1人を密告するためだけに、能力を使い切ったりなんてしないと思うんです。」




アカネ「...確かにそうね。だとすると、是本さんも猪狩さんも、能力を使い切ったか、或あるいは1回分くらいしか残っていないと考えるのが妥当ね。」




ナオト「そして、そんな残り少ない能力で、相手の手札を当てるなんてほぼ無理なんです。」




アカネ「...だとすると、状況は均衡きんこうするばかりね...」




ナオト「絵札の能力がほぼなくなった、つまり、これからの密告も無くなるってことですよね...」




アカネ「明日の朝7時までに密告が起こらなければ......」




ナオト「怖いこと言わないでくださいよ...」




アカネ「...少なくとも、あなたは死なないわ。」




ナオト「......」






アカネ「ひとつ、やりたいことがあるの。」




ナオト「なんですか?」




アカネ「是本さんは、また私たちのところに戻ってきてくれると思うかしら?」




ナオト「......それは、わかりません...」




アカネ「私は、まだ希望を捨てていないの。きっと、あの人のことだから、能力を使い切ってはいないはずだわ。もしそれが事実なら、彼は私たちの最後の切り札に...」




ナオト「是本さん、正義感が誰よりも強いはずです。それなのに、皇さんを密告するのに加担したのは、きっと余程の心の歪みがあったんだと思います。是本さんにとって、車田さんは、もしかしたら......」




アカネ「...いえ、それ以上考えるのはやめましょう。私たちが知らないということは、事実とは異なるか、隠されているかのどちらかよ。後者の場合、私たちにそれを知る権利なんてないと思うわ。」




ナオト「そうですね。今は、是本さんの正義感だけを信じて、話を持ちかけるだけでもしてみた方がよさそうです。」




アカネ「そうと決まったら、急いだ方がよさそうね。1度寝たなら、翌朝の7時なんて一瞬よ。」




ナオト「はい!」





桐江さんは、部屋のドアに手をかけた。






















<是本 真理が、東雲 直斗の密告に失敗しました>












アカネ「そんな......」




ナオト「...それでも、行きますよ。」




アカネ「え...?」






俺は、桐江さんの手をとって、是本さんの部屋へ急いだ。




考えることなんてできなかった。







(是本 真理の部屋)





アカネ「是本さん...!」




ナオト「入りますよ...」





扉を開けた。











是本さんは、ベッドに横たわっている。





桐江さんが、是本さんに近寄った。





アカネ「......」




手に触れている。





アカネ「まだ、温かいわ...」




ナオト「......」






俺は、タブレットに目を落とした。






【所持手札: 1,2,Q】


【“K”のカードで密告失敗】


【NG行動: 誘いを断る。】







......




ナオト「Kで密告したんですね...」




アカネ「...え?」




ナオト「きっと、是本さんは...」




アカネ「...もう、なにも言わないで。」




ナオト「......」




アカネ「カードの合計は15...。密告は、しなくてもよかったのね...」




ナオト「......自殺、ですよね...。」




アカネ「言わないでって言ったじゃない...」




ナオト「ごめんなさい...」




アカネ「自殺する人の気持ちなんて、知りたくもないの。」




ナオト「.....」




アカネ「...ごめんなさい、言い方がきつくなってしまったわ。」




ナオト「仕方ないですよ...」




アカネ「もう、戻らない?」




ナオト「...そうですね。」























[生存者、6名。]

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