黒猫が「また会えたね」と私に囁く

烏川 ハル

第1話

   

 窓から見える空は、今日も雲に覆われている。私の心の中と同じだった。

 こんな日に部屋に閉じこもっていたら、ますます気が滅入るに違いない。

 ただそれだけの理由で、私は散歩に出かけた。曇天みたいな薄灰色のパーカーを着込み、それより少しだけ色の濃いリュックを背負って。



 普通の人々は学校や会社へ行っている時間帯であり、住宅街の裏通りは閑散としていた。

 元気に活動中なのは、野良猫やカラスのような動物たちばかり。人間社会の習慣に縛られず、彼らには学校も会社も存在しないからだろう。


「また会えたね」

 聞き覚えのある声が頭上からってくる。

 足を止めると、塀の上で一匹の黒猫がうずくまっていた。

 いつものように、左目だけ開けて右目は閉じた状態。まるで人間のウインクみたいだ。

 初めて見た時は驚いたけれど、それは私の知識不足のせいだった。猫というものは敵意のない相手にはウインクする生き物であり、特に人間に飼われている猫は、頻繁にそうした仕草を見せるという。

 だからウインクに関しては幻覚でも何でもないはず。ただし「また会えたね」の方は幻聴に違いない。いくら調べても「猫が人間やオウムみたいにしゃべる」という話は見つからないのだから。

 きっと私は、頭がおかしくなっているのだ。

   

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