第8話 凄絶たる勝利の一撃。そしてタイトルの回収

「という事なんで、どうか皆さん宜しくお願ぇしやす」


<しょうがないなぁ。でもここまで深く視聴者が参加出来る配信なんて他に知らないのも事実なんだよね>


<君の配信でしか経験出来ないのなら、強力するのも悪くないか>


<しゃあない、みんなでお前に投げ銭したるわ>


<俺達の手で、あのモンスターを倒すんだ!!>


<任せろ、俺達がお前を守ってやる!!>


<頑張れよ、治郎!!>


<負けるな治郎!!>


<男を見せろよ治郎!!>


 …………。


「で、ですからね? そんな治郎治郎って本名を言わず、ちゃんと配信用に名前を用意してるのだからそっちの方で呼んで頂けないかなぁって」


<そんな事はどうでもいい。さっさとドローンの操縦権を渡せ>


 えぇ、そんな事って……。

 でも、もう課金を終えたのか。思った以上に速かったな。


「あ、ありがとうございまぁす! では早速……。ドローン! セミマニュアルモォォォドッ!!」


<いや、そんなカッコつけるような事じゃ無いと思うけど……>


 でもこういうのは叫んだ方がカッコいいじゃん?


 という訳で、ドローンの操縦を一番課金してくれた視聴者に渡して、俺は再び長谷山の加勢に戻る事にした。

 さすがにあの野郎、額に汗が浮かんでやがる。とっとと決めないと体力が尽きるなありゃ。


「大丈夫か長谷山?! 俺に一つ考えがあるんだ。とにかく今のまま頑張ってくれ、隙が出来しだい俺が合図を出すそうしたら一気に離れるんだ」


「それだけでいいの? よくわからないけど分かった君を信じるよ!」


 おうおう信じてくれよ。そうすりゃあお前にも勝利っていう甘い汁を吸わせてやるからよ。へっへっへ。


 それから先は長谷山が切り込む。当然相手はなかなか通してくれないが、あいまあいまに俺がその辺の石を投げるなどして注意をそらす。手持ちのバタフライナイフがあの鎧相手に効くとは思えないから仕方ない。


「ソラァ! ソリャァアア!!」


 勢いよく叫び声を上げながら鎧野郎に切りかかる長谷山。

 しかしこいつ、声を上げると意外と女みたいに高い声を出すんだなぁ。よく考えたら地声も言うほど低くないしな。


 ま、そんなことはどうでもいいか!


 長谷山が切る、俺が注意を逸らす。即席ながらそこそこのコンビネーションを発揮する俺たち。

 そうこうしているうちに、鎧野郎の手元が狂って剣を落とした。


 ここだ! ここしかない!


「今だ離れろ長谷川ッ!!」


「わ、わかった!」


 俺の指示に素直に従って、二人同時に鎧野郎から離れる。

 そこを、待ってましたと言わんばかりにドローンの電撃発射口がバチバチと火花をあげていた。


<よし! 行くよみんな!!>


<沈めぇぇぇ!!!>


<往生しいやダボがッ!!!>


 何か叫んでるけど、ローボリュームに設定したままだから少し離れると何言ってんのか全然分かんないや。


 ともかく、視聴者達の投げ銭により膨大な威力となった電撃がドローンより発射された。

 それは、言ってしまえばまばゆいビーム。それも極太の。

 ドローンの数倍の大きさを誇る巨大な電撃が一直線にブラックナイトに直撃。


 一瞬にしてヤツの全身を飲み込んだ。


「やったか!?」


「え? 何? どうなってるの?」


 思わず声を出した俺と、状況を全く把握できない長谷山。

 期待と不安が入り混じりながらその時を待つ。

 やがて舞い上がった埃が晴れた、その先には……。


「は!? 何もない!!」


 長谷川が驚いてそう言うが、厳密に言えば黒ずみになったであろう跡が地面に描かれていたのだ。


 つまるところ……。


「や、やったぜええええ!!!!! 俺の勝ちだあああああ!!!!!!」


 そう、倒したのだ!

 S級に指定されている(らしい)モンスターを俺はやっつけて見せたのだ。

 何ということだ、俺は配信初日にして伝説的な活躍をしてしまった。

 ああ! 自分の才能が恐ろしい……!


<いや、やったのは僕たちなんだけどね>


<今は言わせておけ。どこまで調子に乗るのかを見るのも、それはそれで面白い>


<まあ色々と思うとこあるけどお疲れさん。これでチャンネル登録者が増えるとええな>


 ボソボソと何か言ってるが。きっと俺の凄さを褒め称えているんだろう。

 長谷川を巧みに操り、視聴者を扇動する手腕。そして、このドローンを買う判断を下したこの俺の先を見通す目! そう、全てが俺の力なのだ。


 やっぱ俺って強い! 天才!!

 今日確信した、やはり配信業は俺の天職だぜ!!


「がぁっはっはっはっは!! だがこの伝説も所詮は足がかりよ! ここから始まるんだ! 俺のッ! バラ色の人生!! セクシーな女を侍らせながら札束の扇子で顔を仰ぐ特権階級の人生がなぁ!! はぁはっはっはっはっはっはぁ!!!!」


 た、高笑いが止まらねえ! うひ、うひひひ。うひゃひゃひゃ!!


「な、何? どうしたの急に? というか何がどうなってるの? 僕一個もわからないんだけど」

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