第40話 気付いたら一億回再生でした

 ビューチューバー、ネオすえつぐが俺達の味方になってくれた。

 だけどなんか自信が無さそうなのでとても不安である。


 それだけバトラー田辺とかいう奴が恐ろしく強いという事なのだろうか。

 ダンジョン関連の話題なのだからレベルで教えて欲しい所だ。


「残念だけど、コラボはちょっと無理かなー」

「どーしてー?」

「業界ではバトラー田辺はコラボや案件をあまり受けない事で有名なんだよー。しかもおまけに格上も格上よ? 僕みたいな新参チューバーが相手にされる訳も無いでしょ」

「えぇーもったいないじゃーん。せっかく一緒の場にいるんだからさー」

「そりゃ共演とかはすると思いますけどー。挨拶して『一緒にがんばろー!』ってやるくらいでそこまで絡まないんじゃないかな、はは……」


 ――い、いや、無い物ねだりをしても仕方ないよな。

 俺達にはもうこの人しか頼れるビューチューバーはいないんだ!

 だったら俺達が派手派手にビューンしてドッパァーンすればいい!

 簡単な話だ。


「と、とにかくだ! この攻略と対決はきっとかなりの注目を浴びる事になると思う。なので僕は君達の活躍をこれ以上ないくらいに仕上げるつもりさ。だから今日はどうかがんばってほしい! すっごい期待してるぞ!」

「えっとこれ、動画撮ってますゥ?」

「うん、ここにカメラがあるよ」

「――わっかりましたぁ! 私達ぃ、みんなのためにがんばりまぁ~すっ!」

「いいねいいねー澪奈ちゃん可愛いよ~~~!」

「澪奈パイセンが完全にアイドルモードになってる」

「俺達の知らない澪奈部長がここに」


 これなら表の顔は澪奈部長に任せても平気かな。

 こんな事で視聴者数を稼げるとは思わないけど、イメージは大事だし。うん。


「では、僕はそろそろ準備に向かうとするよ。それじゃ、ビリオンの先で待っているよ! シーユー!」

「むむ、ビリとはどういう事なのかー!」

「違う違う、ビリオンはミリオンの先の事っしょ。十億って意味だってぇ」

「じゅーおく!? マジで!? 再生数そんないっちゃうの!?」

「まぁポテンシャルはあるわね……日本一を決めるような戦いで、しかも魔物も強敵だしね、フフ」

「なんだかんだできっかけの動画ももう一億越えそうだしぃ。世界中で参考になってる証拠だろーから、彼方の動きがばっちりわかればさらに跳ねる可能性もあるよぉ」


 もう一億か……それだと日本人全員が見ている計算になるな。

 知らない内にそんな規模になっていたのか……ビューチューブ恐るべし。


 うーん、そんな多くの人達に見られていると思うとちょっと恥ずかしい。


「トップオブトップスのみなさん、そろそろ出撃時刻なので集まってください!」


 あ、号令がかかった。

 トップオブトップスになると普通より早く動くんだな。

 やはり緊急性が高い案件だからだろうか。


 でも会場には司条遥の一団はまだいない。

 なんだろう、ドリルロールの成形に時間がかかっているのか?


 ……何か嫌な予感がする。

 ただの気のせいならいいんだけど。


「みなさん、今回は人命救助が最優先の任務となります。生きている人質を発見次第、率先しての救助をよろしくお願いいたします!」


 委員会の人が要点だけを伝えるために声を張り上げる。

 普通の集まりと違って挨拶などは当然ながらやらないらしい。

 悠長な事をしている暇がないのは普段も一緒だと思うけどな。


 ただ、いいのだろうか。

 参加者全員がまだ揃っていないのにもう始まりそうなんだが。


「係員さーん、麗聖学院が来てないんやけどー?」


 同じ事を匠美さんも思ったみたいだ。

 みんなから注目を受けようが構わず声を張り上げている。


 でも、なんだ?

 委員会も、四位五位の人達も戸惑うどころか笑みを浮かべているぞ?

 なんなんだこの違和感は……。


「麗聖学院チームならもう来られていますよ。ほら、あれを見てください」

「「「なっ!?」」」


 どういう事だ、空に向かって指を差して――ううっ!?

 空から巨大な何かが降りて来る!? あれはなんだ!?


「ありゃ輸送用の大型ヘリやんけ!?」

「馬鹿な!? 市街地にあれで降りる気か!?」


 デカい! 普通のヘリコプターとは訳が違う大きさの機体だ!

 そんなのが爆音を掻き鳴らして俺達の頭上で滞空している!

 ここは市街地上空だぞ!? 正気なのか!?


「見ろ! 後部ハッチが開いていくぞ!?」


 いや、でも降りてこない!

 それどころか後部が開いて、小さい何かがたくさん飛び出してきた。


 あれはなんだ、空を飛んでいる……!?


「冗談でしょう!? あれって司条重工業から発表されたばかりの、人が乗れるフロータードローンじゃない!」

「ま、まさかあのドリルッ! 勝負のためにここまでやりおるかあッ!?」

『わぁすごいや、外の世界にはあんな物まであるんだねー』

「お、俺もビックリだよ……」


 ドローンか、それは兵器の本で見た事がある。

 たしか小型の無人機だったはずなのに、それに人が直接乗るなんて……!


 えっ!? 先頭の機体の上に乗っているのはまさか司条遥本人なのか!?


「オオーッホッホッ! 麗聖学院チーム、司条遥とその仲間達、華麗に参上ですわぁー!」


 その操縦は見事なもので着地もすんなりと済ませてしまった。

 あっという間に一三人が地面に降りて俺達の前に揃い踏みだ。


 まさか登場の仕方からここまで大胆だなんて。

 もう戦いは始まっていると言わんばかりじゃないか!


 くそっ、出遅れたか!

 さすがナンバーワン、やる事なす事常識を超えてやがる……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る