第19話 VS召喚獣イルヴィオラ

side:夏樹幸平


 鳳凰、不死鳥を思わせる激しい炎を翼に蓄えた召喚獣『イルヴィオラ』

ただの凶獣とは明らかに異なるプレッシャーと力を感じる。

そのイルヴィオラを召喚したイヴは力を使い果たしたのか電池が切れたかのように気絶してしまっている。



「さて、どうするか?」



イヴが召喚した友達とやらで騎士団は足止めを食らっている、明らかに単騎で倒せる相手じゃない召喚獣イルヴィオラ、俺が後退すれば大勢の人間が避難している海の家を守れる人間がいない。




「どうするかっつっても、戦う以外の選択肢が残っていないわけだが」



この世のものとは思えない咆吼を上げるイルヴィオラ、赤く燃え盛る翼を広げてそこに炎を集め始める。

なんのために炎を集めるのかは明らかだろう。



「多少無茶だろうが……やるべき事は」



逃げ回り、攻撃を避け続けること。

召喚獣という存在は本来この世界の存在ではない、つまりこの世界に長い時間存在できないのだ。

召喚獣と戦う機会はあるかもしれないからな、とラングレイさんがあり得ない想定をしてきた時はどうしようかと思ったが……本当にあり得てしまうとは。

文字起こししづらい咆吼を上げ、燃え上がる翼から火球をバシバシと俺に向かって飛ばしてくるが──



ドガァン!ドガァン!



「一発一発丁寧に爆発させてくんのな!!」



今度、魔導術を使う機会があったら火球連弾に爆発のギミックでも仕込んでみようか?

などと余計なことを考えながら衝撃に備えられるよう、闘気を更に厚くする。

ただ熱に耐えるだけなら今までの薄さで大丈夫だったけど……闘気を厚くすればスタミナが底をつくまでの時間が短くなる。



「ヤバ……息が上がってきたな」



イヴを捕まえて捕縛しました!めでたしめでたし!というつもりで戦っていたのでまさか召喚獣と戦わされるとは思っていなかった。

確実に戦闘不能に追い込むためにサンダーボルト・クラスターなんて大技を使ったもんだから確実に体力を消耗している。

走り回って逃げているだけなのに、どんどん息が上がっていく。

けど、長持ちしないのはこっちだけじゃなくイルヴィオラも同じだ。



「……!!」



イルヴィオラは俺を抹殺するよう命令されているはずであり、長期戦にならぬようそろそろ仕留めにかかるはずだ。

イルヴィオラの目が赤く光り、大きく口を開き翼の炎が集まっていく。



「大技が……来る!!」



地上に向けてその炎をぶつけてくる、恐らく地上に逃げ場はない。

幸い、俺はこの戦闘で高く飛んでいない……そう、切り札は見せていない。

ラングレイの高速連続ジャンプは俺も当然仕込まれている、高く飛んで空中戦もこなす事が出来れば戦いにおける選択肢が増える。



「ふっ……!!」



イルヴィオラの炎が放たれた瞬間、防御に回していた気を足元に気を集中させて高く高くジャンプする。

案の定、放たれた炎は全て地上に集中している。

イルヴィオラは俺が地上にいると思い込んでいる、そこからイルヴィオラの頭上にロングダガーによる一撃を叩き込む!



「食らえ!!」



ロングダガーに闘気を集中させ、突き立てるとイルヴィオラの全身に衝撃が伝わっていく。

だが……



「やっぱ一撃じゃ足りないか!!」



俺はイルヴィオラの炎の翼が復活するのを確認する、ロングダガーを引き抜き再度突き刺そうとするとイルヴィオラはいきなり高速飛行を始め戦闘機のバレルロールのごとく身体を捻り俺を地上に落とす。



「と、振り落とそうとするよな!?」



俺は地面に着地をすると再びイルヴィオラは炎の翼を集め始める。



「幸平!!」



小鳥の声が聞こえる。

俺はまさかと思い振り返ると、俺の真後ろに海の家がある事に気付いた。

先ほどの炎攻撃の攻撃範囲は赤熱化している砂浜を見れば分かる。

この海の家が木っ端微塵に吹き飛ぶ、間違いなく。



「間に合ったようだね!」



男性の声が聞こえると思ったら海の家の屋根の上から男性が飛び降りてきた。



「あなたは?」

「通りすがりの顔のいい男さ! 今から魔導力によるシールドを張りたいんだけど手伝ってくれるかな? 私一人では海の家全てを覆い切れない」

「わ、分かりました!!」



この男の人が何者かは分からない、通りすがりの顔のいい男という自己紹介も分からない。

けど魔導力によるシールドも二人分ならかなり大規模なものができるはずだ。



『精霊よ、無辜なる友を救うため今一度我に力を授けたまえ! 守護天盾・セイントシールド!!』



男がエレメントコードの記述と詠唱を終えると魔力が拡散していき、俺はそこに魔力を上乗せしていく。

ありったけの魔力、これを使えばもはや闘気を練り上げることはおろか歩くことすらままならなくなるだろう。

俺は魔力を使い果たすと膝を地面につき、倒れ込む。

その瞬間、イルヴィオラの炎がシールドに吸われていくのが見えた。もはや熱すら感じないほどに無力化されている。




「お疲れ様、後は私一人に任せてくれていいよ。海の家の人々、彼を寝かせてあげてくれ」




イヴに斬られたおじさんを背負って行った男性が俺を担ぐ。




「ああ、分かった! さあ……歩けるか?」

「ありがとうございます。もう全然力が入らなくて」

「よく頑張った、さっきの男を倒したのも君なんだろう?」




俺は赤熱化した砂浜の方を見る、あれだけの炎に焼かれたのだとしたらもはや遺体も残っていないかもしれない。

けど、召喚獣は契約した人間が死んだらその存在を保っていられないという話を聞いた。

だとしたらイヴはどこに消えたんだ?



「さて、一撃で仕留めてみせようか」



男は鞘から柄を取り出すがその先にあるはずの刀身が見受けられない。が、その心配は必要なかった。

魔導力そのものが刀身を形成していく。



「弱点が分かりやすくて助かるよ、炎には冷気……基本だよね」



男の周囲には、いや男の持つ剣の周囲に冷気が収束していく。



「少年、起きているなら見ておくといい。いまから見せる剣技は魔導剣という」

「魔導……剣」

「詳しい原理はラングレイにでも聞いてくれ」



男が一瞬で距離を詰め、剣を振るうとイルヴィオラの胴体が横一文字に斬り裂かれる。

イルヴィオラの身体から冷気が噴き出しイルヴィオラは悲鳴を上げることもなく倒れ込む。

イルヴィオラは瞼を閉じるとその身体は粒子となって空へと消えていく。



「イルヴィオラの身体が……」

「召喚獣は肉体を持たない純粋なエネルギー体だからね」



男が納刀のため剣をくるりと回すと刀身は塵となって大気中へと消えていく。

なるほど、あの剣も召喚獣も同じように魔導力そのものという事だろうか?



「あの、あなたは一体?」

「通りすがりの顔のいい男、またの名をエルヴィン・ユークリッド。ラングレイの元にいるのだから名前くらい聞いたことはあるだろう?」

「エルヴィン・ユークリッド……? あなたが!?」



エルヴィンと名乗る男はニッコリと微笑む。

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