第19話 つくしがダンジョンにこだわるワケ

 初めてビューチューブとかいう動画を見たけど、なかなか面白かった。

 つくし達は俺の活躍が気になって仕方がなかったみたいだけど、俺は全編通して楽しめて満足だ。

 イライラする事でも第三者的に見ると簡単に忘れられるし。


「とゆー訳でぇ、今日は特にやる事はありませぇん! 以上解散!」

「なら動画最後まで見せてもらいたかった!」

「ごめんねぇ。あーし、これからバイトなんだわー」

「ダンジョン攻略で稼いでるのにアルバイトしてるんすか……」

「そりゃあもぉ! 金は天下の回り物ぉってね~! じゃ!」


 まぁまだ見たかったけど時間が無いのなら仕方がない。

 澪奈部長は見るもの見せて早々に部室から去っていってしまったし。


「ねーね彼方、他の動画も見てく?」

「え、いいのか!? 見たい!」

「あたしタブレットは持ってないからスマホでいいならーだけど!」

「私はパスするわ。暗黒魔法の詠唱の台詞を考えなきゃいけないから……」


 モモ先輩も興味なさそうで、続いて帰ってしまった。

 詠唱ってなんだ? もしかしてダンジョンだと台詞を付け加えると魔法が強くなったりするのだろうか?


「じゃああたしのとっておきの動画から見せたげる!」

「これダンジョンの動画じゃないよな!?」

「でねでね、次がこれ! 大人気な動画なんだよ!」

「おおー! 人気なだけある、面白い!」

「でしょー! それでこれが――」


 それで二人だけで盛り上がって、気付けば肩まで寄せ合っていた。


 そこから伝わるつくしのぬくもりが心地良い。

 それに微かに吐息も伝わってきて、それが俺の頬を優しくなでてくれる。

 だけど不思議と恥ずかしいとか嬉しいとかいう昂揚感は湧いてこない。


 つくしが無邪気に俺と付き合ってくれているからだろうか。

 それとは別に動画も楽しかったから、時間が過ぎるのもあっという間だった。


 そうして気付くともう外が暗くなり始めていて。


「あ! やばい、そういえば今日スーパーの特売日だったんだ!」

「えっ!? じゃあ動画見てる余裕無かったんじゃ!?」

「だいじょぶ、まだ間に合う! 帰ろう!」


 またグイッと俺の手を引いては起き上がって走り始めた。

 なんだろう、おせっかい焼きな所もあるからかな?


「彼方、時間があるならスーパーのお買い物手伝って! 一人一個までのやつがまだ残ってたら!」

「あ、ああ別にいいけど」

「やったー!」


 あーそれが目的かぁ。

 まぁ動画視聴に付き合ってくれたし、それくらいなら全然いいかな。


 ……でも、つくしって意外と生活感ある事してるんだな。

 能天気な感じだから自由気ままに生活していると思っていたんだけど。


 その事情を探ってしまうのは野暮だろうか?


「なぁ、つくしって普段って何してるの?」

「え? んとねー普通にご飯作ってーお風呂入って歯を磨いて寝てるよ!」

「自分でご飯作ってるんだ。両親の分も?」

「んーん、あたし一人だから!」

「えっ……」


 静かな廊下を叩く足音が、話題の不穏さを助長する。

 本人はこう明るく答えてくれたけど、続きを聞いていいのか悩ましくなるくらいに。


「あ、アパートに一人暮らしって事ね!」

「ああ、なんだ……」


 あ、危ない、てっきり両親がもういないとかそういうのかと。

 危うく勘違いしてしまう所だったぞ。


「お母さんが重病でさー、今アメリカで治療待ちなんだよね。そんでお父さんも付き添いであっちいるから、あたしは一人で残ったんだー。あたしももっとたくさん治療費稼がないといけないしさ!」


 ……当たらずも遠からずだった。


 そうか、つくしはそれでダンジョンっていう危険な場所に挑み続けているんだな。

 それが一番効率的に母親の治療費を稼げるから。


「ごめん~とか言わないでいいよ! むしろ知って欲しい! カンパして!」

「先に言われた!? あと結構がめつい!?」

「綺麗ごとなんて言ってらんないからねー! あ、でもでも、誰にでもそう言ってるって訳じゃないから! 仲いい人だけだから!」

「一番言っちゃいけない相手だろそれ!?」

「にししっ!」


 でも本人が明るいから、そんな暗い話題でも簡単に笑い話にしてしまう。

 おかげで暗くて怖い校舎前がまだ昼間のようにさえ感じて来るよ。


 この明るさは天性なんだろうな。

 ものすごくうらやましい。


「あ、今度家に遊びにきてよー! また一緒に動画みよ!」

「えっ」


 ――ま、待って。

 それってどういう事なんだ?


 もしかして俺、家にお呼ばれしてる……?

 本当に? 冗談じゃなくて!?


「い、行っていいの!?」

「もち! 友達だもんねー!」

「あ……」


 そっか、友達。

 俺達、もう友達なんだな。

 友達だから、家に呼んだり呼ばれたりしても、いいんだよな。


 そうか、そうなんだ……!

 そう、つくしは俺の友達だから!


 俺の、二番目の友達……!


「やっと出てきたか、散々待たせやがってよぉ」

「「っ!?」」


 だがそんな感動を実感する間もなく、校門前で誰かの声が俺達の足を止めさせた。

 それと同時に、校門裏から妙な男が現れる。


 そこで俺は咄嗟につくしの前に回り込んで立ち塞がった。


「いよぉ間宮彼方、昨日は本当にやってくれたよな……!」

「その声……まさかお前、楠か!?」

「そうだよ! ちょっと暗いだけで気付けないくらい印象に無いってかぁ!?」


 なんてこった。

 あの楠がこんな時に限って待ち構えていたなんて。

 しかもしっかり帽子までかぶって! 後頭部を隠しているつもりなのか!?


 くっ、このままじゃスーパーの特売時間が終わってしまう!

 つくしとの友達同士の買い物チャンスが吹き飛んでしまうじゃないか……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る