40. ひどい記憶でした
「……シャ! サーシャ!
しっかりしろ!」
「……アドルフ様?」
「ああ、アドルフだ。良かった、気が付いたんだね」
すっごく自分勝手な人になる夢を見ていた気がするわ……。
夢の内容は今でも細かく覚えている。
「私、どうなっていたのですか?」
「記憶石の破片に触れた瞬間、気絶するように眠ってしまったんだ。頭は打っていないから大丈夫だと思っていたが、目が覚めて良かったよ」
そう口にするアドルフ様。
意識がはっきりしていくにつれて、直前の出来事も思い出してきたのだけど……。
「私、どれくらい眠っていましたの?」
「まだ10秒しか経っていない」
「そうなのですね。ご心配をおかけしてしまって申し訳ないですわ」
頷きながら周りを見てみると、ちょうどリリア様が記憶石の破片で首を切ろうとしているところが目に入った。
慌てて風魔法を使って、握られていた記憶石を弾き飛ばす私。
この行動で驚かせてしまったみたいで、視線が私にも集まってしまった。
今の私はアドルフ様に抱きしめられている状態だから、少し恥ずかしい。
「……気にしなくて良い。ところで、今の魔法は何だ?」
「リリア様が石の破片で首を切ろうとしていましたの」
「そういうことか。良く気付いたね」
「リリア様の考えていることを見られたので、すぐに分かりましたの」
「記憶石にはそこまでの力があったのか」
驚き半分、感心半分といった様子で口にするアドルフ様。
私も記憶石の力がここまでの物だとは思っていなかったから、少し戸惑っている。
でも、そのお陰でリリア様の力の効果も分かったから、本人に聞こえないところでアドルフ様や国王陛下達に共有することに決めた。
「陛下、リリア様の力が分かったので、皆様に共有しようと思いますの。
場所を移して頂けないでしょうか?」
「良いだろう。では、リリアを地下牢に連れ戻せ」
「畏まりました」
陛下の言葉で、騎士さん達に檻ごと連れていかれるリリア様。
そんな様子を見ていたら、私だけがリリア睨まれていることに気付いた。
「救えないな」
「ああ」
リリア様の姿が見えなくなると、陛下が私を近くに来るようにと手招きしてくれた。
ここ、玉座の隣なのだけど!?
どうやら、ここから全員に聞こえるように説明しないといけないらしい。
何もしないで立ってるだけでも緊張するのに、説明するなんて無理よ……。
「サーシャ、お願いしてもいいだろうか?」
「はい。
では、記憶を覗いて分かったことだけを説明しますわ」
喉から心臓が出るような錯覚がするけれど、なんとか堪えて説明を始める私。
「リリア様の力は、女性と王族には絶対に使えません。
あの力は、一瞬で全身を毒で犯し、洗脳し忠実に命令を聞き入れる奴隷のように思考を変える働きをするみたいなのです。
だから、王家の血を引いている人は絶対にかからなかったのだと思いますわ」
「奴隷のように命令に従う、か。確かに、騎士達が不正に走った理由もこれで納得が出来る。
刑罰の時に、男性が関わる場所に入れられないことも分かった」
陛下はリリア様の処遇を早く決めたいみたいで、刑罰に関わることを話し始めた。
これ以上毒牙にかかる人を出さないようにするためだと思う。
この場にいる人達も同じ考えみたいで、色々な案が飛び出している。
「女性だけを集めている鉱山があったはずですが、どうでしょうか?」
「鉱山では逃亡のリスクが大きすぎます。男子禁制の修道院に入れて、心を清めさせつつ、国のための労働をさせるべきでしょう」
「離島に流刑というのは如何でしょうか?」
「自殺をさせてはならないのだ。監視が難しい場所には流せぬ」
そんな感じで、有名なところから過去に例が無いものまで、20個近く挙げられた。
でも、自殺をさせるわけにはいかないから、修道院の窓を塞ぐ工事をしてから、刑を執行することに決められた。
「サーシャ、これで問題は無いかな?」
「はい。最善の選択だと思いますわ」
私が頷いたところで、リリア様の処遇が正式に決まることになった。
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