第56話
アーケード内をひたすら進むと
ところどころでクリスマスセールを
やっていた。
今の目的は光のページェントも
もちろんだったが、
予約していたレストランに
向かうこと。
予約時間18時ぴったり。
今は17時53分。
あと数分で着くかというところ。
相変わらず、絶妙な距離を保ちながら
雪菜と凛汰郎は先に進む。
前を見ると人だかりができていた。
もちろん、目的は、
ケヤキにつけられていた
LEDのライト。
光のページェントだった。
2人は、あまりの輝きに
息をのんだ。
そこらへんに
飾られているイルミネーションとは
違う輝きがあり、圧倒される美しさに
人々は魅了されている。
さっきまでテンションがさがっていた
雪菜も心がわくわくして、レストランに
行くことさえも忘れて、
上を見上げながら、
ケヤキ通りを歩き始めた。
凛汰郎も同じく、雪菜の後ろを
着いて行きながら、光を見つめた。
「知ってる?
テレビで言ってたんだけど、
このライトの中に
ピンク色もあるんだって。
でもあまり数が少ないから
見つけにくいとか
言ってたけど…あるかな?」
上を見上げてはキョロキョロと
LEDライトを探した。
「あー、見た。その話。
見つけるといいことあるんだろ?」
「そうそう。
確か……恋叶うとか?
ピンクだからかな?」
「…恋ねぇ…。」
人だかりができて、混雑していた。
ぶつかりそうになり、
慌てて、凛汰郎は、
雪菜の手を引っ張った。
「あ、ごめん。ありがとう。
上見てて、気づかなかった。」
「あ、予約時間。
今、18時だ。」
「そうだよね。
ごめんね。
夢中になっちゃった。
行こう。」
「俺も、気にしてなかった。
…で?見つかったの?」
「…教えない。」
「ふーん。」
凛汰郎は、雪菜の顔をのぞきながら、
お店の方へ足を進めた。
雪菜は、少し隣の間隔を狭めて
着いていく。
幾分、気持ちが落ち着いていた。
「いらっしゃませ。
ご予約のお客様でしょうか?」
「はい。斎藤の名前で
18時にお願いしてたんですが…
すいません、少し遅刻しました。」
「18時ご予約の斎藤様ですね。
お待ちしておりました。
大丈夫ですよ。お気になさらず。
では、お席にご案内します。」
白いワイシャツと黒いエプロンをつけた
店員が優しく案内してくれた。
雪菜はドキドキしながら、
凛汰郎の後ろを着いていく。
案内された席は、光のページェントが
見える窓際の特等席だった。
いつでも窓から見えて、贅沢な席だった。
サンタクロースのアロマキャンドルが
テーブルに置いてあった。
お店の中央には、
大きなクリスマスツリーが
飾られている。
お酒を提供している店だったが、
高校生のため、ジュースを注文した。
いつからか成人は18歳というけれど、
お酒とたばこは20歳からだ。
それでもまだ高校生でもある。
時代の流れか…。
「雪菜はソフトドリンクどれにするの?」
メニュー表を見ては、
何にするか考えていた。
「えっと…どうしようかな。
うーん…。ジンジャーエールにする。
凛汰郎くんは?」
「俺はコーラ。」
「そうなんだ。
店員さん呼ぶ?」
「いいよ、やるから。
すいません。」
率先して、注文してくれて助かった。
「コーラとジンジャーエールお願いします。」
「かしこまりました。
少々、お待ちくださいませ。」
店員は、伝票にメモをして、
立ち去った。
注文を終えて、メニュー表をしまう。
「クリスマスメニューだから
結構多く出るみたいなんだ。
雪菜、食べられるの?
前菜から5種類だって。」
「…うん、たぶん。
あまり、
こういうところで食べたことないけど。」
話を聞いてるようで聞いてない凛汰郎は、
コップに入った水を飲みながら、
窓の外をぼんやり見ていた。
光のページェントが窓に反射して
なおさらキラキラ光っている。
「綺麗だな…。」
見とれている凛汰郎を横から見た雪菜は
何だかうれしかった。
一緒にここに来ると思ってなかった。
想像以上にドキドキする。
もし、これが、雅俊だったら、
こんな思いしたのだろうか。
倦怠期で嫌な気持ちが多かった。
久しぶりに学校じゃないところで
凛汰郎と会って、前に一緒に出掛けた
ゲームセンターのことを思い出す。
ぬいぐるみを取ってくれて楽しかった。
水を飲みながら、笑みをこぼす。
「何、笑ってるの?」
「…別にぃ。
ずっと話してなかったのに
急に話すんだなぁと思って、
びっくりしてた。」
「……そう。
その帽子、買ったの?」
急に話を振られた。
「あ、うん。
まぁ、寒くなってきたからと思って。」
「可愛いよね。
……帽子が。」
その一言を言うとまた外を見る。
「そ、そうだね。
帽子がね。」
頬を膨らませて、帽子を外して、
席の横に置いた。
「嘘…。
可愛いよ。」
「あ、ありがとう。」
急に褒められる。
何だか、心の振り幅がエグイ。
頬を赤く染める。
「そういや、受験勉強は、
大丈夫だったの?
邪魔しちゃ悪いと思って。」
「それも、嘘だから。
俺、勉強しなくても
受かるし。」
頬杖をついてまた外を見る。
恥ずかしくなってるようだ。
「は?え?
んじゃ、なんで勉強がとかいうの?」
「それは……内緒。」
(秘密主義者?!)
下唇を噛む雪菜。
何だかもやもやしてくる。
「今日は、俺の予祝会しよう。
大学受かったって前祝ね。
クリスマスでもあるけど…。
あ、あそこにピンクのライト見つけた。」
「え?前祝?
ん?え、どこピンクのライト。」
「あそこ。」
窓を指さして、大体の位置を示す。
雪菜は全然わからない。
体を起こした雪菜の腕を寄せて
座らせた。
「いいから、座って。」
「……見つからなかった。」
「いいんだよ、俺が見つけたから。」
「なんで、いいの?」
自然と雪菜の手を両手で触る。
「……雪菜、俺、
前に本当は別れようって言ったの
ずっと嘘ついてた。
本当は、別れたくなかった。
でも、あの時、雪菜は、
雅俊のこと、見てたから
諦めていた。
でも、もし雪菜がいいなら、
俺たちやり直せないかな。」
どっちが優柔不断なんだろう。
雪菜なのか。
凛汰郎なのか。
はたまた雅俊なのか。
いや、どれも正解はない。
みんな、その時、その時々で
相手に思う気持ちが変わっただけ。
雪菜にとって
今、ここで一緒にいてほっとしたり、
ドキドキしたりするのは、
凛汰郎だった。
これまで雅俊と過ごして、
逆に凛汰郎への気持ちが
鮮明に大きくあらわれた。
「…ありがとう。
そう言ってくれてうれしい。
何か、ずっと嫌われちゃったのかな
って思ってたから。
そうじゃなかったんなら…よかった。」
涙がホロリと出る。
少しくまができている
目に流れた涙を指でぬぐってあげた。
「本当、ごめんな。」
湿っぽくなったところに次々と
前菜からメニューが運び込まれた。
グリーンサラダから始まり、
仙台牛のサーロインステーキ
かぼちゃのポタージュスープ
花火のついた
サンタのブッシュドノエル
トナカイも乗っている。
「美味しそう。
いただきます!」
涙を拭って、
すぐにえくぼができる
くらいの笑顔になった。
雪菜の気持ちの切り替えができたようで
凛汰郎は安心した。
数ヶ月間、引っかかっていた
わだかまりが消えた瞬間だった。
ジェットコースターのように
気持ちがアップダウンしていたが、
後半ではどうにか一定の高い位置で
幸せを噛み締めることができる
1日となった。
光のページェントの輝きに加えて
夜空は快晴でいつもより
星と月が綺麗に見えた。
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