登校。プチバズりのあと
自宅から片倉方面へ、地獄の様な坂を上った先に俺の通う八王子高校は存在した。
正直、自転車で通うような立地でもないが、俺は筋トレも兼ねてこの苦行を受け入れていた。
真夏だろうと、とち狂ったようにペダルを漕ぐ。
だから朝から汗ダクだ。制汗スプレーは常備必須。最低限のマナーは守るのだ。
駐輪場に相棒を停め、登校口へと進路を取る。一日休んだだけなのに、何だか久しぶりな感じがした。
それだけ、あの二日間が俺にとって大きなものだったと実感できた。
いつもはなんとも感じない教室のドアも、何だか今日は開けるのに緊張してしまう。
ネット上では
そう思うと教室のドアも、財宝が隠された宝物庫の扉のように輝かしく見えてしまう。
「ガラガラガラッ」とドアの音も心なしかいつもより大きい。オイオイオイ!そんなんじゃ余計に目立っちゃうだろ――?
否が応でも勇んでしまう。
「……」
「――でさぁ、イマイチがさぁ」
「うわぁ、それえっぐぅw」
「昨日の課題やって来た?」
「あ、マジ忘れてた……」
「……」
夢見んなよ陰キャがよお――!!!!!!分かってたことじゃねえぇか!?なんで調子に乗っちゃたの?大体、お前にいきなりハーレムなんて荷が重すぎるだろ!?な?先ずは、スタバの店員さんに緊張しないで注文する。そこから始めようぜ――?
俺は、苦虫を嚙み潰したような表情で立ち尽くすと、一瞬でも舞い上がってしまった自分を
硬派なオタクにすら、ひと時の甘い夢を
取り敢えず我が本殿へと向かおう。念のため、座席前に陣取っている
む、どこからか熱い視線を感じる――?
「おい!タツミぃ!!ちょっとツラ貸せや!」
「ひゃい!?」
おまえかい!!
奴は一人窓際で腕組みしながら、俺を名指ししてきやがった。
嫌な予感はしていた。なんなら教室に入る前からドアを貫通して殺気的なものを感じ取っていたのだ。
笠井が無事な事には驚いていないが、登校していた事には驚いた。昨日の今日で、こいつは一体どんな神経をしているのだろうか。
これを見て、すかさず水道橋と鷹村が何事かと、加勢しようと立ち上がる。が、俺はそれをサムズアップで合図を送り大丈夫な旨を伝える。アイルビーバックなのだ。
俺は切腹前の武士の様な凛々しい面構えで、笠井に校舎裏に連行される。
クラスメイト達の憐れみの視線が背中を刺す。
※※※
校舎裏。
青春イベントの約八割がここで発生すると言っても過言ではない、謎スペースだ。
丁度、日陰になっていて涼しくて心地良い。
時には甘い青春の一ページを、はたまた男達の熱い友情を、不良生徒の不祥事を、あとカツアゲ。オールシーズン。黙って
そして、俺は恐らくこれから……。
「たのむ!タツミ、助けてくれ」
「は?」
笠井は俺に土下座をする。
「今朝よぉ、俺もわるいと思って春沢に“昨日はやりすぎちった☆マジめんご(てへぺろ)”って謝ったら。“失せろ”って睨まれて、もうそれからフキゲンで……。」
笠井は、春沢が許してくれなくて困っていた。
道理でいつもの陽キャグループから、一人離れていたわけだ。笠井にも、恐怖という感情があったのか……。
「おまえ、凄いな。昨日あれだけやって、よくそれで行けると思ったな」
俺は最早、呆れるを通り越して尊敬していた。これが陽キャと言うのなら、俺は一生陽キャにはなれない気がした。
完全にサイコパスそのものだが、笠井の感覚では、昨日のあれはスポーツとかと変わらないのかもしれない。
「俺もさぁ、久しぶりでテンション上がっちまったっつうか……」
いやもう、殺す勢いだったぞあれは……。
「とにかく頼むぜ!いちおう元上司じゃん?部下のふてぎわのセキニンとるみたいな?」
「貴様なぁ……」
また調子の良い事を――。そういう言い方をされると、何だか断りずらく感じてしまう。さて、どうしたものか。俺は昨日、春沢と和解?出来たが、笠井のせいで
「――。魔族がこそこそ隠れて、何をするかと思って来てみれば……」
春沢が物陰から登場する。
「は、春沢!?」
「げぇっ!?」
「土下座なんかして、プライドってのがないわけ?」
ぐう……、その言葉は俺にも効く。
「でもよ……。春沢が許してくれねぇんだから、仕方ないっしょ……?」
笠井は、弱弱しく答える。何か見ていてかわいそうになってくる。こいつ、謝罪の才能があるな――。
「……。はぁ……。笠井。今回だけは許したげるし」
春沢は少しだけ悩んで、呆れたようにそう言った。
「マジか!?」
笠井の顔がぱぁっと明るくなる。
「ただ、今度そこの魔王以外に“
「うぇーいっす!!」
いや、俺は良いのかよ――。
上手くまとまりかけたので、野暮なツッコミは口にしなかった。
「まぁ、何はともあれ一件落着と。俺はてっきり、“昨日のつづきやろーぜ魔王サマ”と言われると思ったぞ」
「いや、流石にそれはないでしょw学校で
こいつッ――。
元部下に若干イラつとしつつも、これで、昨日の事件もひと段落を迎えたのだ。
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