第22話 ざ、ざまぁぁぁあああ↑(楠視点 前編)

 ククク、本当にあいつら四人で入りやがった! ホント間抜けかぁぁぁ!?

 四人でダンジョンが攻略できる訳ねー! できたら前代未聞の快挙だろ!


 だがそう宣ったんだ、せいぜい最後まで見させてもらうとするさ。

 そして這いつくばる所を外からあざ笑って眺めてやる。

 何もせずに勝手に自滅してくれんだからイイ日だぜ、まったくよォ!


「楠、あいつらマジに入ったけどいいのか?」

「ああ、彼等が言い出したのだからやらせてあげるとしよう。ダメならすぐに僕らが救助しにいけばいいんだからね」

「とはいえあっちには早矢川がいるぞ?」

「でも一人だろ? 相性の悪い相手が来たらその時点で詰みだぜ」


 そう、ダンジョンとは相性と数で攻めるパワーゲーム!

 そのパワーバランスを左右するのが僕達エースって訳だ。

 その事を思う存分思い知れ、俗物どもが。


「職は騎士34に治癒士28に魔術士26、そして奴は斧術士か。仲間はバランス取れているが斧だけが無駄だな。なんであいつ頑なに小斧なんだ?」

「レベルもまだ9だってよ。装備変化さえまだだし、完全にお荷物だろ」


 まさかアイツ、早矢川達に任せて影に隠れているだけとか言わないよな?

 だとしたらとんだお笑い草だぜ?


「で、最初の相手は……虫型だ! これって――」

「ダークスパイダーだね。厄介な相手だよ、こいつらは」


 ハッハッハ最初から詰んだざまああああああ!!!!!

 この魔物は高レベル前衛が最低五人以上いないと苦戦する凶悪な奴らだ!

 まだ数がいればなんとなるが、問題はそこだけじゃない!


 奴らはほっとくと天井からもぶら下がって糸や毒液を撒き散らす!

 かといって魔術士が魔法を撃とうものなら天井が爆散し、落下物でダメージを負ってしまうのさ!

 だから奴らに対処するには叩き落とす役の弓術士が必須なんだよボケがあ!


「えっ!? なんだ、魔物がどんどん床に落ちていく!?」

「――は!?」

「間宮達がその中を普通に通っていくぞ!?」

「虹岡が生き残りを丁寧に潰してやがる! ひでぇ!」


 な、なんだ、何が起きている!?

 あれ、よく見たらあいつら、なんかちょっと光って――


「これ毒だ! あいつら暗黒魔法の〝範囲毒煙術ポイズンミスト〟を使ってやがる!」

「そんな、あれは委員会に禁止された魔法じゃない!」

「ああ、効果が高くて範囲が広いけど、無差別に効果が出ちまうから!」

「じゃあなんであいつら無事なの!? 自爆魔法なのに!」

「あ、あの光は〝解毒術アンチドート〟だ! あらかじめアンチドート使ってやがんだ、バリアみたいに!」


 な、なんだと!? アンチドート!?

 あれは解毒魔法じゃないのか!? 

 あらかじめ使っておけるものなのかよ!?


「一つ目の部屋を軽々と抜けやがったぞ……次はなんだ?」

「見ろ、ジャイアントスライムだ!」

「おいおいマジかよ、魔術士が一〇人はいないとキツい奴だろ!?」


 は、はは! 今度こそざまああああああ!!!!!

 ジャイアントスライム! これは僕も骨が折れる相手だ!

 なにせ物理攻撃が効かない! 攻撃魔法を使っても火力も足りない!

 氷属性や雷属性魔法なら効くが、部分的な効果しか与えられねぇ!

 お前らの戦力じゃせいぜい体積を減らす程度なんだよぉぉぉ!


「ば、ばかな!? スライムが早矢川になます斬りにされてるぞ!?」

「――は!?」

「まるで寒天みたいじゃねーか! 奴はそんなに弱かったか!?」

「み、見ろ! あいつら……スライムに防御アップ魔法かけてやがる!」

「んなにぃ!? 強化魔法って敵にかけられんのか!?」

「そうか、防御アップ魔法は体を一定まで硬化させる効果がある。肉体ならガチガチになるが、スライム相手だと固形レベルで落ち着くって事か!」


 んだとぉぉぉ!!?

 敵に強化魔法かけるってどこからそういう発想が出てくんだよ!?


 だ、だがこれだとスライムコアはそう簡単には潰せないだろう。

 自分達がかけた防御アップ魔法で墓穴を掘ったって事だよぉぉぉ!


「虹岡がスライムコアを叩き潰しやがった! あいつヒーラーだよな!?」

「なに、あいつトドメ係なの!? ヒーラーなのに!?」


 うっそおおおおおお!?

 くっ、虹岡は確かやたら殴りたがるから邪魔だと辞めさせたのに!

 そもそもおかしい、ヒーラーってこんな打撃力高かったか!?


 ま、まさか鈍器って防御をある程度無視できるからそれでなのかぁ……!?


「つ、次の部屋はなんだ」

「ドライアドだ! 近づけば養分を吸い取られる前衛殺し!」

「斬撃や炎には弱いが、こんな所で付与魔法を使えば後が持たないだろう!」


 お、落ち着け僕、今回もざまぁ案件だ!

 確かにドライアドは樹人だけあって動きは極端に遅いが、完全魔法耐性がある。

 弱体魔法も無効化し、強化魔法だって多分きかないはずだ。

 かといって近づけば一斉に蔓を伸ばしてくる。こいつはきついぞ!


「あ、斧が飛んでる」

「一個や二個どころじゃねぇぞこれ!?」

「間宮の奴なんか袋から大量の斧取り出してやがんぞ!? なんだあの袋!」

「ダークスパイダーの腹袋だ! あいつ、腹袋に武器大量に仕込んで来てやがる!」

「第二部屋で姿が映らなかったのって武器庫に戻ってたって事かよ!?」

「まるでドライアドが出てくる事を知っていたかのような手際の良さだぞ!?」


 は、はは……魔物の体を使うだって!?

 それで余った武器を投擲すれば斬属性の遠距離攻撃だとふざけんなよ!?

 これじゃドライアドもうただのマトじゃねぇかあああ!!!


 しかも無駄に命中率が高い! 必殺必中かよ!

 なんなんだあのエイム能力!


「おいおいここまでほぼノンストップじゃねーか!?」

「次はなんだ……イカ!? 嘘だろ、テンタクルスだと!?」

「どうしてここで!? 本来はボス級の相手なのに!」

「あの一〇本の巨大な脚はきつい! 無理だ!」


 お、まさかあのテンタクルスが来るとはな。

 さすがにこれであいつらも詰みだ。

 テンタクルスはしばしばトップオブトップス案件になる奴で、僕でもまともに勝てた事がない。

  

 なにせ人の一〇倍はある巨体にあの本数の触手。

 あれを同時に振られて無事に切り抜けられるチームなんて未だいないんだ。


「あ、テンタクルス死んだ」

「――ンンなにィィィ!? 瞬殺ゥ!?」

「あ、あいつ、ほぼ反応しなかったぞ? それで近寄られて斧投げで頭に直撃の一撃死とか、何があったんだ……?」

「もしかしてあの頭の水晶体、テンタクルスの急所なんじゃ……」


 ああああありえない!

 テンタクルスは部屋に入った途端に襲ってくるほどの凶暴性で有名なんだ!

 おかげで入口で訳も知らずに潰される奴だっている! なのに!


「み、見て他の奴らのステータスを! 音遮断魔法スニーキスがかかってるみたい!」

「スニーキス!? 足音を消した!? それだけで気付かれなかった!? 馬鹿な!?」

「まさかテンタクルスって、聴覚しか知覚がないとか……?」

「じゃあもしかして、今までは集団の足音がうるさかったから即バレで先制攻撃されてたって事……?」

「あ、あいつら、つど知覚遮断魔法をかけているぞ!? マナ消費が少ないからか!」


 なんであいつらそんな事知ってるんだよぉぉぉ!

 これもうトップオブトップスさえ知らない事じゃねぇかあああ!

 つかそんな小細工、大集団でできる訳ねぇだろぉぉぉ!


 あ……少人数だからできたのかぁ……。


 く、くそぉ~~~!

 まだだ、まだ次が残っている!

 頼むダンジョン、間宮どもを駆逐できる魔物を用意しててくれぇぇぇ!!!!!

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