第9話

会議室に、死臭が漂う。




ナオト「車田さん...」




アカネ「受け入れるしか、ないわよ...」





そんなことは分かっている。




一日弱を過ごした以上、赤の他人という訳にはいかなかった。





俺は、車田さんの遺体に目を落とした。




そうだ、タブレット...






【所持手札: 1,6,9】


【“4”のカードで密告失敗】


【NG行動:他人に暴力をふるう】






アンズ「合計16...」




マリ「どうしたの?」




アンズ「いや、あとひとつだけ数字が小さければ、きっとこんな事にはならなかったんだろうなって。」




マリ「...そう...だね。」





アカネ「これは...」





桐江さんは、車田さんの手元を見ていた。




俺も、そこに目を落とす。





ナオト「血が拭き取られた痕...ですか?」




アカネ「ええ、そうみたいね。是本さんが拭き取ったのかしら。でも、いったいどうして...」




ナオト「......」




アカネ「...ねぇ、東雲くん。ちょっと話があるの。」




ナオト「なんですか?」




アカネ「いや、今じゃなくていいわ。この後、私の部屋に来てちょうだい。」




ナオト「...分かりました。」





桐江さんは、頭が切れて頼りになる存在だ。俺なんかに、なんの用だろうか...





アカネ「...みんな。」




アカネ「もう、これくらいにしましょう。これ以上いたら、車田さんが可哀想よ。」




マリ「そうですね...」







俺たちは、会議室を後にした。





白雪さんと早坂さんは、先に行ってしまった。





アカネ「...たいした収穫は、無かったわね。」




ナオト「え?」




アカネ「ただの独り言よ。このゲームに関する手かがりが、何かないかと思っていただけ。期待しすぎたみたいね。」




ナオト「...はい。とりあえず、部屋に戻りましょう。」




アカネ「少ししたら、2階の私の部屋に来てね。」





俺たちは、それぞれ自分の部屋に戻った。






俺が3階に差し掛かったそのとき、





マサミチ「やあ、東雲くん。」




ナオト「あ、是本さん。さっきは...大丈夫でしたか?」




マサミチ「......」




マサミチ「なに、たった数時間仲良くしていただけの他人さ。君たちに心配をかけるわけにもいかないし、もう前を向かないとね。」




ナオト「そうですか...。ところで、こんなところで何してるんですか?」




マサミチ「人を待ってるんだよ。」




ナオト「人?」




マサミチ「僕、飯伏くん達を追うって言ったでしょ?それでさっき、彼の部屋で、3人で色々と話をしてたんだ。2人も、もうすぐ来ると思うよ。」




ナオト「話って、なにを?」




マサミチ「ごめんね。それは今は言えないんだ。口止めされていてね。ただひとつ言えるのは、もしかすると、飯伏くんは、それほど危険じゃないのかもしれない。...ただの、推論だけどね。」




ナオト「......」




マサミチ「ごめんごめん。気になるよね。今は無理だけど、一段落したら、君にも話したいんだ。」




ナオト「...分かりました。でも、俺は、あいつのこと、許す気はありませんよ。アズマの最期を嘲笑ったあいつの顔が、頭から離れないんです。」




マサミチ「...大切な親友を亡くしたんだ。気を落とすのも仕方ない。でも、あまり油断するのもいけないよ。もっとも、僕も、彼のことを信用する気は更々無いんだ。安心してくれ、僕は警官だ。死にも殺しもしないよ。ただ、自分の信じる正義を貫くだけさ。」




ランマル「そうそう、神木くんみたいにね♪」




ナオト「飯伏...!」




飯伏と猪狩さんが、部屋を出てきたようだ。




ツムギ「あれ、是本。東雲と何話してたの〜?」




マサミチ「なに、ただの世間話さ。」




ツムギ「さっきのこと、話してないよな?」




ランマル「大丈夫だよ、紬希さん。この人、口硬いから。そうでしょ?」




マサミチ「ああ、そうだね。さっきのことは、何も話してないよ。」




ランマル「ふぅん、さっきのことは、ねぇ?...ま、いいや。そんでさ。」




ランマル「キミは、なんでまだ前を向いていられるのかな?東雲くん♪」




ランマル「キミにとって神木くんは、そんなにちっぽけだったのかなぁ?そんなにすぐ前向きになられて、神木くんはどう思うんだろうね?」




ナオト「飯伏、お前...」




ランマル「あーあごめん、怒っちゃった?」




ナオト「...いや、なんでもない。だけどな、俺はお前を絶対に」




ランマル「許さない。って言いたいのかな?別にいいよ〜。だってこれ、そういうゲームじゃん♪」




ツムギ「もうそこら辺にしときなよ、蘭丸。アタシらには、やることがあんだからさ。」




ランマル「あはは、そうだったね♪それじゃ行こっか、2人とも。」




マサミチ「...ごめんね、東雲くん。すぐに、終わらせてくるよ。」





3人は、階段を降りていった。




俺は、一旦自室に戻ることにした。




...あんな奴の言葉を、気に留めている暇はないんだ...





部屋のドアを開けたものの、特にすることはないな...。




時計は、12時半を指している。






......







なんとなく、タブレット端末を覗いてみる。






【密告:自由】


【手札:4,10,K】


【NG行動:参加者がゲーム会場の外に出る。】




【Kの能力:概観】




【ジャック→桐江 茜、猪狩 紬希】


【クイーン→是本 真理、飯伏 蘭丸】


【キング→東雲 直斗、飯伏 蘭丸】


【ジョーカー→早坂 杏珠】







飯伏は、絵札を2枚も持ってる。




俺がもしジャックを持っていたら...クイーンかキング以外のカードを見られれば、確実にあいつを殺すことが...





......殺す?






脳裏によぎった、あまりにも残酷な言葉に、恐怖した。




俺はいつから、そんなことを考えるように...






これ以上一人でいても、なにも変わらない...




俺は、桐江さんの部屋へ向かうことにした。






2階へ降りて、桐江さんの部屋に着くまで、特になにも起こらなかった。







桐江さんの部屋の前へきた。




ドアをノックする。





アカネ「いいわよ。」





ナオト「お邪魔します。」





俺は、桐江さんの部屋へ入った。




こんな状況でも、異性の部屋に入るのは、少し緊張するものだ...





アカネ「そこの椅子、座って。楽にしてていいわよ。」




ナオト「はい...」




アカネ「?」




ナオト「あ、いえ、その、少し緊張して...」




アカネ「ふふ、そう。」





......





アカネ「...それで。さっき、何話してたの?」




ナオト「え、いや別に何も...」




アカネ「まぁ、言わなくてもいいわよ。聞こえてたもの。」




ナオト「聞き耳立ててたんですか」




アカネ「人聞きが悪いわね。そりゃあ、気になるものは気になるわよ。ただでさえこの建物、よく響くのに。」




ナオト「それもそうですね...」




アカネ「...さて、本題に入るわ。」




アカネ「まず。あなた、いくらなんでも落ち込みすぎじゃない?」




ナオト「え?」




アカネ「大切な友達を亡くして、それでも立ち直ろうとした所に、密告で人がまた死ぬなんて。まぁ、分からないこともないけれど。それでもまだ、あなたは、神木くんの希望を継いでるんでしょ。1発、殴ってやるんじゃないの?」




ナオト「...なにが言いたいんですか。」




アカネ「単刀直入に言うわ。」





アカネ「...私と、手を組まない?」




ナオト「えっと、今日の朝に同じことを聞いた気が...」




アカネ「それとは違うわ。」




ナオト「違う?」




アカネ「ええ。根本的に違うわ。あの信頼関係は、もう崩れたも同然よ。それよりも、さらに信頼できる人だけで組んだ方が、より生き残る確率も上がるわ。もっとも、確率論ではないけれど。」




ナオト「......確かに、俺は桐江さんのことを信頼してます。頭もいいし、頼りになるし。でも...」




アカネ「でも?」




ナオト「あなたから、俺を信頼する理由はあるんですか?」




アカネ「返報性へんぽうせいの原理って、知ってるかしら。」




ナオト「なんですか?それ」




アカネ「心理学用語のひとつよ。突然だけど、あなた、誰かに意味もなく嫌われた経験ってない?」




ナオト「...まぁ、生きてれば数回は。」




アカネ「そうよね。その時に、ほぼ決まって、嫌ってきた人のことを、こっちからも嫌いにならなかった?」




ナオト「確かに、なりましたね。」




アカネ「そう、それが返報性の原理。あなたが私を信頼してくれたから、私も多少なりともは、あなたへの信頼があるのよ。」




ナオト「多少なりともって、そんなふわっと...」




アカネ「私は、それでいいの。」




ナオト「そういう、ものなんですね。」




アカネ「そう、そういうもの。信頼してるわ、東雲くん。」




ナオト「はは、ありがとうございます。」




アカネ「少し、元気が戻ってきたみたいね。」





アカネ「それじゃ、閑話休題かんわきゅうだい。本題に戻りましょう。」




アカネ「早速だけど。私はジャックを持っているわ。信頼の証と言ったらなんだけど、情報は共有しましょう。」




アカネ「......知っていたかしら?」




ナオト「ええ。だって、俺は、分かりますから。


...まぁ、絵札だけですけど。」




アカネ「キングを持ってるのね。頼もしいわ。」





俺は、キングの能力の効果を桐江さんに見せた。


そして、いままであったことを説明した...





アカネ「なるほどね、ジョーカーはそういう使い道が...。」




ナオト「あれは早坂さんの善意だったので、なんとか密告は済みましたが...」




アカネ「ええ、分かってる。もちろん、早坂さんの命を削ってまで、私はそんなことはしないわ。それにこれは、私たちだけの秘密。早坂さんに密告して私が生存条件をクリアしても、信頼を失ってしまっては元も子もないわ。」




ナオト「はは、そうですよね。なんか、ありがとうございます。」




アカネ「...それにしても、気になるわね。」




ナオト「どうしましたか?」




アカネ「是本さんのことよ。なんで飯伏くんなんかについて行ったのかしら。」




ナオト「......」




アカネ「ただの推測だけど、もしかしたら、」




アカネ「飯伏くんたちは、是本さんの復讐心につけ込んだのかも知れないわね。」




ナオト「復讐心?」




アカネ「会議室の中から、廊下で話していた内容は聞こえていたみたいだけど。飯伏くんが皇さんのところへ行くと知っていて、是本さんが飯伏くんを追ったとしたら?」




アカネ「もし声をかけたのが、飯伏くんからだとしたら?」




アカネ「彼ら3人には、決定的な共通点があるの。なんだか、分かるかしら?」




ナオト「......絵札...ですか?」




アカネ「ええ、そうよ。彼らは全員、絵札を所持しているわ。さしずめ、それを見越したうえで、飯伏くんはあの二人に、遅かれ早かれ声をかけたのかもしれないわね。」




ナオト「利用している、って事ですか...」




アカネ「その認識で、間違いないと思うわ。」




アカネ「ところで、こうやってチームを組むのには、大きく分けて2つの目的があると思うの。」




ナオト「信頼、だけじゃないんですか?」




アカネ「ええ、私たちみたいな綺麗な関係だけなら、それだけでいいかもしれないわね。」




ナオト「2つって、どういう...」





アカネ「信頼と、必殺よ。」





ナオト「必殺...?」




アカネ「ええ。文字通りの意味よ。」




アカネ「あの絵札だけを集める行動からして、彼らは、『能力者だけを集めて、それ以外の人間を着実に1人ずつ殺す』ことで、自分たちが生き残ろうとしているのよ。もちろんそれも、立派な作戦ね。」




ナオト「...でも、是本さんはそんなこと、しないと思います。」




アカネ「だから、あの二人は、是本さんの前だけでは、少し話を変えて、彼に寄り添うような形にしたの。ここで、さっきの話に戻るわ。」




ナオト「......復讐心、ですか?」




アカネ「その通りよ。皇さんに復讐心を抱いている是本さんの感情を利用して、飯伏くん達は、『着実に殺す』計画に、是本さんを引き入れたのよ。さも、それが正しいかのようにね。」




ナオト「......」




アカネ「残念だけど、止められないわ。是本さんは、自分の正義を貫いているだけだから。きっと、たとえ警官であっても、皇さんを殺す方に天秤が傾いているのよ。」




ナオト「じゃあ、俺たちはこれから、どうするって言うんですか。」




アカネ「焦らないで。今から説明するわ。」




アカネ「大きく、2つあるわ。まずひとつは...」








<猪狩 紬希が、皇 麗奈を密告しました。>








あの、アナウンスが流れた。
















[生存者、7名。]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る