第54話
12月10日 午後5時
駅前のステンドグラスで
待ち合わせをしていた。
昨日から光のページェント点灯式が
始まったこともあるせいなのか
駅の中はいつもの日曜日よりざわついていた。
白いウシャンカを頭にかぶり、
マフラーをつけて、
スマホを見ながら待っていた。
近くの出入り口から吹きすさぶ風が
冷たかった。
同じように待ち合わせをしているのか
待っている人がたくさんいた。
改札口では電車が到着したようで、
混雑していた。
スマホの画面では、かわいい果物の
パズルゲームに夢中になる雪菜。
広告が多すぎるのが難点だが、流行りには
乗っかりたい。
隣に住んでいるのに
なぜここで待ち合わせなのか
意味不明と感じながら、
時計の針を見つめると
当に待ち合わせ時刻は過ぎていた。
「な……なんで来ないの?」
独り言でスマホの電話帳を開いて、
雅俊に直接電話した。
コールが5回鳴ってやっと声がした。
通話時間が開始している。
「雪菜?
ごめん。
今日、行けなくなった。」
まさかのドタキャン。
「え、なんで?
レストラン予約していたんじゃないの?」
「バイト先のコンビニで、
今日の勤務の人が風邪引いて、
来れなくなったって。
代わりに出てって言われたから。
今から行くところ。」
「嘘、それって、断ることは…。」
「…うん。ごめん、人数少ないメンバーで
回してるから。もう1人の人も風邪だって言うから。」
「そ、そうなんだ…。」
「そしたらさ、俺の代わりに行ってくれる人
探して行ってもらうから待ってて。な?
俺とのデートは他の日でいいから。
マジでごめんな。」
そういうと雅俊は電話を切った。
切れたスマホをだらんとして、佇んだ。
これでも楽しみにしていたのに…と、
絶望した。
「あれ、雪菜?」
そこに現れたのは、緋奈子だった。
「え、緋奈子。
もしかして、雅俊に言われた?」
「え?なんのこと?
もしかして、デートだったの?」
「うん。
今、ドタキャンされたところ。」
「あちゃー。
やっちゃったね。
まぁ、そういうときもあるよね。」
「緋奈子は待ち合わせ?」
「うん。実は…。」
緋奈子は雪菜に耳打ちで話す。
「え!?よりを戻した?!
早くない?」
「だって、やっぱりさ、
忘れられないっていうか。
もう、
今の彼女と別れてって直談判したよ。
懇願してさ。
言ってみるもんだね。
私の推しに負けたのよ。」
「えー、すごいね。
そういうこともあるんだ。
あ、そうか。
デートってこと?」
「そういうこと。
楽しみで仕方ない。」
にやついた顔を元には戻せない緋奈子。
雪菜はうらやましそうに緋奈子と彼氏が
待ち合わせ場所に来ると手を振って別れを告げた。
(元さやに戻るってことか。
いいなぁ…幸せそう。)
腕を組んでイチャイチャしている2人を見ると
何だかみじめになる。
自分の左腕をぎゅっとつかんでは
下を向いた。
誰かがここに来るって雅俊は言っていた。
もう誰でもいいから
今は、心を救ってくれる誰かが来てほしいと
さえ思ってしまう。
スマホを見てる余裕もなく、下を見つめて
待っていると…。
目の前に黒い皮靴が見えた。
まさか、自分じゃないだろうなっと
顔を見上げると
そこにはーーー。
改札の奥の方から発車ベルの音が響いていた。
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