第8話

車田さん...!?





とうとう、犠牲者が出てしまった......




失敗したって、どういうことだ...?





俺は、頭よりも先に足が動いていた。




2階、1階、と階段を下りた。





ロビーに着くと、皇さんが1人で立っていた。





レイナ「あら、あなたで最後ですわ。車田さんなら、そこを少し行った会議室に眠っていますわよ。他の皆さんはもう先に...」




ナオト「......そう、じゃないだろ...。」




レイナ「はい?」




ナオト「...いや、すみません...。たしか、放送の内容では、車田さんがあなたに密告失敗したとありましたが...。」




レイナ「ええ、その通りですわ。...ですが、悪く思わないでくださいまし。誰かが密告をしなければ全員死んでしまうわけですし、わたくしも、こんなところで死ぬわけにはいかないんですの。」




ナオト「それも、そうですね......」





俺は、何も言うことができなかった。




皇さんは車田さんを騙して殺したのかもしれないけど、何があったのかは分からないけど...。




悪いのは皇さんじゃない。


もちろん車田さんでもない。




このゲームこそ、最大の悪なんだ。




俺は、そう思った。


そう思わないと、何かが壊れそうだった。





ナオト「皇さんは、行かないんですか?」




レイナ「ええ。わたくしも、さすがに自分で殺してしまった人の顔は見られませんもの。」




ナオト「...わかりました。」





俺は、会議室へと向かった。







会議室の扉の前に、5人が立っていた。




いないのは...是本さんだ。





アカネ「東雲くん。」




ナオト「なんですか?」




アカネ「...いえ、なんでもないわ。ただ......私たちが今朝話したこと、覚えてる?」




ナオト「...はい。協力するってやつですよね。」




アカネ「ええ。こんなものだろうとは思っていたけど、思うものはあるわね。」




ナオト「そう...ですね。」





ナオト「えっと...どうして入らないんですか?会議室の、中に。」





アカネ「そのことね。中には、車田さんと是本さんがいるわ。あの二人、仲が良かったみたいだから。『10分だけでいい。2人きりにさせてくれ


ないか。』だって。......あんな顔で言われたら、さすがに待つしかないわよ。」




ナオト「...そうだったんですね......。」





しばらくの沈黙が続く。








ランマル「...あのー、ちょっといいかな〜?」





.....誰も答えない。


全員が、飯伏に視線を向ける。





ランマル「ボクさ、思うんだよ。そんな待ってまでして、車田さんの死体?を見に行く必要なんてあるのかな〜って。」




ランマル「それに、皇さんのこと、気にならないかなぁ?生きたかったとは言え、話し合いで説得させればいいものを、わざわざ騙して殺したんだよ〜?」





...こいつの言うことに、確かに間違いはない。




だけど、仕方ないじゃないか。




自分が生き残るためには、どちらにせよ他人が死ぬしかないんだ。


皇さんは、自分の生きる道を、自分で掴んだだけなんだ...。




そうに違いない。


そう考えないと、仕方ないだろ...。





ツムギ「アタシは賛成よ。」




ランマル「あはは!やっぱり紬希ツムギさんは話が早いなぁ!」




ツムギ「アタシたちは、このゲームの本質っていうか、人間の汚さっていうかを、甘く見すぎてたのかもしれない。『自分が生きるため』とかいう理由で、いとも簡単に人殺しを正当化してる。」




ツムギ「......それを受け入れなきゃ、次は我が身よ。死体を見るのもいいけど、そんな暇があるなら、さっさと生き残る算段を立てるべきよ。」




飯伏が笑って頷いている。




ランマル「ほかに賛成の人はいないのかな?んじゃ、行こっか。紬希さん?」





猪狩さんと飯伏が、ロビーへと歩いていった。







ランマル「あ、ねぇみんな。」




飯伏が立ち止まって、振り返った。






ランマル「ボクは裏切るよ。」








足音が鳴り響く。





...なぁ、間違ってないんだよな?


これでいいんだよな?




答えてくれよ、アズマ......







アカネ「...気にしなくていいわよ、東雲くん。彼らには彼らのやり方があるように、私たちは私たちで生き残りましょう。」





アンズ「そうですよ!きっと是本さんだって、こっちに協力してくれますよ。」




マリ「...前を向くしかないと思います。この中に入るなら、尚更ですよ。頼りないかもしれませんが、私も杏珠アンズさんもついてます。」




アンズ「ちょっと、私が頼りないみたいな言い方やめてください!」




マリ「...えへへ、ごめんなさい。」





アカネ「東雲くん。」




ナオト「は、はい」




アカネ「心の準備は、できているかしら?」




ナオト「......」




ナオト「当たり前、じゃないですか。」




アカネ「そう。強くなったわね。」





すごいな、この人は...。


こんな時でも、表情のひとつも歪んでいない。








ドアが、開く音がした。






マサミチ「あぁ、ごめんね。10分は少し過ぎてしまったみたいだ。」




マサミチ「...部屋の中から、話は聞こえたよ。飯伏くんと猪狩くんは、ロビーへ向かったのかな?」




アカネ「ええ。」





マサミチ「...なら、僕もロビーに向かうよ。特に飯伏くんに、話があるんだ。」





マサミチ「それと、部屋の中は、あまり荒らさないように気をつけてね。君たちなら、心配は要らないかな。」





是本さんは、ロビーの方へ歩いていった。




涙を隠していたが、俺には分かった。







アカネ「それじゃ、中に入るわよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る