第29話 彼方が強過ぎたワケ

「拳術士レベル587って……数字おかしくない!?」


 おかしいなー、あたしの目が悪くなっちゃったかなー?

 たしか日本で最高のレベルって今は50ちょっとのはずなんだけどー?

 それなのにその軽く十倍越えって……。


「え? あぁ。俺、ここを毎日コンと一緒に三~四回往復してるしね」

「その数を毎日ぃ!?」

「うん、趣味なんだよ。軒下攻略」

「しかも趣味って、話の次元さえ違い過ぎるわね」

「あぁ~コンちゃんのレベルが591って、彼方より高いんですけどー……」


 しかもまさかこの胸元の毛玉まで超レベルなんて不思議な話だなぁ。

 とても強そうに見えないのに。


 かわいさレベルならわかるんだけど。


「よし、さっそく片手剣が出たみたいだ。澪奈部長、持っておくといいかも」

「小剣じゃなくて片手剣。ちょこちょこ名称が変わってんね……」


 でもさっそく武器が出てくれたみたい。

 ずっと素手だと不安だし、良かったね澪奈パイセン!


 まーなんか近くで見たらすごい豪勢な剣な訳ですけどねー。

 炎を象ってて色がちらちら変わるすごそうなの。


「あ、そうだ。俺より前には絶対出ないでくれ。死にたくなければ」

「興味本位で聞くけどぉ、なんで?」

「敵の強さは出発時の俺達パーティの平均レベルで決まるからさ」

「せんせーそれってコンちゃんも含まれますか?」

「当然だよ。だから今回の敵のレベルは大体200越えだし、みんなが攻撃受けたら一瞬で死ぬと思うから気を付けて欲しい。ヒーラーになれば蘇生はできるけど、片手杖出なかったら詰みだし。死体もダンジョン踏破と共に消えるらしいからさ」

「普通のダンジョンより怖いよぉ!!!!!」


 そうだよねーレベル差200とかもう能力差が想像もつかないし。

 ていうか、あたしコンちゃん抱いてて平気?

 肉球に踏まれただけで死んだりしない?


「それじゃ、理不尽でまかり通すとしようか」


 ――そんな心配をよそに、彼方はどんどん先に進んでいった。

 前に出るなんてとんでもない、追いかけるのでやっとだったんだから。


 そのおかげでか、比較的早くボス部屋っぽい場所に辿り着くことができたみたい。


「フハハハ!! 久しぶりだな間宮彼方! ワシがまた来てやったぞ!」

「死の魔王ダルグスか。まさかまたアンタと対峙する事になるとは思わなかったよ」


 そうしたらなんかすんごいのがいたんですけど。

 身長がなんかね、もう二〇メートルくらいありそうな骸骨ローブ!


「ヒヒーッ! ほほほ本物の魔王きたぁーーー!?!?」

「や、やばいっしょ、このサイズにこの圧倒感!?」

「先生、もう驚くのにも疲れたんだが?」


 ここまで来るのにだいぶ敵倒したから慣れたはずなんだけどねー。

 それでもみんな叫ぶくらいすごいよ。

 叫び過ぎて顔にほうれい線できちゃいそう。主に紅先生に。


「おや? よく見れば見知らぬ小娘どもがおるではないか。まさかキサマ、新たな仲間を得たのか?」

「そ、それがどうした!」

「おかしいのう、キサマはたしか『俺には家族以外の仲間なんて必要ない』なんて言っていたはずなのになぁ! しかも女子おなごとはのぉ!」

「う、うるせーっ! ほっとけ!」

「フハハハハ!」


 しかも彼方もなんか仲良さそうに話してるし。

 この魔王さんはちゃんと日本語話してくれてるし、実は優しい人なのかな?


「だがしかぁし! 最強のライバルたるキサマの仲間とて容赦はせん! ワシの死の術で全員亡者にしてくれようぞぉ!!」


 あ、でもやっぱり敵だったこの人!?

 ものすごい大きい杖振り回して殺る気満々だよぉ!?


 ――あ、魔王さんの頭が粉砕されちった。


「ッ!? ば、ばかな、動きが見えぬだとぉ!?」

「悪いな、お前に好き勝手されると困るから瞬殺させてもらった」

「おのれぇ、そんなバカなぁ……!?」

「すまないけど、俺やコンはもうお前の出現レベル帯をとっくに超えてるんだ。即死魔法を撃つお前を好きにさせるはずがないだろ?」

「く、くそう……また、あの時のような、激戦を、楽しみにしていた、のにぃ…………」


 魔王さん、なんだかとっても悲しそう。

 出会った時はとても嬉しそうに高笑いしてたのになぁ。

 そんなに彼方との再会楽しみにしてたんだろうね。瞬殺だったけど。


「でもさぁ彼方っち、今二〇メートルを軽々と飛んでたよねぇ」

「なんだろうね。スーパーメンなんですかねー」

「軒下だからな。ダンジョンと同じで身体強化されるからこれくらい余裕だよ」

「まるで普通みたいに言わないでぇ! そんな事ダンジョンででもできないからぁ!」

「あと『軒下』で片付けるのはとても良くない。せめて間宮の名前をもじって『軒下魔宮』と呼ばせてもらうぞ!」

「ま、まぁそれでもいいですけど……」


 さっすが紅先生、いいねぇ軒下まきゅー!

 その方がずっとしっくりくるよね!


 ま、何はともあれこれでやっと落ち着けそう。

 この軒下魔宮、普通のダンジョンよりずっと長いし分かれ道多いんだもん、疲れちった。


「じゃあ続きを進むぞ」

「待って続きって? これで終わりじゃないの?」

「そんな訳ないだろ。ダルグスは中ボスだよ」

「「「魔王が中ボス!!!!!」」」


 あ、あれぇ~~~?

 これで終わりなんじゃないの? まだ続くの?


 まだもっとヤバイ奴が出てくるの???


 今でさえ気が気でないのに……!

 即死魔法使われるかもしれなかったさっきでさえもう漏らしそうだったんだけどぉ!?


「まぁコンの分の片手杖が手に入ったし、多分大丈夫だよ」

「多分って! もーその多分だけで充分恐ろしいってぇ!」

「でも進まないと俺の家に辿り着けないだろ? ここまで来れたんだし、なんとか我慢して欲しい」

「がっがががんばる!」


 でもでも諦めないんだからー!

 彼方のベッド下を探るまでは絶対に!


 ――それであたし達は恐怖に耐えつつ彼方の後に続いた。

 雑魚敵は今までと変わらず瞬殺されたからなんて事はなかった。


 だけど大ボスだけは違ったんだ。


 最後の部屋に現れたのは超弩級の大きさを誇る長巨龍ミドガルツドラガオン。

 天空を舞って無数の巨岩を飛ばしてくるアイツには、さしもの彼方でさえ瞬殺は叶わなかったのだ。


 だけど彼方はそれでもひるまず、巨岩を足場にして天空大決戦を繰り広げた。


 なんていうかもう、言い得ないくらいすさまじい戦いだったなー。

 あたし達全員が死んだ魚の目で見上げてしまうくらいにレべチだったし。

 コンちゃんがバリア張ってくれなかったら彼方達の放つ衝撃の余波だけで死ぬ強さだったみたい。


 あとね、時々岩の破片がバリア突き抜けてくるからもう気が気でなかったんだー。

 だから多分みんなきっと死を覚悟してたと思う。

 あんな巨龍、絶対勝てる訳がないんだってねーあははー。


 だが殺した。(彼方が三分くらいで)


 ……という訳であたし達は遂に彼方の家へと到達する事ができたんだ。

 ここまでとても長く感じたなぁ。人生を見つめ直せるくらいに。


 ちなみにあたし達全員、得意職のレベルが70越えました。

 もう気分だけならトップオブトップスにも負けないと思います。

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