22. ヴィオラside 止められない綻び①
この悪夢は、これからの未来を示していると思えるものだった。
始まりは今日なのだけど、私が行動を変えたからか、出来事は少し変わっている。
けれども、悪夢になった原因――リリアには変化は起きていないはず。
そう思っている。
事の始まりは、リリアがお兄様を誘惑することを諦めたことだった。
諦めた彼女が狙いを定めたのは、お兄様以外の殿方全員。もちろん靡かない人の方が多かったけれど、それでも4割くらいの人が毒牙にかかってしまった。
「あの娼婦はいつになったら殺されるのかしら?」
「さぁ? 明日になったら行方不明になっているかもしれませんわね?」
もちろん婚約者を誘惑されたご令嬢達が黙っている訳がなくて、けれども相手に公爵家のご令息もいたから、ヒソヒソと噂話をしているだけ。
でも、怒りがそれで収まるなんて都合の良いことにはならないから、私達のクラスの雰囲気は悪くなっていった。
「リリア嬢のせいで楽しくないな」
「ああ、みんな笑わなくなった。今はカフェテリアで談笑するヴィオラとサーシャ嬢を遠くから眺めるのが唯一の楽しみだよ」
「そんなんだから婚約者が出来ないんだぞ?」
「ソーラス、俺が婚約していることを知ってわざと言っているのか?」
普段は明るい私の婚約者、ソーラス・オーシャン侯爵令息様の友人との会話も暗くなってしまった。
ちなみに、ソーラス様はリリア対策で男色疑惑を広めていて、普段は少し離れたところから私を見守ってくれている。
彼と目が合うだけで私の頬は緩んでしまうから、サーシャに隠すのは少し大変。リリアの興味すら惹かないのは嬉しいけれど、寄り添えないから少し寂しいわ。
「冗談だよ。やってることが変人と同じだから揶揄っただけだ」
「まったく、俺は今すぐにでもヴィオラを抱きしめたいんだから、揶揄うのはやめてくれ」
「幸せそうだなぁ?」
「幸せの真っただ中のケルヴィンには言われたくないな?」
ちなみにこの三人の殿方――ソーラス様とケルヴィン様とユリウス殿下は、男色疑惑に三角関係の噂まで流れているけれど、蓋を開ければ婚約者を溺愛している優しいお方。
見ていると少し複雑な気持ちになるけれど、配慮の結果だから文句なんて言えない。
お兄様はというと、サーシャのお兄様に目を付けたみたいで、男色疑惑を広めている最中らしい。
女性が苦手と公言していたからか、簡単に信じられているみたいだけど……。
リリアが居なくなったら、噂を消せるのかしら?
噂が消えても、ネタとして一生付いて回る気もするわ。
学院では楽しく過ごせなくなったけれど、私もサーシャも学院が終わってから婚約者とお茶会を開いたりして、親交を深めている。
今日の会場は王宮で、ユリウス殿下が主催される。
そこでリリアの毒牙にかかっていない殿方と婚約者の私達で集まって、リリアの対策を話し合うことになっている。
リリアがサーシャを敵視していることしか今は分かっていないけれど、その理由だけでサーシャが責められることは無いから安心して参加できるのよね。
「今日は陛下もいらっしゃいますのね」
ふと、誰かが呟いてからは、全く安心出来なくなってしまったけれど。
陛下が恐ろしいからではなくて、この事態が王家も動く重大事態だということを実感して怖くなってしまったのよね。
陛下は基本的にお優しい方で、多少の失敗なら見逃して下さる。
けれども、失礼は起こさない方が良いことに変わり無いから、緊張してしまう。
それなのに、サーシャは緊張なんてしていない様子。
いえ、むしろ喜んでいるわね……。
「少し陛下と話してくるわ」
「分かったわ」
国王陛下の姪だから、親しくて当然。けれども、こうして余裕そうな様子を目の当たりにすると別世界の人のように思えてしまう。
そんなサーシャの友人でいられる私は、恵まれているのかもしれないわ。
楽しそうに陛下とお話しているサーシャを見て、そんなことを思ってしまう。
このときの私は、夢の中で幸せが綻び始めていることを知らなかった。
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