第18話

 どうしましょう。言おう言おうと思っているうちに今日になってしまったわ。

 私は、家族と一緒にラフリィード侯爵家へ向かっている。

 色々一段落して、婚約するにあたり顔合わせの運びとなった。

 お父様も二人のお兄様も、仕事を休んで一緒に向かっている。


 「メロディーナ、もしかして緊張しているのか」


 上のジャックスお兄様が、にやにやとして聞いた。

 21歳のジャックスお兄様には、未だに婚約者もいない。


 「えぇ、まあ」

 「あはは。珍しい。やっぱり婚約となるとメロディーナでも緊張するものなんだな」

 「ギレス、あなたは少し緊張感があった方がいいと思うわ」


 お母様が、下のギレスお兄様に言えば、へいへいと返している。

 18歳になったギレスお兄様にも婚約者はいない。


 私はずっと、事が一段落したらラフリィード子息に婚約を破棄しましょうと言おうと思っていた。

 事件が解決するまでは、解約する事は不可能。

 この婚約は、今回の騒動でロデが私だと発覚した時の為の保険でしょう。ならもう、その必要はない。


 ラフリィード子息には、ほぼ毎日顔を合わせていた。ロデとしてだけど。

 なぜか、事件が解決した後も私と手合わせに来ていた。

 しかも嬉しそうにしている。変な性癖に目覚めてなければいいけど。


 本当なら今日までに解約したかった。

 集まって頂くのに、今日言うのは申し訳ないから。

 だったらお父様に言えばいい。けど私は、ラフリィード子息に会えなくなるのが嫌らしく、せめて手合わせだけでももう少しと、気づけば今日になっていた。

 婚約を断れば、手合わせにだって来なくなるでしょう。それが嫌だった。

 この気持ちは何なのでしょうか。初めての感情に私は戸惑っていた。


 とうとうラフリィード侯爵家に到着してしまったわ。


 「よくいらっしゃいました。ハルサッグ伯爵。さあ中へどうぞ」


 ラフリィード侯爵に促され私達は、立派な豪邸に足を踏み入れた。

 ラフリィード子息も居て、前を歩いている。そんな彼から目が離せない。

 いつもと違う雰囲気。


 席につけば、お茶を振舞われた。

 いい香りがするわ。きっと高級茶葉だわ。


 「実は、一時間後には妻と娘が到着出来そうなのです。ですので、ちゃんとした顔合わせは、来てからで宜しいですかな?」

 「もちろんだ」

 「ルティロン、ハルサッグ嬢をお庭にでもご案内しなさい」

 「はい! では、行きましょうか」

 「はい……」


 立ち上がったラフリィード子息に、ついて行く。

 何だろうか。凄く緊張して喉が渇くわ。


 「ここが、見頃の場所です」

 「綺麗ですね」

 「気に入って頂けたのなら幸いです」


 私は、こくんと頷く。

 さあ言わなくては!


 「ラ、ラフリィード子息」

 「はい。何でしょう」

 「こ、婚約破棄して下さい!」

 「はぁ? な、なぜです? 俺が嫌ですか?」

 「ち、違います! 申しわなくて……この婚約でそちらにメリットはないでしょう。作戦中には、婚約破棄はできなかった。でも今ならできます」

 「それって、俺とは結婚したくないと言う事でしょうか?」


 私の真意を探る様にラフリィード子息が、私の瞳ジッと見つめ聞いた。

 なので目を伏せる。だって、見つめられたら心臓がドキドキとうるさいから。


 「いえ、できれば結婚したいです。ラフリィード子息は、私がロデだと知っても引かないでくれていたし、お友達にと言ってそれを守って手合わせにも付き合ってくれて……。いえそうではなく、私は後三年は騎士でいなくてはいけません。ラフリィード子息がお父様の跡を継いで外交のお仕事をされるのであれば、私と結婚すればご迷惑に……」

 「待って。俺は、父上の跡を継ぐ気はないけど」

 「え? 継がないのですか?」

 「そもそも代々継ぐ稼業でないからね。婚約破棄したいのは、俺の仕事に支障があるから? ならそれはクリアだね」


 あ、あれ? そうだったんだ。じゃケイハース皇国には帰らないのね。よかった。ではなくて……。


 「えーと、そもそもお父様が無理を言って……」

 「そっか。そうだよな。そう思っているよな」

 「え? 違うのですか?」


 あれ? そういう話ではなかった?


 「最初はそういう話から始まったけど、俺はそういう事になってよかったと思っている。君には嫌われていないとは思っているけど、俺ではダメだろうか?」

 「え? いや全然。逆に私でいいのかどうか。結婚してから私がロデだと知れる可能性もあるわけですし」

 「君が構わないならロデだと知れても、俺はいいけど」

 「え~!!」

 「それぐらい君を好きになったって事。やっぱりちゃんと言わないと通じないね。君に会いたくて毎日手合わせに行っていたんだ」


 嘘! 嬉しそうにしていたのってそういう理由だったの?


 「えっと。私も毎日会えなくなるのが嫌で、婚約破棄を言い出せなかったです……」


 ううう。私今、顔が真っ赤よね。


 「それって、俺の事好きって事?」

 「はい!?」


 え? そうなの? 私、ラフリィード子息を好きなの?

 この感情は恋だったの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る