主人公になりたい人生だった
一ノ清永遠
異世界-クリアスワールド-
第1話 日常
この世界には『勝ち』と『負け』という明確な線引きをして、優劣を競い合う文化がある。
この世界……いや、きっとここと異なる世界があったとしても生命体がいるとしたら優劣を競い合うのだと俺は思う。
俺は、誰かを蹴落としたいと考えるタイプでは無い。いや、無かった。
でも今ははっきりと勝ちたい相手がいる。
「それで、またやるんだ?」
「100m走。やるのはこの時期だけだろ」
炎のように真っ赤な色をした少々目に優しくないジャージに着替えている俺の宿命のライバル、
俺も学ランの上下を脱ぎ、自分の椅子にかけて目に優しくない真っ赤なジャージに袖を通す。
「幸平も熱心だなあ」
「熱心とかそういうんじゃない、負けっぱなしじゃ心根が腐っちまうだろ」
「適度に折れておいた方が心に優しいと思うんだけどな」
ジャージのジッパーを上げた和也は苦笑いをしながら俺に聴こえるようにそう呟く。
「和也、お前今年も俺が負けると思ってるだろ? 短距離走はまだ始まってすらいないんだ。短距離の授業はここから二週間くらい続く……その間に吠え面かかせてやるさ」
「……仮にキミに負けても吠え面はかかないと思うな」
やる気なさそうな和也を見てイラッとした俺はジャージのジッパーを一気に引き上げて強い語調で言った。
「吠え面をかけよ!!」
「かかないって……悔しくないんだから。でも、そうだな。もしも僕に勝てたら思いっきり祝うよ。キミが悲願を果たしたってことなんだから」
◆◆◆◆◆◆◆
それから約二週間後、俺と和也は短距離走のタイムを競い合って……結果から言えば俺は惨敗した。
和也のヤツはそこまで走り込んでいるわけではない、なので陸上部とかのガチ勢を相手に圧倒は出来ない。
むしろガチ勢相手には筋肉量や場数の点で負けてしまうことがほとんどだが、和也は自然と理想的なフォームを身につけて走る度にタイムが更新されていく。
そう、嶋村和也には苦手分野というものが無いのだ。何事も得意で、すぐにコツを見つけ出して自分のモノに出来てしまう生まれついての天才。
それが嶋村和也という男だ。
「残念だったね、あと少しだったのに」
「どこかあと少しだ!!」
何度も走る度にタイムを更新していき、最終的には1秒半くらい差がついていた。
しかも走れば走るほどスピードが伸びていくのが嬉しいのかどんどん楽しそうな笑みを浮かべて、俺は走れば走るほどに差が広がって苦しい表情が顔に出ていたと思う。実際フィジカル的にも苦しかったし。
「今回は俺の負けだ」
「リベンジは来年春かな?」
「いいや、もうすぐ1学期の中間テストだ!! そこで5教科合計点数でお前に勝負を挑む!!」
テストが一週間前に迫っていることを思い出したのか、周囲の生徒たちがため息を漏らしたり大袈裟に悲鳴をあげたりしている。
が、そもそも1学期の中間テストなどまだまだ序の口。なにせ五教科分しかテストをしないし二年生に進級してからの範囲からしか出題されないから非常に楽だ。
「懲りないね、キミも」
◆◆◆◆◆◆◆
それからまたまた一週間ほどの流れ、一学期の中間テストの結果が出された。
漫画のように『バアアアアァァァァ〜ン!!』と掲示板に張り出されるのではなく、担任の先生から直接テスト結果が記されている細長い紙が手渡される。
俺としては直接漫画のように『バアアアアアァァァ〜ン!!』と張り出してくれても問題ないのだが、恐らく時代がそれを許さないのだろう。
「和也、心の準備はできているな?」
「心の準備も何も、僕は勝っても負けてもリスクとか背負わないからなんでもいいんだけど」
「いくぞ……せーの!!で、結果用紙を開くんだ」
「結果、見てないの?」
「和也に見せるまでは見ないようにしていた」
「律儀だなあ……」
どうやら和也の方はすでにテスト結果を見ているらしいが、そんなことは関係ない。
ただ、示された結果だけが全てなのだ。
「いくぞ……」
「「せーの!!」」
ドンッ!!
という効果音を脳内で鳴らし、互いのテスト結果を確認する。
非常に小さな紙なのでよく見ないと数字が読み取れないので割と間抜けな絵面になっていると思う。
「が……」
和也のテスト結果を見て俺は思わず慄く。
そう、何故ならこの嶋村和也という男は五教科全て満点、つまり500点満点を取り必然的に学年1位の座を手に入れてしまっている。
それに対して俺は「5教科488点」という色々惜しい結果になってしまった。
「ケアレスミスが多いのかな、きちんと提出前に回答を確認した方がいいよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
和也の奴が学年1位になることは分かりきっていた。流石に満点1位というのは想像していなかったけど。
まあ正直、俺の地頭で勝負出来る相手じゃないとは分かりきっていたけど……それでも、アイツに一度で良いから勝ってみたい。そう思うことはいけないのだろうか?
「つ、次は……美術の課題が出される予定だったよな?」
「うーん、美術って点数を比べ合うものじゃないと思うけど」
「それでも、点数は出るだろう」
「……まあキミが納得できるならそれでもいいよ」
まるでワガママをいう子供の相手をするように、和也は仕方なしにその勝負を受ける。
「そうだ。キミは勝負だ勝負だって言いながらリスク無しに勝負を挑んできてるよね? どうせならお互いにリスクを背負うために罰ゲームを用意しない?」
和也は突然思いついたように提案してきた。
しかも、こいつが好きなアクションゲームをプレイする時と同じ表情をしている。
どうやらいちいち勝負を持ちかけてきては負けてめんどくさくなる俺を牽制したいらしい。
「罰ゲームってなんだよ?」
「身体をいじめるのもメンタルにダメージを負わせるのも僕の趣味じゃないから……そうだな、幸平の好きな人を教えてよ」
◆◆◆◆◆◆
美術の授業の課題は色鉛筆画なので、スケッチブックと色鉛筆入れさえあればどこででも作ることが出来る。
テーマは「風」であり、現実に存在しない風景でもOKとなっている。
とはいえ、参考資料も無しにパッと構図が思い浮かぶほど絵に慣れていないので図書館で本でも借りようかと思い放課後すぐに市立図書館へと赴く。
図書館は夜の6時には閉館してしまうので急ぐ必要があった。
「あれ、幸平」
「小鳥……」
たまたま家が隣同士で、たまたま同じ年に生まれて、なんとなく同じ高校を選んだ……そういう、腐れ縁的な関係だ。
「図書館に用事?」
「……美術の課題、良い参考資料が無いから探しにきたんだ」
「なるほど。っていうことは、また嶋村くんに楯突いたんだね」
「楯突いたって、アイツが王様みたいに言うなよ」
そうだ、そういうのが俺は気に食わない。
確かに運動も勉強もなんに関しても優れているかもしれない。
でも、だからといってその優れた人間の下位互換で収まっているつもりはない。
「でもさ、いい加減に諦めた方がいいんじゃないかな? その方が幸平だって気持ちが楽になるんじゃないの?」
「そんなわけないだろ、負けたら俺はずっと腐りっぱなしで終わる」
俺は小鳥を背に図書館へと向かおうとすると、小鳥に呼び止められる。
「あ、あのさ。嶋村くんって最近どうしてる? 進級でクラスが離れちゃったから、最近ちゃんとお話し出来てなくて」
「……最近出た新しいスマホゲームやり込んで、無課金でプラチナランクになってた。ああ、それからテストで学年一位になったり短距離走で陸上上部相手に健闘してた」
「相変わらずなんだ、嶋村くんも幸平も」
「けど、次は俺が勝つ」
「本当に変わらないなあ」
そう呟くと小鳥はどこか嬉しそうな声色の声を上げる。
俺と小鳥は生まれた時からずっと同じ時間を過ごしてきたけど、そんなに印象が変わらないものなんだろうか?
「俺、そんなに成長が無いか?」
「成長はともかく、昔から負けず嫌いだよね」
「当たり前だ。負けてる奴は負けてる奴なりの人生しか送れない。人生は勝負の連続なんだ、だから俺は勝つ必要がある」
「はいはい、ほどほどに頑張れ」
これは小さい頃からの俺なりの持論なんだが、これを語るといつも小鳥は「はいはい」といった感じで会話をキックする傾向にある。
まあ、こちらも急ぎだったから別に構わない。今俺に必要なのは、美術の課題の参考資料なのだ。
◆◆◆◆◆◆◆
俺の周りがザワザワし始めたのは課題の提出が迫ってきた頃だった。
嶋村和也という男は容姿端麗、文武両道、清潔感があり性格も柔和、嫌でも目立つ生徒なので連日で無断欠席をすれば嫌でも目立つ。
「嶋村のヤツ、重い病気に罹って登校出来ないのかな」
「実は彼女がいて、刺されたって聞いたけど」
好き勝手な噂を知りもせずに流されるのははっきり言ってイライラする。
まあ俺もどうして和也がずっと休んでいるのかは分からないのだが、明日が美術の課題の提出日なのでこのままでは俺の不戦勝になってしまう。
「夏樹くん!!」
不戦勝になったらどんな罰ゲームをやってやろうか考えていると、突然背後から圧力強めの声で怒鳴られた。
俺はビクッ!!と、思いきり背中を震わせてしまい恥ずかしさもあって恐る恐る振り返ると、クラス委員の
「嶋村和也くんがここ一週間も欠席を続けている理由を知っているのではないかしら?」
本人は隠しているつもりだろうが、クラス委員の飯田さんは和也のことを好きだということをまるで隠し通せていない。そう、行動から言動から「嶋村和也へのLOVE」というものが漏れ出ているのだ。
和也はニコニコしながら彼女とのおしゃべりに興じることはあるが、和也のことなので彼女の好意を知った上で対応しているのだろう。
「……まあ、確かに和也とはプライベートで遊ぶこともあるし行きそうなところに心当たりはなくも無いけど」
「ではそこに連れて行きなさい!!」
「あ、いやでも単に体調崩してるかもしれないし。メール入れてみるよ」
なんで俺がクラス委員に命令されにゃならんのだと思いつつスマホを取り出し、飯田さんを一瞥する。
「休み時間なので特別にスマホの操作を許可します」
「サンキュ」
俺はメッセージアプリを開き、いつもの調子でメッセージを送る。
『おい、いつまで休んでんの?』
少し経ってから既読と表示され、入力中と表示される。
「お、既読ついた」
「本当ですか!? 見せてください!!」
飯田さんが俺のスマホを覗き込む、度の強いメガネをかけているだけあって画面と顔が近い。
「おい、とはなんですか!?失礼な!!」
「別に良いだろ、友達なんだから」
「いいえ、あなたと嶋村くんには人間としてランクの違いが──ん?」
飯田さんは怪訝な表情を浮かべ、俺にスマホを突き返す。
『縺斐a繧薙∝ヵ縺ッ莉翫け繝ェ繧「繧ケ繝ッ繝シ繝ォ繝峨▲縺ヲ縺�≧荳也阜縺ォ縺�k縺九i谺。縺ッ縺�▽蟄ヲ譬。縺ォ陦後¢繧九°蛻�°繧峨↑縺�s縺�縲�
縺ソ繧薙↑縺ォ縺ッ隰昴▲縺ヲ縺翫>縺ヲ��シ�」
「なんですかこれ、気持ち悪い」
「文字化けを起こしてるな、少し待って。確か文字化けを起こした文章を日本語に変換するサイトがあったはずだ」
文字化けが起きる主な原因は文字コードが一致しないことが原因だ、メッセージアプリの不具合により文字コードの変換が起きてしまったのだろう。
先ほどのメッセージをコピーして、文字化け復元サイトの窓にペースト。
『ごめん�?�僕は今クリアスワールドって�?��世界に�?��から次は�?��学校に行けるか�?��らな�?���?�?
みんなには謝っておいて??�?』
変換は一瞬で終わるが随分と不可解な文章が生成された。
「クリアスワールドっていう異世界って言いたいのか? そもそも、異世界にいるなら電波が通じるわけないだろって」
これだけ心配されているのにふざけている場合ではないだろう。
俺はクリアスワールドとやらはさておき、メッセージを続けて送るが一向に既読がつく様子はない。
「……多分、風邪をひいたか何かで体調を崩しながら新作のゲームにハマった。ってところじゃないか?」
「なら放課後、プリントやら何やらを持って行きましょう」
「あー、そうだな。説教がてら俺が行くよ」
「ダメです!! 私も行きます!! 心配です!!」
「そ、そう……」
◆◆◆◆◆◆◆
そんなわけで俺は嶋村くんの住んでいる家へ、飯田さんとどこかで何かを聞きつけた小鳥を連れて向かうことにした。
女子二人に挟まれた男子高校生、傍から見れば羨ましい限りだろうがこの二人は俺のことなど眼中になく俺と親しい嶋村和也を目的に行動しているので俺自身としては全く嬉しくない。
そして何より悲しいのが、この二人が好意を向けている嶋村和也は二人に対して恋愛感情など微塵も抱いていないことだ。
「結構立派なマンション、なんですね」
一部屋一部屋が広そうで、中庭があるのは当然で住民専用のリラクゼーションルームまであるガチガチのセレブ専用マンションだ。
嶋村くんは海外で仕事している両親と離れてここで一人暮らしをしているのだ。
「インターホン、こっちだよ」
「は、はい」
ウロウロしている二人を引き連れて嶋村くんが住んでいるB棟へと移動する。
嶋村くんが住んでいる503号室のボタンを押して応答を待つ。
「はい」
「あっ」
聞いたことのない女性の声に驚いてしまう。
「し、嶋村和也くんのお宅で間違いないでしょうか!?」
「ええ、嶋村ですがどちら様で?」
大人の女性相手にドギマギしている俺を見て小鳥と飯田さんはクスクスと笑っている……というか、声が漏れている。
「私、
「少し、待ってもらって良いかしら? 今、鍵を開けますので」
ガチャ、と通話が切れる音がするとオートロックのガラス扉が開いた。
俺が扉の先に進むと二人も黙って着いてきた。
「和也のヤツ、一人暮らしだと思ってたんだけどな。声の感じからしてお姉さんか、お母さんか?」
「一人暮らしなんですか?」
「ああ、そう聞いてるよ。親父さんが劇伴作家……ええと、映画やドラマのサウンドを作ってて、お母さんが画家なんだ」
「ろ、ロイヤルブラッド……」
「二人とも、海外に住んでるからなかなか家に帰ってこない。だから基本的には和也は家で一人のうのうと暮らしてるってわけ」
だから和也の家に女の人がいるとは思わなかったし、驚いてしまったのだが。
◆◆◆◆◆◆◆
「家にいない、ですか? だって、もう一週間くらい学校を休んで……」
「もうそんなに休んでるの?」
「ええ」
家にいたのは和也のお母さんで、和也のお父さんは時差ボケでベットでグースカ寝ているらしい。
「そういえば和也の机に置いてあった紙切れなんだけど、これの心当たりあったりする? 筆跡が一番新しいんだけど」
和也のお母さんはポケットから紙切れを取り出して見せてきた。
というか、大人の女性がポケットから紙を取り出すの、俺には不慣れな光景だ。
「これ、地図か?」
「見せて」
飯田さんと小鳥は地図を見ては首を傾げる。
俺はそれをよく見ると、和也のメモにある既視感を抱く。
「これ、赤い印がついているところ。近くに銀行ATMと百均があって……間違いない。裏通りのゲーム屋だ!」
紙切れに記された地図らしきものはだいぶ簡略化されているが、それを示す場所は俺と和也がよく遊びに行っていたゲーム屋だ。
そこにはいわゆる『デュエルスペース』もあり、気軽にカードゲームで遊んだり出来るし、店の地下にはレトロゲームを試遊できるスペースまであるから暇をすることがない。
もっとも、あくまで『試遊』なので一人30分までという制限はあるのだが。
「行ってみましょう!!」
「行こうよ!!」
案の定二人から圧力をかけられる……正直可能性は低いとは思うのだが、行ってみることに俺も異論はない。
和也を無事に発見出来るようになるまでこの二人もいつまでも圧をかけてきそうだし、和也との勝負が不戦勝になるのは俺も本意じゃない。
「あの、もしもあんまり帰ってこないようなら警察に連絡、入れた方がいいと思います」
飯田さんがそう言うと、和也のお母さんに「その地図が空振りだったらそうする」と言われてしまった。
つまり、俺たちが和也を発見出来なかったら警察沙汰ということだ。
◆◆◆◆◆◆◆
裏通りのゲームショップは開いているものの異様な雰囲気に包まれていた。
客はいない、店員もいない、鍵はかかっていない、空調も効いている、有線放送はかかりっぱなし。
極めて不用心な状態なのだがこの不気味さ、不自然さを表現するなら店はそのままに客も店員も姿を消してしまったような……そんな違和感がある。
「不用心、ですね」
「地下に降りよう、地下にも誰もいなかったらバックヤードに」
「え、ええ……地下、バックヤード……」
この異様な雰囲気で地下へ続く階段を降りるのは勇気がいるだろう。気付けば飯田さんは俺の背中へ隠れるような姿勢をとっている。
「大丈夫、地下はレトロゲームとその互換機、アクセサリを売ってるだけだから」
「そ、そうですか」
地下へ降りると、なにかゴウゴウと巨大な冷房でも動いているかのような物音がする。
そして、地下では不可解なことに電灯が全て消えていて空調も効いていないようだった。
「な、なんか思いっきり不気味な雰囲気だけど!?」
「ここで何かがあったんだ。きっと、何か大きな事件が」
一週間もこのままの状態になっているというも何とも変な話だが、和也が絡んでいるのならこのまま放ってもおけない。
「おや、結界を通り抜けることができるなんて。不備でもあったのかな?
それとも結界を突破出来るだけの適性があるのか」
女性の声、話し方は中性的に思えるけど姿は暗いせいでよく見えない。
いや、外套と襟巻きで意図的に姿を隠しているようだ。
「キミ、名前は?」
「お、俺に聞いてるのか?」
「いいや、そこにいる全員さ」
「それになんの意味がある?」
「意味? 君たちが死なないため、だと言ったら答えてくれるのかな」
これは脅迫だ。答えなければ殺す、ということだろう。
あのマントを羽織った顔のよく見えない女が俺たちを殺すのだ。
「俺は夏樹幸平」
「夏樹幸平……いい名前だね! そっちの真面目そうな眼鏡ちゃんは?」
眼鏡をかけている、と言うことは飯田さんのことだろう。
「飯田恵、です」
「うん、いいね。名乗ることに躊躇いがない」
外套の女は残る一人に顔を向け、問う。
「そこの小柄なお嬢さん、君のお名前は?」
「美咲小鳥」
「綺麗な名前だねえ、ありがとう」
俺はここに来た最大の目的を果たさなければならない。あの外套女に和也の居場所を聞かなければならない。
「アンタに、聞きたいことがある!!」
「うん、何かな? 心残りがないように答えられることなら答えるよ」
「心残り……っ!! 嶋村和也を知っているか?」
「嶋村……ああ、和也くんか! よく知っているとも!!」
やっぱりこの女は和也と繋がりがある。だが、もう一つ聞きたいことがある。
「ここの店の人はどうなったんだ? 生きているんだろうな?」
「さあ、生きているかもしれないし死んでいるかもしれない。でも、そうだね……この世界にはいないんじゃないかな? 彼ら、飛ばされちゃったから」
外套女がそう言うと指を鳴らし、地下空間の中央部に巨大な光る球が浮かび上がる。
すると、その光る球に俺たちの身体が引っ張られていく。まるで巨大台風に呑まれた街を歩いているような感覚だ。
ゴゴゴ……と凄まじい轟音を放ちありとあらゆるゲームやら攻略本やらが光る球に吸い込まれていく。
「飛ばされるって、これにか!?」
「そうだよ。ああ、そうそう嶋村和也くんも君たちが飛ばされた先にいると思うよ?」
「和也が……!!」
その名前を聞いた瞬間に俺の身体が光る球に吸い込まれそうになるも、俺は咄嗟にポールに捕まる。まだだ、まだ聞かなければならないことがある。
「アンタ、何者だ!? この球体と、嶋村和也と、異世界ってところとなんの関係があるんだ!?」
「そうだね、名乗ってなかった」
彼女がそういうと外套のフードを取り払い、姿を見せた。
「ボクの名前は城戸桜、ただの天才さ。でもそうだな、君の質問に答えるのはもう一度再開出来た時にしようか。君ももう、耐えられそうにないし」
城戸桜、と名乗った人物が再び指をパチンと鳴らすと光る球の吸引力がさらに強くなった。
小鳥の身体が飛ばされ、光る球に呑まれた瞬間に俺は手を伸ばして手を繋いだ。
「おお、仲が良いね」
「飯田さん!! 俺か、小鳥の手をッ!!」
「え、ええ!!」
しかし、飯田さんは飛ばされた時に腹部を棚に強打してそのまま光る球に吸い込まれてしまった。
俺は飯田さんを追うように小鳥の手を繋いだまま光の球へと飛び込んでいった。
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