第160話 「身体のコリと心のコリ」

 「恭弥あなた若いのに、意外と身体凝ってるのねぇ」


 「そ、そうですか?」


 「かっちこちよ本当に。どんな苦労したらこうなるのかしら」


 全身を触診するように確かめていく彩香。


 「い、色々な女性トラブルに巻き込まれたり、ですかねぇ?」


 じいちゃんが死んでから動きっぱなしだったし。今思えばあんまり自分の身体をちゃんと気にしたことは無かったなぁ。


 「そ、そんなにやばい?」


 「控えめに言うけど、40代の中間管理職くらいの肩の凝りしてるねぇ」


 「まじか………」

 

 彩香がうりうり、と肩をもんでくれる、力を入れる為か、体重を載せて押してくる。

 肩コリが解されれていくのと同時に、前の方の凝りは大きくなっていく。

 

 それもこれも彩香のいい匂いが鼻腔をくすぐって、気持ちが高ぶるのが悪い。


 確信犯か?それとも成り行きか?

 

 ちらりと彼女の様子を窺えば、そんな俺の様子を楽しそうに鑑賞する彩香。

 これ絶対確信犯でやってるだろ。


 「ふふ」


 俺の様子に気付いてるはずなのに、彩香はただ笑みを浮かべたまま、身体のマッサージを続けている。

 

 かれこれ数十分は念入りに全身をしてもらってコリをほぐれていく。

 ……まぁ前の方のコリは高まっていく一方なんですが。

 

 ここ2週間ずっと発散出来てないから暴発してもおかしくないぞ?

 彩香さんの匂いが余計にこちらの感情を煽ってくる。


 「……恭弥の口数が減っている件について。いったいどうしちゃったのかなー?」


 ついでにその口も煽ってくる。

 絶対楽しくなってやってるなぁこれ。


 なんとか女性を意識しないように、会話を続けて気をそらす。

 

 「マッサージとかどこで学んだの?すごくコリが解されてる気がするんだけど」


 「これくらい保健教師なら当然のことよー?」


 さも当然です、とばかりに胸を張る彩香。


 「保健教師って言葉に便利過ぎない?」

 

 でも確かに似通ってるところがなくはない気もする。


 「資格とか取ってるわけじゃないけどね~……あとほ〜んのちょっと関係あるとしたらNAZ機関で学んだ人体解剖を基本として、肉体構造がどうなってるか把握してるからより、的確な場所を押せるってのがあるかしら?」


 「いやそれじゃね?」


 保険教師とかより、NAZ機関の基礎知識がでかすぎない?

 むしろ保健教師がおまけじゃない?

 

 「いえ大本は保健教師よ?」


 堂々とそんなことをのたまう彩香。

 どこからそんな自信が出てくるんだろう。


 「ぐ、具体的にどこら辺が?」


 「人を癒してあげたいという慈しみの心」


 「それ技術は全部NAZ機関ってことじゃ……」


 「あらー、腕とかも足も相当凝ってますねぇ」


 あ、都合悪い所、無視した。

 って………

 

 「いたたた!!」


 足つぼはやめて、マジでいたいから。

 笑顔なのに、つぼを押す力はどんどん強まっていく。

 なんですかこれドSですか?ドSですね?だから莉緒さんドMになったんじゃないですか?


 俺のギブにも一切反応せずに微笑みながら続けてくる。


 「ここは肝臓のつぼなのよ……恭弥飲みすぎじゃなーい?」


 「やめて?俺未成年だからエナジードリンクしか飲んでないから!」


 「飲みすぎ注意なのは変わらないんだよなぁ……」


 「翼が必要な時があるんだよぉ」


 「例えばー?」


 「……許嫁3人いてすごく緊張してるときとか?」


 「すごくピンポイントなやつきたねぇ」


 あの時は翼2枚はやしたもんなぁ。

 結果爆死だったけど、3枚だったらもっとうまくいったかな?


 「本数の問題じゃないねぇ」


 彩香は俺の足と腕をもみほぐした後は、最後に軽く頭をほぐしてくれる。


 「わぁ頭かっちこちだねぇ?恭弥色々考えてるしこの凝りも納得なんだけど」


 「あ゛ぁぁぁぁッ………sそんぁな考えてるつもりない点んだけどなぁ?」


 割と適当な人間なつもりなんだけど。


 「うーん、この頭のコリはそうは言ってないんだよなぁ」


 「あ゛~………あたたたたっ」


 だんだん力込めてきたぁぁぁ。

 頭は、頭は痛すぎるぅぅぅ。

 なんでこんな痛いんだよ彩香のマッサージ。


 「愛の力かなぁ?」


 「人の心読まないで?……あとこれ技術的なやつでしょ、絶対人体構造知ってるせい」


 「ロマンない事言う子にはこーう」


 「あだだだだっ?!」

 

 より力込めてきたんですけど!


 「はーいおわりぃッ!………この間にシャワーでも浴びて来たら?その間にご飯用意しておくし」


 「至れり尽くせりじゃんそれ……嬉しいけどやってもらってばっかも悪いし俺も手伝うよ………手伝えることがあればだけど」


 言ってて途中で思い出した。

 俺料理であんまり活躍できる気がしない。

 むしろ邪魔になる気しかしない、と。

 

 「あら、じゃあ手伝ってもらおうかな~?」


 以外に彩香の反応は好感触だった。


 「え、まじ?」


 「まじまじ、じゃあ早速手伝ってもらおうかな~」


 彩香の後について、台所へと向かう。

 台所は普段から料理している感じがすごくして、でもとてもきれいにされてた。


 ほぇ~とあまり入らない台所をみる。

 普段花咲凛さんは、【ここは私の神域なので】とか言って入れてくれないからなぁ。


 彩香は巻いた髪をヘアゴムで一つにまとめ、エプロンを付けていた。

 エプロンのおかげで彼女の身体の凹凸がくっきりとわかる。

 相変わらず大きいなぁ。

 

 「じゃあ始めよっか………私たちの初めての………共・同・作・業」


 

 意味深な言い方をする彩香。

 相も変わらず色気がすごい。だけど包丁片手に言うのやめようか、ヤンデレ感よも出ちゃってるから。怖いから。



 俺たちの共同作業が始まった。



 ────────



 1時間後。


 目の前には立派な料理の数々。

 手ごねハンバーグに、マッシュポテト。

 ビーフシチュー。洋風サラダ。



 今日の気分は洋風だったらしく、どれもいい匂いを漂わせている。

 一口口に料理を運べば、


 「うっまぁ」


 頬がとろけるほどにうまい。

 赤ワインで煮込んだからか味に深みもある。


 「共同作業したからね………二人の愛の味でしょー?」


 確かに共同作業した。

 したんだけど、それは結婚式のケーキ入刀のように二人でやるそれではなく。


 「共同作業というか、完全分業制だったけどね?!俺やったのは皿洗いと肉をこねるとか力いるところだけどね」


 果たして料理に貢献したと言えるのか非常にあやしい所。


 「適材適所ってことよ。それにほらよく言うじゃない?遠足は家に帰るまで、って。それと一緒よ。片付けも含めて料理なの」


 まぁ言ってることは分かるけど。

 

 「それにお皿洗いとか大変なのよね、特に肌荒れとかもしちゃうし。だからやってもらえるのはすごくありがたいのよ」


 美桜ねぇもおんなじこと言ってたな。


 「お互いに得意なことをすればいいのよ。そうやって補い合っていくのが、じゃないかしら」


 夫婦か。

 正直まだ見当もつかないなぁ。


 「わたしも経験したことないし分からないけどね、少し思うのはきっと夫婦って今みたいなものの延長なのかもしれないわ」


 「今の延長?」


 「そ、今日みたいに他愛ない話をして、お互いの不足を補い合って、笑い合う。特殊な何かじゃなくて、日常を分かち合っていくよ」


 日常を分かち合う、。


 「どう?私との愛人生活は想像できたかしら?」


 「そこは夫婦生活じゃないんだ」


 「そりゃそうよ私は愛人枠だから、夫婦生活で疲れた時の止まり木、みたいな?」


 にやにやとしながら俺の様子を窺う彩香。


 でも少し想像できた。


 「………色々と振り回される、俺の姿が想像できたよ」

 

 「ないとは言い切れないな~、でもそれだけじゃないんじゃない?」


 それだけじゃない?

 

 「きっと大事な時に振り回されるのは私たちな気がするわ、そしてなんだかんだ文句を言いながら君を支えてる気もする」


 それも容易に想像できてしまった。俺もたまに暴走するからなぁ。

 二人して苦笑する。

 

 「退屈しない毎日になりそうね」


 同感である。

 騒がしい毎日になりそうで、でも未来でも笑いあってるのが朧気に想像できた。今のみんなで。

 


 ────────



 ご飯も食べ終わり、話の通り皿洗いをして片付ける。

 ふと、彩香さんが皿洗いをする俺を後ろなら、首に手をまわして、抱き着いてきた。

 そのまま肩に頭をのせて、俺の顔を覗き込んでくる。


 どきりとして心臓が高鳴る。

 だけど彩香さんの雰囲気は妖艶、というよりは優しいオーラに包まれていた。


 不思議とこちらもその気をそがれる。


 「ねぇ恭弥_」


 「んー?」


 「さっきは身体のコリを解きほぐしたじゃない?」


 「うん」


 痛かったけど気持ちよくもあった。


 「だから今度は君の心のコリを軽くしてあげようかなって」



 俺の心のコリ………?

 そんなのなんて。


 「恭弥さぁ………」


 彩香は少し一呼吸おいて、


 「ハーレム制度、嫌いでしょ?」

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