第46話 要望点


「俺からは引き続きこのまま今週も頑張ってほしいくらいだけど、みんなからの要望点はあったりする?」


 3人のほうからも気になったことがあれば聞いておきたい。こういったことは現場で働いている従業員の視点から新しい発見があったりするからな。


「ひとつだけ不満があるのじゃ!」


「……なんだ? なにか不満があるなら遠慮なく言ってくれ」


 ロザリーが手を挙げた。働いている従業員の不満を解消するのは上司の務めだ。従業員が働きやすい環境を整えていくことも非常に重要である。


「お昼のまかないが野菜ばかりなのじゃ! この夜ご飯のようにもっと肉や魚を所望するぞ!」


「………………」


 不満てまかないのことについてかよ! 真面目に聞こうとして損したわ!


「ええ、それについては私も同意ですね」


「あっ、それは僕も思った!」


 ポエルやフィアナまで同意しだした。おまえら、もっと他にないのかよ……


「夜ご飯は今の食事みたいにお客さんと同じものを出すから、昼はヘルシーな料理のほうがいいんだよ。昼も夜と同じものを食べ続けたら確実に太るぞ」


 この温泉宿の夜の料理はお客さんのために多少豪華な料理を作っているが、豪華な料理というものはその分カロリーの高いものが多かったりもする。


 いくら日中働いて動いているとはいえ、夜と同じレベルの昼食を取り続けていたら間違いなく太る。ただでさえみんな俺よりもたくさん食べていることだしな。


「うっ……確かに運動量は今までより間違いなく減っているし……」


 そりゃいくら温泉宿の仕事は普通の仕事よりもハードとはいえ、魔物を狩るために戦っている冒険者の仕事よりは動いていないだろう。


「確かに駄女神からの無茶な仕事がなくなって、運動量もだいぶ減っておりますね……」


 ポエルも今までの駄女神からの無茶な仕事がなくなった分、前よりも運動量は減っているようだ。


「妾はむしろ今のほうが動いておるな」


 例外はずっと引きこもっていたロザリーくらいか。むしろ、よく今まで引きこもった生活をしていて太らなかったとも思ったが、胸部に栄養が行っている可能性もあるな……そんなセクハラ発言はさすがにできないけれど。


「とにかく昼のまかないは今まで通り軽めのメニューにするからな。他には何かあるか?」


「横暴なのじゃ!」


「くっ……ここはもっと上の上司に訴えたいところですが、上司はアレですし……」


 上司がアレな件については同意するが、別に普通の上司であっても、そんな要望は受け付けないと思うぞ……


「わかった、わかった。それじゃあ週末の休みの日には俺の世界の甘くておいしいお菓子をご馳走するから、それで我慢してくれないか?」


 みんなも頑張ってくれているし、少しくらいご褒美のようなものがあってもいいだろう。


 元の世界で女性は甘いお菓子が好きだったし、こちらの世界の女性も甘いお菓子は好きなんじゃないか?


 それに元の世界でも砂糖やはちみつが一般家庭に普及してきたのは歴史の後半だったし、この異世界での甘味はあまり広がっていない可能性もある。


「甘くておいしいお菓子!?」


「そうだぞ、フィアナ。俺の世界ではいろんなお菓子なんかが作られていて、果物とは異なる甘さがするお菓子がたくさんあるんだ」


 洋菓子に和菓子、焼いたり蒸したり干したりなど、様々な趣向を凝らして作られたお菓子が存在する。あれだけお菓子の種類があれば、間違いなくみんなの満足できるお菓子があるだろう。


「本当! 楽しみだね!」


「なるほど、ヒトヨシ様の世界のお菓子ですか。興味がないと言えば嘘になりますね」


「おお、甘いものじゃな! よし、約束したぞ!」


 とりあえずみんな納得はしてくれたみたいだ。ストアの能力を使ってお菓子を購入することもできるが、せっかくの休みだし、一からなにか作ってみてもいいかもしれないな。


 俺も洋菓子はそこまで作れないが、和菓子は作れたりするからな。うちの温泉宿ではデザートに果物を出しているが、たまに和菓子も出していた。この温泉宿でもデザートに甘いものを出してもいいかもしれない。まあ温泉宿といえばまずはあれか。


「ああ、約束だ。それじゃあお昼についてはそれでいいとして、他になにかあるか?」


「そうですね。今日来た盗賊みたいな輩がまた来る可能性もありますので、やはり温泉宿内での武器の携帯制限は徹底していきたいですね」


「なるほど。確かに温泉宿に泊まってから悪意のある行動を起こすやつがいてもおかしくないな。宿内で武器を持っていないかはしっかりと確認して、特に戦闘能力のない俺とポエルは人質に取られる可能性が高いから、基本的には誰かと一緒に行動しよう」


 今回はフロントで問題を起こそうとしていたが、一度宿の中に入ってから行動を起こす相手もいるに違いない。廊下や食事処で武器を所持していないかはしっかりと確認し、俺とポエルは最低でもロザリーのゴーレムと一緒に行動するように心がけるとしよう。


「そういえば、鳥人族の女性のお客様が文字を読めなくて、自動販売機の使い方がわからなかったって言ってたよ」


「ああ、一応説明の絵もあったけれどわかりにくかったのか。やっぱり休憩所にも従業員の呼び出しベルを設置しておいて、わからなかったら押してくれとフロントで言っておいたほうがいいな」


 そんな感じで食事を取りながらみんなと一緒に今日の仕事のことについて話し合う。実際に女性のお客さんの意見やこちらの世界のことについて詳しくない俺にとって、みんなの意見はとても貴重だ。今後も毎日仕事が終わったらみんなで情報共有する時間は確保しておくとしよう。

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