第34話
スマホの着信音が響く。
電話番号は知らないものだった。
「もしもし?」
『すいません、小松果歩さんの
旦那さんですか?
こちら、救命士の齋藤と申します。』
「はい。果歩の夫の小松晃と言います。」
『ありがとうございます。
奥さんのバックの中にありました
手帳を拝見しまして、
旦那様の電話番号ということで
かけさしていただきました。
緊急にお伝えしたいことがありますが
よろしいでしょうか。』
「は、はい。
果歩は
どうかしたんでしょうか。」
『落ち着いて聞いてください。
奥様の果歩さんは、
交通事故に遭われ、
電信柱に運悪く、車ごと
ぶつかってしまいまして、
ほぼ即死の状態かと思われます。
内臓の損傷が激しいので
ご遺体の確認を
していただきたいのですが、
病院にご来院は可能でしょうか?
場所は⚪︎⚪︎総合病院です。』
「え、あ…果歩がですか?」
『突然言われても信じられませんよね。
直接、お顔を見ていただき、
ご本人様確認もしていただきたいので
心苦しいかと思いますが、
よろしくお願いたします。』
「は、はい。
わかりました。
すぐに伺います。」
晃は、電話を切り、
スマホを持つ手が震えた。
誰もいない台所でガラスコップが
突然落ちてガシャンと割れた。
果歩が来ていたのかもしれないと晃は
すこし思った。
「比奈子、お母さん。
事故に遭って……亡くなったって。」
言っている言葉が話してる自分が
信じられない。
まさか果歩が死ぬなんて。
直接人の死をすぐに知るのは
今回が初めてだ。
絵里香の時は亡くなったことを知らずに
葬式も出ることもなく
やり過ごしていたからだ。
手足が震えて、膝から崩れた。
涙がつーと垂れる。
比奈子は腰を下ろした晃を
ぎゅーとハグをして、
背中をヨシヨシと撫でてあげた。
誰かが死ぬことに関しては
慣れていた。
自分がすでに死を経験したからか。
でも、目から、意図せずに
涙が流れている。
前世ではなく現世の比奈子は
母が亡くなるのが悲しすぎるの
かもしれない。
まだ、直接果歩の亡くなった姿を
見た訳ではない。
微かな望み、嘘であってくれという思いを
持ちながら、晃の車に2人は乗り込んで、
真っ暗な夜の道を走った。
***
「小松果歩の夫です。」
病院の受付に声をかけるとこちらですと
案内された。
真っ白な部屋にベッドに寝かせられて
顔に白い布を被せられた慰安室だった。
内臓の損傷が激しいことで出血性ショックで亡くなったんだろうと医師に説明された。
警察の人にも事故の状況を詳しく聞いた。
果歩が走る道路は見通しが良かった。
あおり運転をする乗用車がいて、
追い越すか追い越さないかと言う時に
目の前に黒い猫が横切って、
よけようとした瞬間には遅くて、
ハンドルをふりきったときに
電柱にぶつかって行ったようだ。
ドライブレコーダーにはっきり残っていたようだ。
あおり運転する車ももちろん良くないか
そこに猫も横切るなんて、
運命は一瞬で変わってしまうものだ。
果歩は猫を助けたいという気持ちから
自分の命を失った。
死を望んでいなかったかもしれないと
少し救いだった。
白い布をよけて
果歩の顔を見ると
頬は白くて痩せていた。
でも表情は安心し切っていた。
晃は、果歩の顔にしがみついて
声を殺して泣いた。
比奈子は、ずっと晃の足につかんで
離れなかった。
すぐに葬儀の手配をしないといけませんと
警察の人に声をかけられた。
死亡診断書を受け取ると
冷静に戻る。
大人は子どもみたいにずっと泣き続けることなく、次々とミッションが与えられる。
感情に浸ることはできないかと
悔やんだ。
現実は甘くない。
24時間営業の葬儀屋を手配して、
すぐに移動した。
葬式は小さな家族葬にしようと
地元の葬儀屋に依頼した。
このまま、
比奈子と2人暮らしの生活が
続くのかと
気持ちは落ち着いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます