第二部 第四章 木霊の森の、霧の向こうの古代樹
第十三話 森の入り口の町オルマヌアーズ
「おーい、ジャナーン! ジャナーン、どこにいるんだーい」
ジャナンに何かあったのではないかと、マリクは心配で心配で、一生懸命に彼女を探しましたが、彼の声は森に
たくさん歩いて疲れてしまい、休憩しようとしたそのときでした。
「うわあ!」
片足を誰かに掴まれたかと思うと、上に持ち上げられ、マリクは逆さまにぶら下げられてしまったのです。
よく見ると、彼の足は植物のつるを使ったロープに縛られていて、そのロープは木の太い枝に引っ掛けられていました。
「かかったな、よそ者。お前をこれから族長様のところへ連れていく。大人しくするんだな」
緑色の絵の具を顔に塗り、槍や弓を構える男たちが何人も木の影から現れ、マリクは捕まってしまったのでした。
〔英雄王マリクの冒険・第八章より〕
ゲチジがちゃんと動くのを見届けたジェサーレとセダと、そして犬のジャナンは、翌朝には次の目的地に向けて出発することになった。
二人と一匹にたくさん遊んでもらったジェレンとゲチジは寂しそうに泣き、ダムラもつられて涙ぐんでいる。
ロクマーンは「ありがとう、ありがとうな。本当に助かったよ」と、二人と一匹に何度も何度もお礼を言っていた。
そのせいで乗合馬車の時間に遅れそうになってしまっていたが、ロクマーンの、とある提案で逃げる様に立ち去ることができた。
「ジェサーレ。ジェレンを嫁にやるからうちの子にならないか? まだ四歳だけど」
ジェレンも嬉しそうな顔をするが、ジェサーレは困惑した表情を浮かべ、セダに顔を向ける。すると彼女は「好きにすればいいじゃない」と何故か頬っぺたを膨らませ、そっぽを向いてしまった。
だからジェサーレはほとほと困り果てて、「ま、また今度。それじゃあ、さようなら」と返事になっていない言葉を残して、乗合馬車に駆け込んだのだった。
「えーとこの後は、アイウスの町まで行ったら、そこからは船に乗ってギュネシウスの町まで行って、そこで木霊の森に行く方法を調べる、ってロクマーンさんが言ってたよね、セダ」
「知らないわよ。好きにすればいいじゃない」
「ええ……なんで怒ってるの?」
「お、怒ってなんかないわよ……きゃ」
「わふ、わふ」
頬っぺたを膨らませていたセダも、ジャナンに嬉しそうにむくれた頬っぺたを舐められてしまえば、もう
その後はいつも通りのセダに戻り、二日かけてアイウスの町に到着した頃には、もうすっかり商店の品物や景色を楽しむことに夢中になっていた。
壁が白く屋根がカラフルだったアイナの町とは違い、アイウスの建物は壁も屋根も水色やピンク色や黄色で、見ているだけで心がうきうきとしてしまう。
しかし、アイナと違ってアイウスには坂がほとんどなく、港の近くまで行って、ようやく海が見えてきた。
グンドウムから見えた海も、ここアイウスから見える海も、同じ銀の海という名前ではあるが、石造りのカラフルな建物と多くの人の賑わいで、ジェサーレとセダの目には海の色まで派手に見える。
「あれかな?」
すっかり機嫌がよくなったセダが、大きな
「多分……違うかな」
ジェサーレも初めてこの町に来たのだから、これから乗る船がどれであるかなど、すぐに分かるはずもない。
だが、大きな帆船は他の大陸へ行くものだということは、知っていた。
その後、港の案内板や、乗船券売り場などで確認をして乗り込んだ船は、結局、セダが指さしたものの半分ほどの大きさだった。
それでも、ジェサーレには問題ではなかった。セダの機嫌が悪くならなかったのだから。
陸地が見える距離での船旅は順調に進み、翌日の朝にはギュネシウスの港町に到着した。
ギュネシウスでやることと言えば、木霊の森への道を尋ねることであったのだが、そちらも宿泊する宿の主人からすぐに聞くことができ、鼻息を荒くしていた二人と一匹は、そのまま上機嫌でギュネシウスの町を散策した。
そして翌朝。
優しそうな宿屋のおじさんから聞いた情報を頼りに町の南門付近に行くと、やはり教えてもらった通りに、木霊の森にほど近いオルマヌアーズの町へ行く乗合馬車の停留所があった。
「えっと、これに乗れば木霊の森まで行けるね」
「違うわよ、ジェサーレ」
「あれ、そうだっけ?」
「正しくは、木霊の森の近くのオルマヌアーズという町まで行ける、でしょ?」
「あ、そうだったね。オルマヌアーズに着いたら、また木霊の森のことを聞かなきゃいけないんだった」
その名前を知らない人がいないくらい、木霊の森は有名な場所ではあるが、王都からはとても遠く、その王都の近くに住んでいる人々にとっては、噂話も入ってこないような場所だった。
それだけに、森の近くに住んでいる人たちから、あれこれと情報を集めなければならない。
ギュネシウスから乗合馬車で移動すること二日。
まずは六本のとんがった塔と大きな壁に囲まれた町が見えてきた。
「あれがオルマヌアーズだね」
「違うわよ。あれはカユツの町よ。
「むぐ」
「わふん」
そんなやりとりもありつつ、大きな港町ギュネシウスを出てから四日後には、街道の脇にどんどんと木々が増えていき、オルマヌアーズの町に到着する頃には、すっかり木霊の森の中を進んでいるような気分になっていた。
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