第31話 授乳服とケープ


「すぐに試作を作って参ります!!!」


意気揚々とマダムは帰っていった。


誰が思っただろうか。


3日後に早々に試作が出来上がるなんて。


「マダム?大丈夫ですの?」


目の下にはこれでもかと出来たクマに、ちょっとやつれているお針子さん達。


そして見事な試作品。


「ええ!ええ!大丈夫ですわ。何度も何度も試作を重ねましてね、ようやく奥様に見せれるだけのものが出来たのですよ!」


今日はより一層のマシンガントークに、ちょっと引いている私。


アリア達もキラキラとした目を試作品に向けているので、引いているのは私だけである。


「奥様に試着いただく前に、まずはご覧いただければと」


マダムがそういうと扉が開き赤ちゃんを抱いた女性が入ってきた。


装飾や生地は試作品よりは質素だが形は同じである。


「うちのお店の元従業員です。平民向けにはこちらのシンプルな型で売り出そうと思っていますわ」


「はじめまして、奥様」


元従業員という女性は、深々とお辞儀をしながら椅子に座り、授乳を始める。


「いかがでしょうか、これで授乳中の胸は見えませんでしょう」


なるほど、実践のために連れてきてくれたのですね。


マジマジ見るのも失礼な気はするが、これも商品のため。


「そうね、でも少し飲みにくいみたいだからもう少しスリットは深く、ここを二重にしてみたらどうかしら」


「まぁ!なるほど。早速直しますわ」


マダムは素早くスケッチを始める。








「ねぇ、良ければ抱っこさせてくれないかしら?」


授乳が終わり赤ちゃんをあやしている女性に聞いてみる。


「えっ、うちの子をですが、むしろ良いのでしょうか?」


「えぇ抱っこの仕方を教えて欲しいわ」


なんせ初めての体験である。


そっと従業員の女性から男の子の赤ん坊を受け取る。


「リィトと申します」


「リィト、可愛いわね」


慣れない腕に少し落ち着かなさそうだが、それでもギュッと握られた服に笑みをこぼす。








「ヴィー、相談があるのだけれど」


夜に戻ってきたヴィーに相談する。


「乳母を頼みたい人がいるのよ」


そう切り出し、今日の昼間の話をする。


ローズの乳母であったベスは今ローラの専属メイドである。


なので、今回は新たに乳母を雇いたいと。


本日会ったマダムの元従業員の女性である。


彼女はイリスといい、出産前にマダムのところをやめて今は子育てしていると。


この世界では当然育休も産休もなく、託児サービスなども無いため、誰かに子供を預けれるようになるまでは働けない。


しかし乳母となると住み込みになるため、子供を家族に預けて本人だけが住み込みとなる。


それがこの世界の普通ではあるが、莉子考えでは親と子を離すのは忍びない。


リィトごと住み込み、可能であれば旦那さんごと雇用できないかと考えている。


現に使用人用の家族部屋もない訳では無いので家族ごとの住み込みは問題ないはず。


「ベスではダメなのか?」


「ベスはローラの乳母だからできたら違う人がいいかなと思ってる。なんとなく乳母を取られた様な気分になるんじゃないかと思って」


「よく分からんが、分かった。ジルバに伝えておく」


「この世界には託児所がないのよね、せめてお屋敷だけでもあれば良いんだけど」


「託児所とは何だ?話してみろ」


その日ヴィーに熱く語った託児所と産休育休制度についてもなぜかジルバに伝達されていたようで後日お屋敷内の託児所の草案が渡された。


仕事が早すぎる。

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