第72話 神の血
「光を失うことが恐ろしゅうは無いのか?」
白いツリーハウスに備え付けられたシングルベッド。
そこへうつぶせの状態で横になるリエルノ。
何やらお尻を両手でサスサスとさすっている。
とりあえず出合い頭に「こんばんわ」と挨拶をしておいた。スルーされた。悲しい。
「
リエルノはそういうと、うつぶせていた顔を横向きにし、俺へと視線を合わせた。
「自分自身に激甘な奴らがこぞって言うておったぞ、此度の二成の死期は早い、とな」
「死期?…俺、死ぬ?、なんで?」
突然にして死期がどうのこうの。
俺、困惑。
「美春、お主さきほど『黒』と
黒?、なんぞそれ。
今日も昨日もこれまでも、黒なんて言う人と俺はあったことは無い。
困惑に次ぐ困惑。
俺は眠気を耐えるように欠伸をした。
昔から人の話を聞くのは苦手である。
もう少し理解できるよう話してほしいものだ。
一応、そうしてくれるよう頼んでみる。「っち」と舌打ちされた。怖い。
「未来と共に在る『白』、過去と共に在る『黒』」
理解力が乏しい俺を無視して語りは続く。
情報処理が追い付かなくとも、とりあえず聞くふりだけはしておく、怒られないよう。
「
―――あぴゃぴゃぴゃぴゃ♪。
ひたすらポケーっとリエルノの話を右から左へ流していたら、幼女の気が狂ったような笑い声が外から聞こえてきた。
ツリーハウスの螺旋階段。
そこをテケテケと駆けあがってきているのか、笑い声が徐々に昇ってくる。
情報の荒波に揉まれていた俺、無事浮上。
面倒事を避けるため、とりあえずリエルノの傍へと近づき、彼女を盾とする。睨まれた。盾扱いしてごめんなたい。
「『白』と『黒』、両者ともに二成を愛せど、その方向は真逆」
――あぴゃっぴゃぁっ…
「慈愛の『白』、虐待の『黒』、とは
――あぴゃーーー♪、あぴゃぴゃッ♪。
「ひとたび視界を『黒』に染めれば、お主が辿る結末は――」
――バーンッ!!。
「あぴゃ♪」
語りの途中で勢いよく扉を開けて登場するは、いつかの幼女。悪戯娘の方ではなく、ちょっと様子がおかしい幼女の方だ。
悪戯娘が七、八歳。
キチガ〇幼女が三、四歳。
これまで見てきたどの俺とそっくりさん達よりも幼いのが目前の幼女。
幼女は焦点が定まっていない中、血走った眼で俺を探すように、常に瞳をぎょろぎょろと動かしている。
………我ながら恐ろしい形相だ。
「あぴゃぴゃーーッ!!」
「ひぃっ」
見つけたと言わんばかりに俺へと顔を向け、奇声を発しながら駆け寄ってくる幼女。
俺は思わずのけぞって悲鳴を漏らす。
「ふんっ、餓鬼めが」
――ペチンッ。
ベッドから這い出て、俺を庇う様にたったリエルノ。
飛び掛かってきた幼女のふっくらとした頬に、容赦のない平手打ちを浴びせた。
前回同様、リエルノにぶたれたことで幼女は霧となる。
その際、幼女は「あぴゃぁ~♪」と幸せそうな声を漏らして消えていった。
ちょっとMっけが強すぎる子である。
なんだか引くと同時に、なんとなく可哀想な子である。
…今度会ったら、優しくしてあげようかな?。
「アレは『黒』に偏った二成の姿、同じ結末を辿りたく無くば、瞳の力は自重せよ」
リエルノはチラリと俺を一瞥して口を開いたあと、お尻をさすりながら開けっ放しとなっている扉へと近づいた。
なにがなんだかよく分からないが、「あい」と返答。
とりあえず目を休ませることにした。
ゴッドパワー、何度目かの封印である。
気張れ、俺。
「それからアレに優しさなど不要、隙を見せたが最後、体を
リエルノの忠告。
俺は先ほど見せた慈愛の精神をその辺に捨てた。
「話は以上、じゃぁの」
そういって、リエルノは外へと出て、扉を閉めた。
部屋へと一人残された俺、首を傾げる。
「…ジェットコースターは?」
いつも去り際はぶっ飛ばされる展開。
それが無かったことに、困惑。
呆けたあと、何となく自分の姿を見下ろした。
「……ラッシュ、じゃない?」
白のタンクトップに黒の短パン。
両手には赤きボクシンググローブ。
ラッシュのコスプレ衣装を身に纏った素の状態の俺。
ここへ来れば前回と同じようラッシュに成れると思っていたが、違うのだろうか?。
…うーむ、謎である。
「……ふぁ~~あ~~あぁ、……ねみゅ」
朧げな世界でもお腹が減るのと同様、眠気が来る。
俺はとりあえずリエルノが使っていたベッドをお借りして、眠ることにした。
―――ヒラヒラヒラ。
眠りに落ちる間際、視界を青白く光るなにかが横切った。
眠気がピーク。
気にはなるが、それだけだ。
お休み、世界、また明日。
むにゃむにゃむにゃ。
== 深夜はリエルノの宴 ==
世界を紡ぐ天空の鳥居。
潜った刹那、意識が明瞭となる。
「……夜這いでもする気か?、失せよ」
秒針を刻むレトロな音だけがする暗闇の中。
確かな気配を感じ取り、
「……」
陰に潜みし者。
それは向けていた殺意を押し殺し、天井へと身を隠した。
再びの静寂。
「……紛い物の嫉妬ほど面倒なものは無いのぅ、まったく」
核たる美春が友とするSK。
それの無事を確認しつつ、絡みついてくる腕を解く。
結構、乱暴に解いたというにSKは起きず。
すやすやと寝息を立て、ぐっすりおねんね状態。
実に年相応な寝顔。
巫覡にも勝るとも劣らぬ顔つき。
危ういものを感じてならぬ。
言うなれば死相。
それが面にうっすらと浮かんで見える。
詳細を知ろうと、美春の記憶を覗き見る。
直近の出来事で答えを見つけた。
「血を、呑んだのか…」
口元に右手を置き、
「神血は只人にとって毒、二成ともあれば猛毒ぞ、…よく今の今まで生きられたものよ」
時間という概念すら飛び越える超物質、神力。
それが多分にして含まれるのが血液。
微量なら若返りの効果や自然治癒力の促進を促すが、一定量を超えて接種すれば、薬と同様に毒と化す。
神々の頂点に君臨する二成。
その血となれば化けるのは猛毒。
ほんの一滴といえど、只人が口にすればたちまち死を迎える。
これまで二成の血を呑んで無事でいられたのは両手で数えるぐらいにしか、
まっことSKが今を生きておるのが不思議でならなんだ。
加護を与えた際、苦しんで見せたのは恐らく拒絶反応。
体内に含む
なんと稀な体質……いや、
虫と蔑まれる存在が、人も巫覡も超え、神の地位を得ようとしておる。
それを可能にしてしまう程、二成の血は尊い。
この事実は驚愕に値する。
「SK……お主、碌な死に方はせぬぞ」
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
太古の昔から言われてきた格言。
これから先、SKは苦難の道を歩むこととなろう。
二成の血に適応しても、しなくとも…。
「……せっかく気分転換で出てきたというに、寝起きから最悪な気分じゃ、まったく」
嫉妬心に駆られた影の者に殺されかけたSK。
二成の血を含んで死相が見えるSK。
不運が過ぎる少女なんぞ、見てて気分のいいものではない。
起動中、スマホとやらをイジって時間を過ごす。
「ん?、なんじゃぁこれ」
スマホで起動したアプリ――Qwitter。
そのダイレクトメッセージというところに来ていた何かの写真。
上部に毛がモサモサと生え揃い、棒と皮袋の様なものが映っている。
むむむ、と目を細め、首を傾げる。
そして写真を鑑定することしばし。
それが何なのか、したくも無いのに理解した。
「ぎゃぁああああーーーッ!!」
神々の頂点にしてその半身を努める
チン凸なるものを受ける。
セクハラじゃ、最悪じゃ、気持ちが悪いのじゃ。
おぇッ。
「……うるしゃいなぁ…美春、こんな時間に何してる?」
「SKーーっ、癒してたも、穢れた
誰とも知らぬ獣の如き陰部。
それの記憶を拭おうと、ベッドから起き出てきたSKに抱きついてなでなでを要求。
穢れ無きその掌で浄化してたもっ!!、鮮明に刻まれたこの記憶をッ!!。
「どうした美春、よしよし……ん?、PCつけてゲームでもするのか?」
心地よさに少しだけ落ち着きを取り戻しつつ、首を振る。
とてもではないが、ゲームをする気分ではない。
今はただ、癒されたい。
癒してほしい。
切実に。
「なんだか目が覚めちゃったな、せかっくだから深夜ゲリラ配信でもするかッ」
傷心中の
なんぞ?。
なにするつもりか?。
そんな事よりもっと
「よし、セッティング完了!!、配信するぞッ!!」
エンターキーがタンッと叩かれ、配信がスタート。
正面のモニターにABEXのホーム画面。
右のモニターにチャット欄。
左のモニターに暗闇にでかでかと映る
……でかでかと映る
なんだか、胸がざわつくのは気のせいか?。
美春、これって映してよかったかの?。
……ふぇ?。
「あっ、間違えたッ!!」
慌てた様子でマウスとキーボードを操作するSK。
配信が始まって数秒、配信が終わった。
やってしまった気がするのは気のせいじゃろうか?。
瞳の力を使ってなかったことに……いや、今日は既に美春が酷使しすぎた、使うのは憚られる。
それにどうせ説教と体罰を喰らうのは
痛う目を見るのは
ならば進んで愚行は犯すまいて。
美春も少しは痛い目を見ればいいのじゃ。
今のうちに、もっと。
【豪神王ラッシュ】
チャンネル登録者数4.9万人。
現在のライブ視聴者数4人。
≫こんばんわ。
≫あれ?、終わった。
≫ロリで天使な顔が見えた気が…。
「うーん、他人様の環境だと今一設定がよくわからんなぁ、やっぱり美春がセッティングして」
セッティングしてといわれても
美春の記憶を覗き見て進めれば出来るであろうが、面倒じゃ。
今日は寝起きから気分が最悪じゃから、スマホを片手に動画でもみて暇を潰すかの。
チン凸のショックから立ち直りつつ、
「ん?配信しないのか?」
「うむ、今日はアニメでもみて時間を潰すとする」
「ふーん、じゃぁ私も一緒にみる」
一緒にみる。
そう言ってものの数秒で寝息を立て始めたSKを横目に、アニメを視聴。
プリルキュアなるアニメにしばらく手に汗握ったあと、宴は終わりを告げ、
どこぞの掲示板で、
―― 後書き ――
次、閑話の掲示板。
その次、修羅場からの文化祭。
その次の次ら辺、アメリカ合衆国を西から東に横断し、太平洋を泳いで日本へと不法入国したフリー・フェンリー。
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