超こわくて有名な女上司の佐藤さんが俺の前だけデレデレな件について。

神崎あら

第1話 仕事とお弁当


「立花!お前、この資料舐めてんのかよ」

「す、すいません佐藤さん」

「謝るとかいいからさっさと作ってね」


 朝、長い黒髪を揺らしながら長身眼鏡の彼女は部下の立花を叱責していた。

 この人は佐藤ハル、今年27歳のバリバリの働くお姉さんである。

 ちなみに俺の上司。


「寺島!なにこっちみてニヤついてんだよ、仕事しろ」

「へーい」


「なぁ、佐藤さん今日厳しすぎないか」

「え、いつもじゃないか?」

「いや絶対今日なんかあんだよ、じゃなきゃあんなにせかせかしないし」


 そう言って同僚の田中が俺に絡んできた。

 こいつ……するどいな。

 そう実は今日、彼女にとってとある記念日である。

 基本的に何事においても妥協を許さない性格のため今日のイベントにも彼女は全力だ。

 したがって定時で帰るのは絶対なのである。


「おいそこ!なにこそこそ話してるんだ、仕事しろ!特に寺島!」

「すみません!」

「へいへーい」


 無駄口をしていたら怒られてしまった。

 俺からはじめたんじゃないのに……。


「なぁ、いつも思うけどなんで佐藤さんお前にだけ余計厳しいの?」

「実はな田中」

「あ、ああ」

「俺と佐藤さん、実は親戚なんだよね」

「嘘だろ!マジかよ」

「嘘だよ、仕事しろ」


 俺がそう言うと田中はなんだよと言ったが、無視したら仕事をし始めたのでその流れのまま俺も作業に集中した。



 作業に集中していると気がつけばお昼になっていた。

 やれやれお昼になるまで時間に気がつかないなんて俺の集中力には驚かされるばかりだ。


「なぁ田中、昼なに食う?」

「え、もうそんな時間かよ、うーん作業まだ残ってるし出前にしようかな」

「そっかなら俺外で食ってくるわー」

「うーい」


 困ったな、昼友である田中が来れないとなるとぼっち飯になってしまう。

 まぁたまには悪くないか。


「ねぇちょっと」

「ん?」


 営業所を出ようとすると佐藤ハルに呼び止められた。


「なんですか?」

「貴方、まだ仕事残ってるんだから外で食べる暇なんてないでしょ」

「いやある程度終わってるんですけど……」

「いいから!こっち来てよ」

「え、ちょっ」


 そう言ってハルは俺の袖を引っ張った。

 ちょっとハルさん、ここは職場ですよ?


「はいこれ」

「え、嘘でしょ」


 引っ張られて人気のない階段下まで行くと、あろうことかお弁当なるものを渡してきた。


「作ったの、渡しそびれてたからこのタイミングしかなくて、さっさと食べてね」

「お、おう」


 普段なら絶対手作り弁当なんて用意しないのに、今日に限って準備してるとは。

 これは色々気合が入っとりますな。

 お弁当を受け取るとハルはそそくさと仕事に戻ってしまった。

 しかし困った、手作り弁当を自分のデスクで食べるなんて恥ずかしいし、これはどちらにせよ外で食べてくるしかないなぁ。

 そうして俺は営業所から出て近くの広場へと向かった。


「あ、先輩だ!」

「おーう後輩」


 営業所近くの広場へ行くと後輩軍団(3名)が昼食をとっていた。

 つか女2、男1って男モテモテだな。


「なんすか先輩、今日はお弁当なんすか?」

「おう、彼女のお手製弁当だ」

「うわぁ、見せつけだー」

「別にそんなんじゃないって」


 俺の持つ弁当を見て男の後輩である宮下が反応し、それに続いて女の後輩坂下も反応した。

 ていうかよく彼女お手製ってわかったな。


「てかてか先輩、そのシール可愛いですね!」

「え、シール……わっ、こんなん貼ってたのかよ」


 お弁当箱には蓮用という名前の書かれたシールが貼ってあった。

 

「彼女さん慌てて剥がすの忘れてたんですかね?」

「まぁおっちょこちょいなところあるからなぁ」

「へぇ可愛いっすね!」


 まぁタイミング的にあそこしかなかったし、剥がす暇なかったんだろうなぁ。

 そこも含めて可愛いなぁ。

 っていかんいかん、早く食べてしまわないと休み時間がなくなってしまう。



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