第21話 これからのこと

 大精霊が召喚戦争をきに人間に見捨てられてしまい行方をくらました。

だが、わざわざその「やり方」を提示したという事は何かまだ希望が残されているということだろう。



「その身を隠した、という事はまだ大精霊はこの地に存在するということか」

「ええ、その通り。地水火風に光闇時空の大精霊は世界各地のどこかにいるはずよ」

「どこかに、か」



なんとも頼りない言い方だけど、飯田さんの言い方は一つの覚悟を感じる。

飯田さんは必ずその精霊の棲家を探し出し、従えてみせるといった表情だ。



「恵ちゃんには精霊使いになれるだけの素質がある。だけど、大精霊全てと契約するのは人の身体の身に余る。なので、ラングレイには精霊使いをもう一人か二人ほど探し出してほしい」

「なるほど、分かりました」

「幸平は大精霊を探す間、存分に鍛錬に励むといい。友を自分の手で取り戻したいのであれば、ね」



エルヴィンがそう言って部屋を出ようとすると、そこには神妙な面持ちのエリナさんが立っていた。



「おや、君は?」

「あの、私……部屋の外でお話を聞いていたんですけど」

「ふむ、聞いてしまったのなら仕方ない。出来ればあまり口外しないでもらえると──」

「私、精霊使いの一族です!」



◆◆◆◆◆◆◆



「本当にいいのかな? 君には大人しく学園生活を送り、そのまま卒業して術師として魔導学を研究したり、愛する人と温かな家庭を築くという生き方もある。大精霊との契約は君の命を危険に晒しかねない」



エルヴィン・ユークリッドはエリナさんの最終意思確認を行なっている。

そこには友人代表として俺と小鳥も同席している。

リゾートホテルの一室、つまり俺たちが泊まっていた部屋で。



「私、昔から人よりも精霊の力を感じられる体質でした。でも、そんな力を持って生まれた理由も分からなくて……それを知るために精霊学を学び始めたんです。でも、私の精霊を扱う力が役に立つのなら──」

「本当にそれだけかい? 君が精霊契約の旅に出ようというのなら、もっと根本的な理由があるはずだ」

「それは……」



エリナさんは俺を見て、そして目線をエルヴィンへと戻す。



「彼の役に立ちたいと思ったからです」

「ほう、それはどうして?」

「最初は、本当に最初は夏樹くんに助けてもらった事がきっかけです。大切なお守りを失くしてしまった時、夏樹くんが何時間も一緒になって探してくれて──」



彼女は、まるで大切な思い出を抱きしめるように優しくそれを語る。

俺としては困っていそうだったから放っておけずにいただけ、そもそも困っている人を助けるのが騎士の役目だというラングレイの教えに従っただけ。

いや、仮にラングレイにそう教えられなかったとしても探し続けていたのだけど。



「そのお守りが私たち一族に伝わる精霊術師の証と言われています。夏樹くんがこれを見つけ出してくれたのはきっと、運命だと思うんです」



エルヴィンは小声でエリナに耳打ちする。

すると、エリナは戸惑ったような顔でエルヴィンに耳打ちを返す。



「なるほど、君の気持ちはよく分かった。旅立ちは三ヶ月後としよう」

「そんなに時間をかけるんですか?」

「エリナちゃんには旅立つ準備が必要だろうし、特訓だって必要だ」



◆◆◆◆◆◆◆



 三ヶ月後、俺が騎士団に見習いとして入団してエリナさんが大精霊契約の旅に出る。

大精霊との契約には人間の意思や力を試されるという、そこで命を落とした精霊使い候補は大勢いるという。

俺は比較的被害の少なかった露店街で買った米を揚げたものに肉とチーズを挟んだチーズミートサンドに根菜のサラダで昼食を摂っていると、偶然昼食をとりにきていたエルヴィンに遭遇する。



「やあ幸平、元気になったかい?」

「ええ、体を動かせる程度には」



そういえばエルヴィンに礼を言うのを忘れていたのを思い出した。

イルヴィオラとの戦いでエルヴィンが駆けつけなかったら俺は間違いなく死んでいた。



「あの、昨日はありがとうございました。あの時助けてもらえなかったら、俺は……」

「騎士として当たり前のことをしただけさ。君だってそうだろう?」

「ええ、まだ見習いですらありませんけど」



エルヴィンは空を見上げ、語り始めた。



「騎士というのは本来、役職ではなかったんだ。人々を守るために災厄に立ち向かう者、人々を救うべく手を差し伸べる者……そんな人々を騎士と呼んだ。その精神性を持つ者であれば、騎士と呼ばれるべきだと私は思う。そして、そんな人に私はなりたいと思っている」



エルヴィンは微笑みかけてきた。

この人はメルドニア王国の騎士でありながら世界各地を放浪しているようだが、もしかしたら自分の為すべきことのために戦い続けているのだろうか?

いや、仮にそうなのだとしても自由すぎるとは思うしそれでラングレイが困っているのだからやり方としてはあまり褒められたものではない。

ただ、この人はこの人なりに自分の為すべきことをやっているのだと認識を改めようと思う。



「幸平。エリナ・グレースの力になりたいと思うのなら力をつけるんだ。大精霊との戦いともなれば彼女一人の力では難しいだろう」

「でも、俺は三ヶ月後には騎士団の見習いとして入団することになっていて──」

「ああ、だが大精霊との戦いに参加する事は出来る。飛空挺さえあれば。君だって、エリナを守りたいのではないか?」



エルヴィンは真剣な表情で俺に問いかけてきた。

そうだ、こんな俺を慕ってくれる人がいるのなら……俺はその人のために力を尽くしたい。



◆◆◆◆◆◆◆



 あの夏の旅行から三ヶ月ほど経過して、俺は新しい武器『リアライザー』を手に入れた。

剣でもロングダガーでもない、魔導術を中心としたミスリルの棍棒。

その性能・汎用性はロングダガーとは比較にならなかった。

威力を弱めれば相手の命を奪わずに無力化させることも出来、ミスリル製なので魔導力を高めてくれるし、魔導力の刃を出して槍や鎌のようにも扱える。

それだけに習熟難易度は高く、ロングダガーのように上手くいかない。



「選択肢が増えたからといって迷うな! 迷えば隙が生まれる!!」

「くっ……!!」



そう、このリアライザーを武器にしてから戦いにおける『選択肢』が増えた。

防御フィールドを張るか、攻撃を受け止め反撃のチャンスを伺うか、魔導術の詠唱をするか、魔導の刃で攻撃をするか……。

出来ることが増えた、それはいいことだと思う。

だが、自分の判断ミスが敗北や死に繋がる。

だからこそこのリアライザーの扱いは非常に難しい。



「幸平は白兵戦、魔導術、仲間を守れるシールド、どれも優秀だ。だからこそパーティの要となる事が多いだろう。だからこそ迷ってはいけない!」

「……分かりました」

「兎にも角にも経験だ、最初にそいつを手にした時よりもずっといい動きが出来ている。これからも鍛錬を欠かさないように!」

「はい!」

「……と、堅苦しいのはここまで! 明日はいよいよ入団式だし今日はこの辺にしておこうか」



エリナさんは昨日旅立ち、飯田さんはエルヴィンと再び旅に出た。

そして俺はいよいよ明日、アルカストロフ騎士団に入団する事になった。

きっとここから、俺たちの本当の戦いが始まるのだろう。

オーデルバニアの攻略、必ず成し遂げて元の世界に帰るんだ!

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