第50話 神様、来日


「よし、とりあえずこんなものでいいだろ。あとはダメガさんが来るのを待つだけだな」


「ええ、何とか無事に完成しましたね」


 時間は昼過ぎ、みんなに手伝ってもらって、無事に作業を終えた。この1週間の営業で俺自身が気になったところや、ポエルたち従業員の気になった意見を聞いて、温泉宿のいろいろな部分を改良した。


「みんなも休みの日にありがとうな。この分の埋め合わせはちゃんとするからね」


「ううん。昨日は休みをもらえたし全然大丈夫だよ!」


「フィアナ、こういう時は素直に礼を受取っておくべきじゃぞ。礼と言うなら、昨日のような甘い菓子をまた頼むのじゃ!」


「あっ、僕もそれがいい!」


「ああ、温泉饅頭ね。わかったよ、あんなものでいいなら、また休みの日に作ってあげるよ」


 昨日作った温泉饅頭をかなり気に入ってくれたみたいだな。どうやらこちらの世界の人は甘いお菓子に飢えているようだ。俺も料理やお菓子を作ったりするのは嫌いじゃない。また今度の休みの日にお菓子を作るとしよう。


「ポエルも本当にご苦労さま。ポエルのおかげで例の機能に目処が立ったのは本当に助かったよ」


「いえ、私だけではなく、仲間が手伝ってくれたおかげです。それにこの程度の無茶ぶりはいつものことですから」


「……そうか。でも本当にありがとうな」


 今回一番頑張ってくれたのはポエルとその仲間の天使さんたちだ。この温泉宿にどうしても付けたい機能があって、ポエルに相談したところ、昨日の夜から仲間の天使たちと一緒に作業を始めて、時間内に完成させてくれた。


 一応例の駄女神案件とはいえ、協力してくれた天使たちにはとても感謝している。ただでさえ天界の仕事は忙しいと言っていたからな。


「感謝の気持ちは現物でお願いしますね」


「………………」


 相変わらず欲望に忠実な天使さんである。


「了解、何か考えておくよ。そういえばポエルの仲間も甘いお菓子を食べたりするの? あんまりお礼にはならないかもしれないけれど、昨日作った温泉饅頭とか食べたりするかな?」


「ええ、きっと喜ぶと思いますよ。むしろ感謝の気持ちは甘いお菓子でお願いします」


「ああ、お安い御用だよ。あとでフィアナの収納魔法から取り出して持っていってあげてくれ」


 本当は今週来てくれたお客さんのためにたくさん作った温泉饅頭だが、今回は昨日今日で頑張ってくれたポエルの同僚の天使さんたちに全部あげるとしよう。


 それにしてもポエルの同僚か。天使と言うからには、みんなポエルみたいな美人だったりするのかな?


 ……さすがに全員がポエルみたいな毒舌でないと信じたい。




「……どうやらやってきたようですね」


「来たか。それじゃあ予定通り、最初はみんなで出迎えよう」


「うん!」


「わかったのじゃ!」


 どうやらポエルが女神の気配を感じ取ったらしい。まずは予定通り従業員全員で出迎えるとしよう。


「「「いらっしゃいませ、ようこそ温泉宿日ノ本へ!」」」


「やあヒトヨシくん、久しぶりだね。へえ~まだ営業を始めてから少ししか経っていないって報告だったのに、もうこんなに立派な温泉宿を作ったんだね!」


 相変わらず女神は小学校低学年くらいの身長でサラサラとした金色の長い髪、キラキラと輝く金色の瞳、人形のように整った顔立ちをしている。出会った時と同じようにギリシャ神話とかで見たことがある白いドレスを着ている。


「いらっしゃい、ダメガ様。お久しぶりですね」


「んん? ああ、そういうこと。2人も新しい従業員を雇ったんだね。……って、なにやらすごい人たちみたいだけれど。まあ、元気でやっているようで何よりだよ」


 フィアナとロザリーの前では偽名を使うことを察してくれたようだ。……ダメガの元の意味については察していないといいなあ。


 それにしても、さすが神様と言うべきか、フィアナとロザリーの2人がただものではないことが分かるらしい。


 というより、彼女たち2人をこの温泉宿に送り込んでくれたのは神様の計らいかとも思ったがそうでもないらしい。まあ、この面倒くさがりな神様がそんなことをしてくれるわけはなく、調整してくれたとしてもポエルの同僚の天使さんたちだと思っていたけれどね。


「おかげさまで従業員にも恵まれて、立派な温泉宿ができましたよ。さっそく宿の中を案内しますよ」


「うん、頼むよ。それと面倒だから口調も前と同じように普通にしゃべっていいからね」


「……了解。俺もこっちのほうが話しやすいから助かるよ」


 以前話していた時もそうだが、なんとなく幼女の姿をしているこの神様にはこっちの方が話しやすいんだよね。一応はお客さんとして話していたが、向こうがいいと言うのなら、この喋り方でいいだろう。


「それじゃあ、あとは俺とポエルが案内をするから、2人はゆっくりと休んでいいからね」


「はい」


「わかったのじゃ」


 とりあえず2人を一応は俺の上司扱いである女神へ紹介してから従業員の部屋で休んでもらう。料理も含めて女神への対応は俺とポエルで十分である。まあ神様や天使とか天界とかについて、2人に説明しても信じてもらえるか分からないからな。


「それにしてもだいぶ突然だったけれど、どうしたんだ? ポエルからは視察みたいなのじゃなくて遊びに来たって聞いたけど」


「ちょうど君の世界の今期アニメが終わって今週は時間があったんだよ。いやあ、本当に今期のアニメは豊作だったね! 来季のアニメも来週から始まるから、楽しみでしょうがないよ!」


「「………………」」


 どうやらアニメのクール休みで今週が暇になったからここに来たらしい。本当にこの駄女神は相変わらずのようだ。

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