4人の少女と誰かが、獣

どっちつかず

第1話 生徒会長ショウコ

 「…暑い」

サイトウ アカネは、1人愚痴をこぼしつつ誰もいない、学校の廊下を歩いていた。


 8月末。新学期間近で、時刻も夕方。

夏休み前に忘れた体操服を取りに、ようやく重い腰を上げたアカネであったが、この日本特有の、蒸し暑さに機嫌が悪くなってきた。


 じっとりと浮かぶ汗を拭いつつ、自分の教室に辿り着いたアカネ。

「一応学校だからと、制服で着たのは、間違いだったわね」

そう呟き、教室の窓に手を掛ける。


 この暑さで、教室の鍵を借りに行くのも面倒くさかったアカネは、(そもそも、この時期、この時刻では、職員室に誰もいない)

夏休み前に鍵が壊れた筈の、教室の窓から中に入るつもりであった。


 「ん?」

教室の中から、押し殺した泣き声や怒声にも似た声が、複数聞こえてくる。

「先客かしら?」

違和感を感じつつ、先客が居るならと、窓からドアに移り、教室に入ったアカネ。


 「「「!?」」」


 教室の中には、4人の少女。

いや、3人の少女と、少女"だったもの"が居た。


 「誰!」「サイトウさん?」「だから誰かが来る前に…」

アカネに気づき、思い思いの感想を述べてくるが、今はそんな事どうでも良い。


 3人の少女に囲まれている、頭から血を流し、倒れて動かない少女。


 「それ、死体? キサラギさんだよね?」

「違う! 違う! 違う! 私達じゃない!」

取り乱しながら、私に迫ってくる派手な少女。他の二人は、だんまりだ。


 私に縋ってくる、派手な少女。

クラスメイトの、スズキ ミクを無視して、私は質問を続ける。

「キサラギ ショウコさんだよね? 生徒会長の」


 キサラギ ショウコ 私の学校の生徒会長成績優秀で、生徒会との掛け持ちの

筈なのに、陸上部でもトップの実力。

誰に対しても優しく、スラッとした長身の

黒髪の美人。男女共に人気があり、先生からの信頼も厚い、この学校のトップ。


 正直同じ人間とは思えない彼女が、今や

死体となって、倒れている。

人生どうなるか、分かったもんじゃない。


 「キサラギさん、死んでいるよね? 何? あなた達が殺したの?」

「アカネ! 違うって、言ってるでしょ!」

と、涙で化粧がぐちゃぐちゃのスズキ ミク

「スズキさんの言う通り、私達じゃないわ」

成績上位者で、落ち着いた雰囲気をまとう。

イトウ ミスズ

「アタシ達が来た時には、もう…」

陸上部のエースで、日に焼け、活発なイメージのある。タカハシ レイ


 キサラギさん含め、揃いも揃って、学校の有名人達だ。

「だったら、警察でも呼べば良いじゃない? もう呼んだの?」

「警察!? 私達犯人じゃないのに?」

「犯人じゃなくても…ね…」

「それに、警察なんて呼んだらさ…」


 言い淀む、3人。


 あぁ。なんだ、そういう事ね。

「スズキさんは、お金持ちな家にバレたくない。イトウさんは、内申に響きかねない。

タカハシさんは、もうすぐ陸上の大会があるものね?」

「「「・・・」」」

「たとえ犯人じゃ無くても、誰もいない校内で起きた殺人の容疑者。警察のお世話になったと分かれば、影響があるに決まっているもの」

「「「・・・」」」

俯き、気まずそうに目を伏せる3人。どうやら図星みたいね。


 あぁ。醜い。なんて醜いのかしら。

この3人は、確かキサラギさんと、親しかった筈。そんな彼女が死んでいても、自分達の将来が心配だなんて。女子高生の友情なんて、しょせんそんなものかしら。


 しかし、困ったわね? このまま帰りたいのは、山々だけど、運悪く私も死体を見てしまった。この3人の内、誰かが犯人かもしれない状況で、帰るのは得策ではないわね?

後で、私も殺されるかも知れないし、仮にこの3人が犯人では無かったとして、死体を見てしまった私を、簡単に帰してくれるとは思えない。最悪有名人3人で、私に罪をなすりつけて来るかも知れない。そうなったら私みたいな地味な奴は、ひとたまりもないわ。


 黙って私が考えていると、また3人が騒ぎ出した。

「ねぇ! どうする! どうするの?」

「そうね。サイトウさんにも見られたし、死体を隠すにしても、場所が…」

「そもそも、どこに隠すって話だよな」

「じゃあ、このまま帰るの?」

「いいえ。誰かに、私達が学校に居たのを、見られていたかもしれない」

「クソ、警察呼ばなくても、一緒じゃねえか!」


 スズキさん以外は、冷静に話しているようで、さっきから話が堂々巡りしている。

それに、チラチラ私を見てくるし、このままだと本当に私が犯人にされかねない。


 はぁ~。仕方がないかしら?


 「わかったわ」

「「「!?」」」

「死体を隠すのを、手伝ってあげる」

「え!? アカネ?」

「どうして?」

「アンタには、関係ないでしょ?」

「誰かが犯人かもしれないのよ? 死体を見た私まで、殺されるかも知れないし、あなた達に犯人に祭り上げられるなんて、まっぴらごめんなの」


 教室に落ちていた、カッターナイフを拾い上げ、ハンカチで拭きつつ3人と死体に近づく私。


 「死体の隠し場所は、提供してあげるわ。ただし、1人1回ずつ、このカッターでキサラギさんを刺して頂戴」

カッターナイフを3人に向けて、そう提案する私。


 「はぁ?!」

「どうして!」

「なんで、そんな事!」

「当然でしょ? 私は死体の隠し場所を提供するのだから? 万が一あなた達に裏切られた場合の保険が欲しいの。断れば、私は直ぐにでも警察を呼ぶけど?」

「「「!?」」」


 また俯き、考え出す3人。

暑いし、早く決断してくれないかしら?

内心、イライラしながら私が待っていると、

イトウ ミスズが声を上げた。


 「私は、サイトウさんに従うわ」

「え!?」「…ミスズ…」

「正直、私達だけじゃ安全に死体を隠せる場所は思いつかない。サイトウさん! 本当に安全な隠し場所があるんでしょうね?」

「えぇ。あるわよ」

「わかった。貸しなさい!」


 私から、カッターをぶん取ったイトウさんは、歯を食いしばりながら、そのまま死体の腹に突き立て、引き抜いた。


 「ハァハァ。これで良いんでしょ!」

キッと、こちらを睨みつける、イトウさん。

「えぇ。イト…ミスズさん」

「さぁ! 早く! 2人も!」

「ううう、ゴメンね。」「…あぁ…」


 ゴメンね。ゴメンねと、何度も謝り泣きながら刺す、スズキ ミク

目を瞑り。祈るように刺す、タカハシ レイ


 蒸し暑い教室の中で、項垂れた3人のむせび泣く声が響く。


 「これで私達はね?」

3人の使った、カッターナイフをハンカチで包みつつ、私は微笑んだ。


 



 

 






 

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