11. ダリアside 救えなかった人①
夢の中では、サーシャ様がオズワルド様との婚約は解消されていませんでした。
だから、これはサーシャ様が見ていた悪夢と同じ世界なのだと、私は結論付けています。
この悪夢の始まりは、私ダリアがお仕えしているサーシャ様の懐妊が発覚したところから始まりました。
今まで影の無かったリリア様が別邸に出入りするようになったのです。
当然、私もサーシャ様もオズワルド様に文句を言いました。
「サーシャ様は不安を感じられる時期なのですから、愛人作りはお止めください」
「何故止められないといけない? 腹の子が無事に生まれる保証は無いのだから、跡継ぎを確実に残すためにも側妻は必要だ」
けれど、私達の言い分は全く聞き入れてもらえず、今まで以上に堂々とリリア様を側に伴うようになってしまいました。
流石に本邸に連れ込むようなことは無くても、中庭でイチャイチャしている様子はサーシャ様の目にも入っています。
「私は信用されていなかったのね……」
「そんなことは……」
中庭の様子を見ながら、サーシャ様が零した言葉を否定することは出来ませんでした。
それがどんなに悔しいことか、この屋敷に仕えている使用人達には分からないでしょう。
雇い主であるオズワルド様に逆らえないだけかもしれませんが……。
侯爵家でも命令を断ることは出来ますから、流石に有り得ないですよね。
そんな風に思っていたのですが、翌月に起こった出来事によって否定されてしまいました。
「今日もオズワルド様はリリア様と一緒なのね……」
「私の力が足りないばかりに、申し訳ありません」
「もう彼のことは諦めたから、気にしないで良いわ」
私達も中庭に出てお茶をしている時のこと。
オズワルド様達がイチャついている方向から何かが割れる音が聞こえてきました。
目線を合わせるつもりは無かったのですが、つい視線を向けてしまいます。
「熱いじゃない! あんな出来損ないはクビうお、クビ!」
「ああ、そうだな。君はもうここに来なくていい。リリアが火傷したらどうするんだ?」
「そんな、あんまりです! 普通は熱いお茶を淹れるのですよ!?」
「逆らうならお前もクビだ」
「なっ!?」
どうやら、原因は侍女が熱々のお茶を淹れたことのようですが……。
反抗しただけで突飛ばすというのは、たとえ当主で雇い主だとしても褒められることではありません。
「何よあれ……。私もあんな風に追い出されるのかしら?」
「寧ろ、その方が幸せだと思います」
「そうよね……」
あんまりな行動に、開いた口が塞がりません。
解雇を言い渡された侍女は茶器を投げつけられたようで、服の一部がお茶の色に染まっています。
もう1人の侍女は、割れた破片で腕を切ってしまったようで、血を流しています。
「……自由に外に出れたら、すぐに出ていくのに」
「オーフィリア家に助けを求めてみますね」
「ありがとう」
すっかり痩せてしまったサーシャ様を見ていると、悔しさで泣きたくなってしまいます。
もう何度も助けを求める手紙を出しているというのに、その手紙はどこかで燃やされて無くなっているのです。
オズワルド様は私達を飼い殺しにするつもりのようです。
その日の夕方。
中庭で後片付けをしている私の元に、珍しく1人で行動しているリリア様が声をかけてきました。
「あなた、あの女が連れてきた侍女よね? あなたもクビよ。ここから出ていきなさい!」
「何かご無礼がございましたか?」
『あの女を独りにするためよ。あなたさえ居なければ、あの女は死ぬのよ』
私が問いかけると、そんな声が聞こえた気がしました。
けれども、リリア様の口は動いていません。
「私が待っているのに世話をしなかったからよ」
「貴女様にはほかの侍女が付いているはずです。もしご不便がありましたら、主人のオズワルド様にお申し付けください」
「私が世話をしろと言っているのよ! 命令が聞こえないわけ?」
そんな声が聞こえたと思ったら、テーブルの上に残っているティーカップが飛んできました。
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