彼方君の秘密編

第16話 いきなり大人気になりました

「彼方ーおっはよー!」

「えっ、つくし!?」


 ダンジョン攻略から翌日。

 バスから降りたら唐突につくしの襲撃を受けた。

 なんで俺の通学路を知っているんだ!?


 どうやら俺を待ちかまえていたらしく、しかもいきなり抱き着いてきたとか!?


 う、嬉しいけど、すごい恥ずかしい!

 あと胸! 胸が当たってる!? うわあああ!?


「ガッコ、いこっ!」

「あ、う、うん!」


 しかも今度は手を繋いで引っ張ってくれた。

 柔らかいし、温かい。あとすごい甘い香りがする。

 なんだこの幸せ……!


 ただ、世間はそんな幸せを噛み締める間を与えてはくれないらしい。


「あ、来たぞ彼だ!」

「ちょっと君、少し話を聞かせてください!」


 なんか校門にマイクやカメラを持った人達が集まっている!?

 それも俺を見つけるや否やこぞってやってきたとか!?

 なんなんだこれぇ!?


「とぉーう! マスコミ回避の術ぅ~~~!」

「あ、ちょ!?」

「何だこの子!? 動きはやっ!?」


 だがつくしの方が一枚上手だった。

 俺を引っ張ったまま合間をすり抜けるようにして、一瞬で通り抜けてしまったのだ。


 つくしもなんなの!? 手馴れてるの!?


 朝から騒動が過ぎる。

 もう理解も体力も追い付かないぞこれ……!

 つくしのスタミナってどうなってるんだ?


「ふぃー! やっと教室着いたーっ!」

「「「お、間宮が来たぞー!」」」

「「「来たな有名人!」」」

「えっ……!?」


 さらに今度は、教室に着くなり熱烈な視線を浴びる事になった。

 それどころかいきなりクラスのみんなが俺の下に駆け寄ってきたぁ!?


「すげえよお前!」

「ビーストテイマーってなんなん!?」

「私感動しちゃった!」

「すっごい強かった!」

「カッコイイーっ!」

「え、え!?」


 ふと背後を見れば他のクラスからも人が来ている。

 なんだかもうわちゃわちゃしててよくわからない状況だ。

 もう何、一体これ、どういう状況なの!?


「はいはーい! 彼方へのアポはあたしを通してもらおうかぁ!」

「「「お前はアイドルのマネージャーか!」」」

「おおむね間違い無い! なぜなら、あたしが彼方の才能を見出したのだからっ!」


 つくしもつくしでパッツンパッツンな大胸を張ってなんか自慢げだし。

 男子の視線がもう一気に彼女(の胸)へと引き寄せられている。

 なんだかとっても悔しいぞ。


「何騒ぎにしてるんだお前らー。間宮が有名になったからって詰め寄ったらいかんだろう」

「あ、やべ! 席に戻るぞ!」


 でもここで担任の先生が来てくれた。助かった!

 このまま騒ぎの中で潰されてしまいそうだったし。


 ――それにしても。


 ダンジョン攻略って本当にみんな知っているんだな。

 まさか昨日今日の話でこんな騒ぎになるほどとは。

 生徒だけでなく先生まで俺の事を認知しているみたいだし、ちょっと派手に暴れすぎたのかもしれない。


「間宮君、昨日はすごかったね。僕、感動しちゃったよ」

「え、あ、えーっと……」

「ひどいなぁ名前忘れちゃった? 緒方おがただよ、緒方ヒロ」

「ご、ごめん……」


 席に着いたら今度は前の席のメガネ男子――緒方君が話し掛けてきた。

 そういえば入学式の後にも話し掛けてくれたっけ。

 あの時は話題が続かなくてすぐ会話が終わってしまったけど。


 やはり彼もダンジョン攻略の動画を見ていたようだ。

 こうなると俺も気になってくるんだが?


「動画編集やってみたんだけど、その確認作業だけでもうワクワクが止まらなかったよ。あんなヒーローが後ろにいるなんてなんか嬉しいな。これからもよろしくね」

「うん。よろしく、緒方君」


 ともあれみんな好意的に俺に絡んでくれるようになった。

 これだけでもダンジョンに行った甲斐があったってものだ。

 下手な部活に入らず、つくしに誘われて行って本当に良かったと思う。

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