第9話


 ズズッ……。


 超悲報。

 大好きな紅茶の味がしません……。


 紅茶認定初・中級取得。

 紅茶マイスター資格取得。


 なーどーの実績は、何だったのか?

 

 それもこれも黒川さんが近い、近すぎるのだ。


 俺が軽く手を伸ばしただけで触れることが出来る距離とか、さすがに無防備すぎん?

 

 はっ、もしかして……。

 俺氏、お友達として、とーっても信頼されているのか?


 確かに最近、異様に懐かれていたからな。


 だけど、俺なんかを部屋へ入れて彼氏は大丈夫なのか?


 一応、男やで?


 いや、逆に……。

 あの性格はどうかと思うが横柄・横暴・横着なんだぜぇ、学内でも一軍でトップクラスのイケメンでもある天童と付き合っているからこそ、俺みたいなのは野郎認定されていないのかもしれない。


 恋愛対象外的なやーつだ。


 まーとにかく、黒川さんの中で安心安全な人間だと思って貰えているのなら、何の問題もないのかもなー。


 俺からは何もしないし。


 まーそう思うと、紅茶の味も感じられるようになってきた。


 これ、ニルギリだ。

 だから、レモンティーにしたのか。

 すげー爽やかで美味い。


 俺が目を細めて飲んでいると、花さんが俺を見上げながらスピスピと鼻を鳴らしてくる。


 まるで「なに、あなただけ美味そうなモノを飲んでいるの?私にも飲ませなさいな」と訴えるように。


 おおん。

 花さんも飲めたらよかったんですけど、と思いながら、とりあえずご機嫌を伺うように撫でさせていただくと、早々に機嫌を直されたようで……本格的に花さんは俺の膝で眠り始めてしまった。


 ふぅー。

 バイト先でマスターから年上のお姉さま方の取り扱いを学んでいてよかった……。


 そんな風に独りごちていると、隣から視線を感じて、そちらを向くと――。


「花さんばっかり……ズルいよ……」


 なぜか、すげー拗ねている黒川さんと目が合う。


 それから――。


「ねぇ、柏田君……あのね……」


 へっ?

 ど、どうしたんや?

 

「あたしも……花さんみたいに甘えてもいい?」


 黒川さんはそれだけ伝えると、俺の肩にちょこんと頭を預けてくる。


 いやいやいやいやいやいや……!


 これは絶対あかんやーつ。


 しかし、花さんが寝ているから立ち上がれねー。

 それにさっきまで、オホホホ、とカップとソーサーを優雅に持ち上げて紅茶を飲んでいたから、俺の両手も使い物にならない。


 くっ、あと……こんな場面に遭遇したことがないから、言葉が全く出て来ないんやけども。


 俺はそのまま……全身にダラダラと汗を流しながらフリーズしてしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る