実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!? だが気付いた時にはもう遅かった!
第93話 カエルの強さは彼方向けに補正されているらしい
第93話 カエルの強さは彼方向けに補正されているらしい
「こんのぉぉぉ! カエル野郎があああ!!! うおおっ!?」
「すばしっこくて当たらないってぇ! きゃあ!」
「あっちだ、追えええっ!! うわっ、水弾吐きやがった!?」
衝撃の事実に気付いた俺は立ち尽くすしかなかった。
仲間達が続いて戦い続けている中ででも。
攻撃をかわされた事なんて別にどうでもよかったんだ。
軒下ならそんな事しょっちゅうだし、このカエルくらいの強さの相手ならいくらでも戦ってきたから。
だけど、この強さの相手がダンジョンで出現したとなれば話は別だ。
「クソが! あの野郎、とてもじゃねぇがまったく当てられる気がしねぇ!」
「間宮さん、なんとかならないんですか!?」
「え!? あ、ああ、今対応を考えているよ……」
……ごめん、嘘だ。
今の俺にそこまでの思考リソースは無い。
こんな苦戦を呼び込んでしまった原因が俺かもしれないとわかってしまったから。
責任と重圧でいっぱいいっぱいで……クソッ!
「だが幸い、奴の攻撃力はそれほどやないで!」
「そうですわ! 攻め続ければいつかは倒せるはず!」
「やるよぉ! モモっち援護お願い!」
それでも仲間達は俺に頼り切らずに戦ってくれている。
今はダメでも、いつか打開策を導き出せると信じて。
俺を信じて、戦ってくれているんだ。
でもさ、それじゃダメなんだよ。
俺がいない時でもアイツを倒せなきゃ意味がないんだから。
でないと、結局今まで通りじゃないか。
トップオブトップスに頼るだけの、犠牲が出るだけの戦いっていう。
「彼方」
「えっ?」
――そう悩んでいた俺の背中いっぱいに、突然柔らかな感触が伝わる。
すると今度は腹部に腕が回されて、そのままギュっと抱き込まれた。
「つ、つくし?」
「大丈夫だよ。みんなに頼っても平気だから」
「何を言って……」
「一人で背負い込む必要なんて、ないんだってコト」
「あ……」
つくしの吐息が、囁きが首元から伝い、俺の心にまで響く。
背筋に鳥肌が立つくらいの心地良さとなって。
でも、そのおかげで俺の頭から突如として悩みが吹き飛んでしまった。
つくしの事ばかりが脳裏によぎった事によって。
「ほら見て、みんなの気合いだって負けていないよ?」
それでふと言われた通りに周りを見れば、仲間達の戦う姿が見えた。
諦めずにカエルをひたすら追いかける様子がしっかりと。
決して俺に頼ろうとする訳でもなく。
「魔物は強くなったけどさ、それでもきっと勝てるよ。だってみんな、すっごい負けず嫌いだもん」
「つくし……」
……ああそうか、俺は思い違いをしていたんだな。
頼られている、任されているって思い込み過ぎて。
その責任と、敵を強くさせてしまったという強迫概念に囚われてしまっていた。
そうだよな、俺だってまだまだ子どもなんだよ。
プレイヤーみんなを馬鹿にできるような立場なんかじゃない。
なのにみんなよりちょっと優れているからって、有頂天になり過ぎていた。
それで一回失敗しただけでこのていたらくだ! 馬鹿か俺は!
ああちくしょう、情けないなぁもう!
このまま負けたらそれこそ厚顔無恥じゃないか!
こうなったらもう何が何でも勝たなきゃ、誰にも顔見せなんかできないぞ!
「――そうだよな。俺も、負けたくない!」
「うん、あたしも! だからさ、勝って帰ろう?」
「ああ、そうだ。みんなで帰るんだ……!」
「だったらね、ケガする事、ケガされる事を恐れないで。あたしが全部、支えるから」
「……わかった。ありがとうな、つくし」
そうか、つくしは俺の悩みに気付いてくれていたんだな。
それで俺を勇気づけようとしてくれて。
そう応えるかのように、つくしの手が俺の胸をそっと優しく撫でてくれた。
なまじ装備が無いから、触れた感覚が裸で触れ合った時ととても似ている。
彼女の優しさが伝わる、とても心地良い感触だ。
ああ、この感触をまた味わいたい。
またつくしと愛し合いたい。
そのためにも、俺は――
「だから行ってくるよ。あいつを倒すために」
「うんっ! 彼方がんば!」
「おう!」
つくしの手が胸から解かれる。
そうされる中で一歩を踏み出し、素早く暴れるカエルを見定めた。
俺が持つ力の一端を思い出しつつ、強く拳を握り締めながら。
「そうさ、やるしかないんだ。俺の可能性を、このダンジョンででもすべて引き出さなきゃ、戦い続けられる訳がない!」
後ろで待ってくれているつくしを、仲間のみんなを守るためにも。
「もう恐れるな俺! ビビって出し惜しみしている場合なんかじゃないぞッ!!」
ゆえに深く踏み込み、拳を肘を肩を引き込み力を溜める。
そして狙いをも定めるのだ。
狙うは奴の舐めきったその顔。
あの憎たらしい緑顔を木っ端みじんに打ち砕いてやろう。
――その想いを拳に込め、俺はただ無心で飛び出していた。
そしてたったその一瞬で、飛び上がっていた奴の顔をグシャリと殴り付けてやったのである。
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